第7話 衝動買い
しっかりと眠った俺は翌朝すっきりと目が覚める。
仕度をして食堂に行くともうマリーナさん達は忙しく食事の用意をしていた。マリーナさんが俺を見つけて近寄ってくる。
「ああ、お客さんゆっくりと休めたかい?今食事の用意するから座って待ってておくれ」
「おはようございます。おかげさまでゆっくり休めました」
俺はそう言って近くの席に座った。まもなく朝食が運び込まれてくる。
「今日の朝は、パンとサラダ、ミートオムレツ、シトロンのジュースだよ」
おお、良かった。これなら食べられそうだ。夕食のときも思ったが地球にあるようなメニューだ。異世界だからといって変な食べ物が出てくるわけじゃなくて安心した。
いつものように「いただきます」と呟いてから食べる。
まずはサラダ、これは文句無いな。野菜一つ一つが新鮮で瑞々しい。ドレッシングも美味くてこのサラダにとっても合う。続いてミートオムレツをフォークで割ってみると中にはひき肉と野菜がたっぷり入っていて、ひき肉から程よく肉汁が出ている。一口取って食べると、これも美味い。ひき肉の肉汁を野菜が吸い込んでおり、またしっかりと炒められているため噛むとほろっと溶け野菜の甘さが口の中に広がる。
ゆっくりミートオムレツを味わった後シトロンのジュースを口に含む。シトロンの爽やかな酸味が口に広がり、ミートオムレツの油分をスッキリと流してくれる。うーん。よく考えられてるな。
パンは夕食と同じパンだったのでそれが残念だ。それ以外は完璧だ。
朝食を食べ、お腹を満たした俺は出かけるためマリーナさんに鍵を渡し【豊かな銀樹亭】を後にした。
宿を出てまず向かう場所は冒険ギルド…と言いたい所だがその前にパンツや着替え、タオルなんかも欲しい。いい加減1枚のパンツを毎日洗うのは面倒だからな。生活用品の買出しが俺の一番の優先順位だ。
マップを調べると商店街みたいなのを見つけたのでそこに向かって歩いていく。昨日は宿屋に直行してしまったのであまり景色を見ることがなかったが、町並みは中世ヨーロッパと言った方がしっくりくるだろう。日本とはまた違って建物が連なっていることが多い。
商店街らしき所に来ると活気があって人がたくさん溢れている。屋台みたいなのも出ているみたいだ。何かの肉の串焼きやら煮込み料理など美味そうなものが良い匂いを辺りに充満させながら売られている。お腹が空いてたら食べるんだけどな。まぁ後でいくらでも食べる機会はあるだろ。
屋台を冷やかしつつ、キョロキョロと色々なものを見ながら歩いていく。生活用品を置いている店を見つけたので入ってみる。
「いらっしゃい!どういったものをお探しで?」
「下着とかタオル、あとは歯ブラシや櫛などありますか?」
「ありますよ。下着はどのタイプをお求めで?」
「どのタイプ?」
「こちらの帯状の布を身体に巻きつけるタイプと、布のサイドに紐が付いていて結ぶタイプとスタンダードなズボンタイプのものになりますかね」
「じゃあそれをください」
提示された中から選んだ下着を指差す。ふんどしに紐パンにステテコみたいなやつという究極な選択を迫られた俺は諦めてその下着を何枚か買ったのだが何を買ったまでは内緒だ。
「タオルは2種類しかないですね。大きいタイプと小さいタイプのものです」
「じゃあ3枚ずつください」
「後は歯ブラシと櫛になります」
「ああ、それで結構です。歯ブラシを2本と櫛は1本でいいです」
「ありがとうございます。
「今包みますので少々お待ちを」
お金を払って店を出る。かなりの荷物になったので、人のいない所に移動して無限収納に片付ける。この無限収納が特殊だった場合人に問い詰められるのが面倒だからだ。
うーん。ひとつダミーの鞄がないと毎回人のいない所にいって片付ける事になる。それは骨が折れるよな。考えながら歩いていると近くに魔法商品屋があったのでそこへ行ってみる。
