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第8話 初めての仲間と冒険者ギルド

 【豊かな銀樹亭】に戻るとマリーナさんが笑顔で出迎えてくれる。


 「おかえり、早かったね」

 「いえ、ちょっと色々あって。それから今日から2人部屋にしたいって言ったら変更できますか?」

 「ちょいと待っておくれ。うーん。明後日なら2人部屋が空くんだけど、今は空いてないね」


 帳簿を見ながらそう答えてくれた。空いてないものは仕方ないし、この子は小さいから一緒に寝たって大丈夫だろう。いざとなったら俺が床で寝ればいいか。


 「分かりました。とりあえず今の部屋でいいです。この子も一緒に泊まらせたいんですけどいくらになりますか?」

 「おや?その子は奴隷かい?奴隷なら小屋に寝かせればいいよ。小屋なら空いてるし無料だよ」

 「いえ、ちゃんと部屋で寝かせたいのでお金を取ってもらって構いません」

 「そうかい?お客さん変わった人だねぇ。それじゃサービスって事で1日銀貨4枚でいいよ」

 「分かりました。とりあえず2日分お支払いしますので銀貨8枚でいいですよね?」

 「はいはい。確かに」

 「またすぐに出かけますけど、一旦部屋に戻りますので鍵をお願いします」

 

 マリーナさんに鍵を貰って部屋に戻る。

 犬の獣人の子を椅子に座らせようとしたが、もじもじしていてなかなか座らない。

 どうしたんだ?もしかして俺に怒られると思っているのだろうか?そんなことで怒らないのに。

 俺はジェスチャー怒らないことを伝え、椅子に座らせる。落ち着いたところで鑑定だ。


 名前:メロリ

 種族:犬族(耳垂れ族)

 年齢:11歳

 職業:リュートの奴隷

 状態:【難聴】【心臓疾患】

 レベル:3

 HP:65

 MP:20

 スキル

 【嗅覚探索】熟練度:★

 【聴覚探索】熟練度:★

 【石投げ】熟練度:★

 <固有スキル>

 【獣化】


 ふむ、名前はメロリで年齢は11歳。まだまだ子供だな。状態は難聴と心臓疾患。この子耳だけじゃなくて心臓も悪かったのか。スキルはまぁ犬の獣人だから嗅覚聴覚探索が出来るわけね。しかし石投げってなんだろうな?そのまんま石投げることだろうか?

 固有スキルも【獣化】とあるが、どういうことなんだろう?機会があれば見せてもらおう。

 さてと、状態も確認したし万能霊薬エリクサーを飲ませるか。

 俺は無限収納アイテムから万能霊薬エリクサーを取り出し、メロリに飲むようジェスチャーで伝える。

 メロリは不安そうな顔をしていたが、意を決したのかゴクリと飲み干した。

 俺はもう一度鑑定をして状態が【良好】になったのを確認してからメロリに話しかける。


 「俺の声が聞こえるかい?」


 いきなり耳が聞こえるようになるんだからビックリしてしまうだろう。声のトーンを押さえ小声で話しかける。

 それでもメロリはビクッとなって俺の顔を見上げて大きな黒い瞳をこぼれんばかりに広げる。


 「き、聞こえます!ご主人様!」

 「それは良かった。万能霊薬エリクサーがちゃんと効いて良かったよ」

 「貴重なお薬をメロリの為にお使いくださってありがとうございます!」


 メロリはそう言って瞳からぽろぽろと大粒の涙を落とした。

 俺はメロリの頭を撫でながらタオルで涙を拭いてやる。耳が聞こえなくてきっと辛い思いを沢山したんだろう。拭いても拭いても涙は止まらなかった。


 「俺はたまたま持っていたのだから心配しなくていい。そうだ、俺の名前はリュート。これからもよろしくな」

 「メロリはメロリって言います。こちらこそよろしくお願いします。それにしても万能霊薬エリクサーはかなりの貴重なお薬なのです。高レベルの迷宮ダンジョンの宝箱しか出ないというものです。それをメロリに使ってくれたご主人様はとても凄いお方なのです」

 「まぁ遺言だしな」

 「?」

 「あ、いや何でもない」


 メロリは尻尾をフリフリしながら俺の話を聞いている。ジョニーさんの話や俺が万能霊薬エリクサーを作れることは内緒にしておいたほうがこの子の為だろう。こんな情報を持ってると知られたら俺はともかくメロリが危険に晒されることになる。だったら秘密にしておく方が安全だ。


 メロリと向き合い、じっと観察してみるとかなり可愛い顔立ちをしていることに気がついた。髪型は白金色のボブで、耳は耳垂れ族というくらいだから垂れ耳だ。耳の周りが薄茶色になっている。目はかなり大きくて黒い瞳でキラキラ輝いている。肌は今はちょっと薄汚れてはいるが洗えばかなり見違えるだろう。鼻は別に高くも低くも無い。口は小さくて薄紅色の唇だ。身体はまだ11歳ということもあり、かなり小さい。俺の身長が165cmなので大体140cmくらいだろうか。前の主人にはあまり食べさせてもらってないのか酷くやせ細っている。

 これはちゃんと食べさせてやらないとな。衝動でメロリを買ってしまったが、そこらへんの責任はちゃんとしないとね。

 メロリの服装を見ていてもかなり汚れていてボロボロだ。もう一度商店街に行ってメロリの物を買ってやろう。


 「メロリ、これからメロリの服や生活に必要なものを買いにいこう」

 「いいのですか?ご主人様。メロリは今のままでも大丈夫ですよ?」

 「そんなこと気にしないで色々と買い揃えていこう。そう言えばメロリは俺が衝動買いで買ってしまったんだけど良かったか?もし嫌なら今からでも奴隷商人の所に行って自由にしてやってもいいんだぞ?」

 「嫌なわけないです!メロリはご主人様に感謝してます!ご主人様はメロリの事嫌いですか?」

 

 メロリがまた涙を浮かべて俺のほうを見る。や、止めてくれ。何か悪いことしてるみたいじゃないか。


 「ごめん、俺が悪かった。嫌いじゃないから泣かないでくれ」

 「良かったです」


 この手の話題は禁句だな。もう止めよう。


 「さあ買い物を済ませて、飯食って、冒険者ギルドに行こう」

 「はい、ご主人様!」


 ◇◇◇


 2人で商店街に行き、メロリの着替えや下着、歯ブラシや櫛、タオルも買い込んでいく。そのうちメロリにも魔法の鞄を買ってやろう。俺の着替えも買い忘れていたので買っておく。お金に困らないってありがたいことだと改めて思う。

 そうそう商店街などで買い物をしながら分かったことがお金の価値だ。そして硬貨が何枚でどの硬貨になるのかはメロリに教えてもらった。

 銅貨=10円

 大銅貨=100円

 銀貨=1,000円

 大銀貨=10,000円

 金貨=100,000円

 白金貨=10,000,000円


 銅貨10枚=大銅貨1枚

 大銅貨10枚=銀貨1枚

 大銀貨10枚=金貨1枚

 金貨100枚=白金貨1枚


 俺の無限収納アイテムの中にはとんでもない量の硬貨が入っている。初日に邪神竜と魔王を倒したら手に入ったお金だ。大銀貨は約3800万枚あるし、金貨も1900万枚もある。全部日本円にしたら天文学的な金額になるのは間違いない。改めて思うけど金銭感覚麻痺するよな。

 基本的には金貨まで沢山流通していて、白金貨は王族や貴族が持っていることが多いらしくあまり頻繁には見かけないらしい。後は商売の取引とかに使うということだ。俺、白金貨738,495枚も持ってるけど簡単には使えないな。

 

 商店街を歩いていると先程の屋台を見つける。ちょうど腹も減ってきてるし、食べてみるか。


 「すいません、串焼き2本下さい」

 「あいよ、2本で銀貨1枚だよ」


 お金を渡し、串焼きを受け取った。通行の邪魔にならないよう道の端っこに移動してからメロリに1本渡す。メロリは非常に驚いた顔をして俺を見つめていたが、何だ?


 「ご主人様が食べられる為に買ったのだと思ってました」

 「ああ、違う違う。メロリも食べていいよ。ってか一緒に食べよう。美味しいものはみんなで食べるほうが美味いからな」

 「あ、ありがとうございます!!ご主人様」


 俺が食べるのをもじもじしながら見ているので、さっさと串焼きに齧り付いた。主人よりも先に食べるのがダメなんだろう。ならば俺が先に食わないとメロリはいつまで経っても食べられないからな。

 おお、これは美味い。ワイルドボアという肉らしいが、豚肉に似ている。香辛料がかなり掛かっているためスパイシーだ。

 メロリを見ると涙目になっていた。

 辛かったか?そう思い魔法の水筒を出してやる。


 「辛かったか?水でも飲むか?」

 「いいえ、すごく美味しいです。こんなに美味しいもの初めて食べました」


 メロリは感動しながらあっという間に平らげた。まだ物欲しそうに見ているのであと5本買ってきてくれとお金を渡して頼む。これまた驚くので理由を聞くと、普通は奴隷にお金を渡さないらしい。なるほど。信用しているし、大丈夫だからとメロリを説得して串焼きを買ってきてもらう。


 「お待たせしました、ご主人様」

 

 串焼きの包みを受け取って、1本だけ貰ってメロリに渡す。

 困惑した表情でメロリは俺を見上げるが、頷いてやると嬉しそうに食べ始めた。よっぽど腹が減ってたんだな。というか、あの喚いてた胸糞悪い男はあまりメロリに食事を与えなかったに違いない。これからはもっと食べさせてやろう。


 腹を満たしたところで昨日から伸ばし伸ばしている冒険ギルドにようやく向かった。

 冒険者ギルドに着いて中に入ってみると、思ったより広くて明るい。カウンターがいくつもあり冒険者らしき人とギルドの人が話したり、テーブルや椅子なども置いてあって談話している冒険者達もいる。部屋の隅のほうにはバーカウンターみたいなものもあり、そこで酒を飲んでいる人もいる。

 俺達は空いてるカウンターに向かった。


 「こんにちは、冒険者の登録をしたいのですがこちらで宜しいでしょうか?」

 「こんにちは。ええ、こちらで構いませんよ。まずはこちらの紙に必要事項を記入してください。字は読んだり書いたりは出来ますか?」


 あ、異世界の言葉を理解出来るけど、文字は書いたこと無いから分からん。大丈夫か?

