ー第10話 小谷刑事
ー第10話小谷刑事
なすすべもない竹山の耳に、懐かしい声が響いてきた。
「分部。そこまでだ。」
顔を挙げた竹山の目には、信じられない光景が展がっていた。雨屋を囲むように、背広を着た男達が建物の影から湧き出てきた。真ん中に小谷刑事がいた。シワもなく白髪でもない小谷刑事が…。
「なんだ?。おめえは?。」
「岐阜県警捜査一係小谷だ。分部 豊、未成年者略取及び、婦女暴行の現行犯で逮捕する。」
「そんなわけねえ…お前に捕まえられる訳ねえ!。」
雨屋の扉近くにいた清美に、分部は素早く目を走らせた。
カーゴパンツの太ももにあるポケットからナイフを抜いて、若き小谷刑事に襲いかかった。しかし若き小谷刑事は、カミソリのような動きで、振り出されてくるナイフを握った手を押さえてひねると、ナイフはポロリと地面に落ちた。
そのまま背中に持ってゆき、もう一方の手とあっと言う間に手錠を掛けた。
「言いたい事は、署で聞こう。」
そう言った若き小谷刑事は竹山や息子の小谷刑事、かつての後輩達の方を見た。
「父さん!わかりますか…利治です。」
若き小谷刑事は、ウン?。とゆう顔になった。
「利治。お前は刑事になったのか?。」
「はい。父さんに謝りたい事があります。父さんが犯人は未来から来たと言った時…信じませんでした。で…ひどい事を言いました。頭がおかしいんじゃないかって。ごめんなさい。謝りたかったけど…父さん死んじゃって。」
小谷利治は泣き崩れた。しかし父は冷静に言った。
「なるほど…未来はそんな感じか。いいんだ。刑事はまず疑え。そして何故そんな筋の通らない話になるのか考えろ。そうすると正しい道筋が浮かび上がってくる。その裏を取って行けば、真実を自然と受け入れられる。こういう犯人も逮捕できるという訳だ。」
「小谷さん。すいません、自分も信じませんでした。」
県警本部長が言った。
「田島か?。えらく老けてるな…。ホシを追い込んでくれて感謝する。お前には公私共に助けてもらってるが…未来のお前も俺を助けてくれるとはな…この道路封鎖たいへんだっただろう?。よくやれたな、こっちこそすまん。」
若き小谷刑事は全員をもう一度眺めた。
「驚いたな。こっちに居る刑事が全員、向こうにいるぞ。まぁいい。」
少し間を置いて、小谷刑事は言った。
「捜査協力に感謝する!。敬礼!。」
向こうの刑事と、こちらの刑事が、同時に敬礼した。
そして、その姿がボヤケ始めた。モワッとした声で、トオルチャンと何度も叫ぶ声が、竹山の耳に聞こえてきた。竹山はボヤケてゆく雨屋に向かって、立ち上がった。
「清美、戻ってこい。戻ってこい。戻ってこいよー。」
ハジメが、その背中に手を回した。
雨屋は完全にボヤケ、クッキリし始めると交差点が戻ってきた。
「行ったな…。これでいいのか?とおる。」
「いいさ。いいんだ。あいつを愛する資格は、チクザンにはない。」
「そんな事ないよ。強がるな。」
竹山は、この同級生の優しさが身にしみた。もはや、週刊誌の記者に戻れない自分を感じていた。
竹山は、隣りに座っている小谷刑事に気付いた。
「小谷さん。おやじさんはすごいですね。まさか、過去と未来両方から追い詰めて、捕まえるなんて…。」
「おやじはね。清美さんの事で、ひどい事言われてたんですよ。役立たずだって…後から知ったんですけど。でも、潰れないで、とうとう捕まえた。息子に頭おかしいって言われても、時には頭がおかしくなるのも刑事には必要だって…。」
警察は引き上げ始めた。
人気のなくなった交差点に、竹山と小谷刑事、三ツ矢。そして清美の両親が、帰る事が出来ずに残っていた。
全ては終わったかに見えた。しかし、まだ終わっていなかった。
ー第11話君は戻ってきたにつづく!