店に入ると様々なマジックアイテムが置いてあったのだが、俺が神様に貰った【魔法の水筒】なんかも置いてある。値段は金貨10枚だ。それがいくつも置いてあるのでそんなに珍しくもないんだろう。俺が店内をうろうろとしていると魔法商品屋の店主が胡散臭そうな目をしながら話しかけてきた。
「あんたみたいな子供が来るところじゃないよここは」
「鞄を求めてきたんですけど…」
「はっ、あんた全然知らないようだから教えてあげるけどさ、魔法の鞄は金貨300枚するんだよ?あんたみたいな子供に払える額じゃないんだ」
カチーンときたので目の前に金貨を300枚ドンと出してやる。
「これで買えますよね?」
「!?これはこれは貴族のお坊ちゃまでございましたか!!!大変失礼致しました。こちらに魔法の鞄がございます。お好きなのをお選びくださいませ!」
うわー、お金見たとたん態度をころっと変える奴初めて見たよ。ダメな大人の典型的パターンだな。
魔法の鞄を鑑定してみると
【魔法の鞄】
レア度:☆4
性能:アイテムを100種類まで収納できる。※1種類につき99個まで
これならダミーとして使えるかもしれないな。
帝都を探してもここにしか魔法商品屋が無かったので仕方ないので買うことにした。
「ありがとうございます!またのお越しをお待ちしております!」
笑顔でそう店主に送り出されたのだが、正直あまりもう来たくはないな。
次に向かう先は冒険者ギルド。身分証を発行してもらう為だ。考えてみたんだが俺はこの世界を観光しに来たんだ。自由に帝都に出入り出来るってのがメリットだし。それに俺は商人ってガラじゃない。
マップで確認してから歩き始めたのだが、何やら前方で喚いている奴がいてその周りを人が取り囲んでいるので野次馬根性で覗いてみた。
「おい、どういうことだ!!!俺はお前の所から大金叩いて奴隷を買ったんだぞ!!それが全然使えやしねぇじゃねぇか!!」
「そう仰られましても、お客様が納得してお買い求めになられたではありませんか」
「お前が、嗅覚、聴覚探索が出来るからお買い得だって言ったからだろ!」
「えぇ、もちろんそうでございますよ。犬の獣人なのですから出来ますし、スキルも持ってますよ」
「だけど出来ねえっていってるんだよ、こいつはよ!!」
奴隷商人が何かを呟きながら犬の獣人に手を当てている。暫くすると奴隷商人は困った顔で喚いている男の方を向いた。
「お客様、もしかしてこの奴隷を大きな音のする場所か何かに連れて行きましたか?」
「あん?そりゃ迷宮にこっちは潜ってるんだ。罠などもあってこの前は大きな爆発に巻き込まれて大変な思いをしたぜ」
「それですよ、お客様。この奴隷は耳を患っております。それで聴覚探索を出来なくなったんでしょう。でも嗅覚は大丈夫じゃないんですか?」
「それが喋れなくなったんだよ。こんな奴もういらねーから買い取ってくれよ」
「それは出来ませんよ。この奴隷の耳の患いはお客様の落ち度でございます。こちらとしても買い取ることは出来ません」
「何だと!?くっそー。このクソガキが!俺様に面倒かけやがって!!」
喚いていた男が犬の獣人の子を蹴り上げようとしたので、俺は慌てて間に入り男の足を掴む。
「そこまでにしておけよ」
俺は男の足を掴んでそのまま腕を上げる。男はそのまま後ろに倒れこんだ。
「痛ぇ!!何だ!お前は!」
「ただの通りすがりだ」
「そのただの通りすがりが俺様たちには関係ないだろ!」
「話を聞いていたが、それはあんたの方が悪いだろうよ」
「何だと!俺様はこのクソガキに損させられたんだぞ!それにこれは俺様の奴隷なんだ。俺様が何しようが勝手だろうが!!!」
「…ってやる」
「あん?」