 とりあえずちょっと名前から書いてみようとペンを握ると自然に異世界の言語で名前が綴られる。すげーな。助かるけど。ほんとイージーモード最高だ!


 「リュートさんですね。年齢は15歳。スキルは特になしですか。あの、剣術が使えるとか魔法が使えるとか無いんですか?」

 「はい。まだスキルは持ってませんけど、これから剣術や魔法を教えてくれる所へ行くつもりです」

 「困りましたね。ある程度戦える人でないと冒険者にはなれないんですよ。冒険者とは常に死と隣り合わせなのです。一歩間違えば死に直結する職業なのですよ?確かに冒険者の仕事には薬草採集とかたまに雑用なんかのお仕事もきますが、基本的には討伐、護衛、迷宮ダンジョン攻略の依頼が多いんです。スキルも何も持たない人を冒険者には出来ません」


 ガビーン。ちょっと自分の甘さに落ち込んだ。確かに冒険者ってカッコイイけどその反面命を懸けるって事だもんな。HP50万あるからって舐めてたら俺も死ぬ可能性がないわけじゃないしね。

 困ったな。冒険者ギルドに登録できないと身分証の発行が出来ないんだが…。


 「あら、それならアタシが色々と教えてあげてもいいわヨ!」

 「ギルド長!」


 声がした方に目を向けると、そこには身長2メートルほどあるんじゃないかと思うほどの大きさで、肌の色は浅黒く筋肉ムキムキなマッチョが立っていた。髪型はパイナップルみたいな感じで、ど派手なピンク色だ。顔はどこからどう見てもおっさんなのだが、物凄いケバイ化粧をしている。何というか、オネエだろこれ。この世界にもオネエがいたよ。


 「アタシはこの冒険者ギルド長のレティナットよ。レティでいいわ!リラと君の話を聞いてたけれど、スキルを持ってないんですって?剣術ならアタシが手取り足取り教えてあげても構わないわヨ」

 「お断りします」


 俺は即答した。こんなオネエに手取り足取り教えてもらった日には俺の貞操が危ないぜ。俺にはそんな趣味はないんだ。


 「ヤダ、いけずね!でもアタシは元Aランクなのよ。色々教えてあげられるわ。それなのにふいにしちゃうわけ?」

 「そうですよ、リュートさん。ギルド長は見た目も言動もアレですが、実力は間違いないです。特に剣術ならこの帝国の中では上位に入るくらい強いですよ」

 「リラ、言葉にトゲを感じるわヨ」

 「そうですか?気に障ったのならすいません」


 うむむ…。ここは一つ受けておくべきか?確かに今のままじゃ何も出来ないしな。レティナットさんを鑑定で調べてみると確かにスキルの中に剣術があり熟練度が★8個だった。かなり強いんだろう。

 とりあえず教えてもらうことにしよう。


 「それじゃあお言葉に甘えて教えていただけますか?」

 「いいわヨ。今日は無理だから明日のお昼にいらっしゃい。武器や鎧は持ってる?」 

 「いえ、持ってません。」

 「そう、それなら最低でも剣と革の鎧だけは用意してきてネ!」

 「分かりました」

 「では、明日待ってるわネ!楽しみにしてるわ」


 レティナットさんはウィンクして戻っていった。き、気持ちが悪い…。俺は明日耐えられるだろうか?もしかしたら吐くかもしれないから明日の昼は軽めに食べることにしよう。


 「良かったですね、リュートさん。ギルド長は言動がアレですけど見込みの無い人には話しかけません。リュートさんに何かを見出したんでしょう。」

 「はぁ、ありがとうございます」

 「ところで後ろの人はどうされるんですか?」


 メロリの事だよな。


 「一応僕の奴隷なんですけど、冒険者の登録とはどうなるんですか?」

 「ああ、それならリュートさんの所有物という扱いになるのでリュートさんが冒険者ギルドカード持っていれば特に登録をする必要はありません。奴隷商人から買ったときに刺青みたいなのが浮かび上がったと思うんですけど、それが証明になるので、奴隷だけでも門を通行したり出来ますし、料金もかかりません」

 

 なるほどね。じゃあ、俺が冒険者登録しないと何も始まらないわけなので何とか明日剣術を教えてもらって登録しないとな!

お読みいただきありがとうございます!


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