「買ってやると言ったんだ。あんたからその子を買ってやるって言ってんだよ」
「は?お前馬鹿か?こいつは耳も聞こえなくてクソの蓋にもならねーんだぞ。治療するには金もかかるし、治る見込みすらねぇんだぞ!はっきり言ってゴミだね。こんなゴミくずみてぇなガキが欲しいならいくらでも売ってやるよ!」
「それであんたはこの奴隷を商人からいくらで買ったんだ?」
「金貨25枚だ!お前にこんな大金払えねーだろ!」
「商人さん、その金額で間違いないですか?」
「えぇ、間違いありません。確かに金貨25枚でお売り致しました」
俺は金貨30枚をその男に叩きつけてやった。
「手切れ金も含めて金貨30枚だ。もう一切俺とこの子には関わるなよ」
喚いていた男も奴隷商人も周りの野次馬も呆然としている。
「え?いいのか?」
「それを受け取ったならさっさと行けよ」
男はそさくさと金貨を回収し、ありがとな!兄ちゃん!と見たくも無い笑顔で去っていった。
周りの野次馬は「かっこいいな、坊主!」とか「優しいのねぇ」とか「変わり者」だとかも言われていたがそんなものは無視する。
震えて縮こまっていた犬の獣人の子を立たせてやる。
「大丈夫かい?」
「・・・」
犬の獣人の子は俺の方を向いて尻尾を振っている。きっと大丈夫なのだろう。
カチンときて勢いでこの子を買ってしまったがどうしよう?俺はこれから冒険しながら観光するつもりなのでこんな小さな子を連れて行くわけにはいかないし。
そんな事を考えていたら犬の獣人の子が目をうるうるさせて俺を見上げている。
うっ…そんな顔したら連れて行くしかなくなるじゃないか。
「まぁ、何とかなるだろ。じゃあ行こうか」
犬の獣人の子をそう促して歩き出そうとしたら
「お待ちくださいませ」
さっきの奴隷商人に声を掛けられる。
「何ですか?」
「今、貴方様はその奴隷の主人からその奴隷をお金を払ってお買い求めになられましたよね?それだけですとまだ貴方様の所有とはならないのですよ。奴隷商人が主人の変更手続きをしないと正式には貴方様の奴隷とはなりません」
「そうなんですか…。困ったな」
「えぇ、ですから私がその手続きを行いましょう。もちろん無料でございます。先程は私も謂れの無い言いがかりを付けられて困っていたところなのです。これぐらいのことはさせていただきますよ」
そう言って奴隷商人は俺と犬の獣人の子に手を当ててブツブツ呟いている。そうすると犬の獣人の子の左腕に刺青みたいなのが浮かぶ。
スキル:【奴隷商人の心得】を習得しました。
え?あ、そうか。神眼が発動したんだな。ってかこんなに簡単に習得出来る事が凄いよ。
「これでこの奴隷は貴方様の物でございます」
「あ、どうもありがとうございます」
「それではこの奴隷の他にもご入用でございましたら、是非とも当商館へお越し下さいます様お願い致します。ああ、そうでした。私は奴隷商人のドリーと申します。貴方様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「僕はリュートと申します」
「リュート様でございますね。承知致しました。ではいつも大体この商館に私はおりますので、いつでもお越し下さいませ。それでは失礼致します」
そう言ってドリーさんは商館の中へ入っていった。
へぇ、わりといい人だったな。奴隷商人なんて悪人というイメージしかなかったけどこの人はちょっと違うのかもしれない。
さてと、一旦宿に戻ってこの子を治してやるのが先か。犬の獣人の子を連れて【豊かな銀樹亭】に戻ることにした。
お読みいただきありがとうございます。
本文では新しいスキルについて触れませんでしたので、ここでご紹介を。
【奴隷商人の心得】奴隷の売買が出来る。奴隷の教育、奴隷売買の手続き等が出来る。熟練度:★
といった形になります。




