第6話 ようやく到着
今回はいつもより少し長めです。
俺は馬鹿なのか?いや、間違いなく馬鹿なんだろう。
空を飛んで地上に出たいなんて何故安直な考えを起こしたのだろうか?
答えは簡単。
面倒だったから!
だってマップを見ている限りかなりの広さがあるし、罠とか仕掛けられてそうだと思ったんだよ。
黒の魔王の靴を履いて、力の限り飛んだらレベル500なんだものそりゃ結構な出力になるよな。
結果フロアをぶち抜きながら地上へ出てきたというわけだ。普通に考えてちょっと力いっぱい飛んだからといってそんな跳躍が出来るとは思わないし、加速するとも想像も付かないだろう?
俺、ヘルメットや警備服を装備してなかったのに怪我の一つもしてないって…最早人間じゃない。そう考えたらちょっと涙が出た。
「しかし外に出たはいいけどめっちゃ木ばっかりだな。森らしいというか樹海っぽい」
【黒の森】はかなりの広範囲で木々が鬱蒼と生い茂っており、太陽の光があまり差し込んでこない。
マップを確認すると赤い点がいくつも森の中に散らばっている。これは何だ?とりあえず近くの赤い点を目指し歩いてみる。
遠くから鑑定してみたが、どうやら狼みたいだ。狼なんてテレビの中ぐらいでしか見たことないよ。しかもあまりの多さに俺はちょっと怖くなった。今のところこちらに気がついていないみたいだし、赤い点が無い所に移動する。赤い点とは敵を表すものみたいだ。
地球で暮らしていたときなんて平和そのものだったし、剣道や柔道に格闘なんて一度もやったことない。もちろん殴り合いの喧嘩だってしたことない。そんな俺がこんな敵だらけの森を無事で出れるんだろうか?HP50万あれば早々に死ぬことはないだろうけど、怖いものは怖い。
敵に見つからないようにとにかく慎重に行こう。
俺はなるべく赤い点に近寄らないように森を歩いていく。木が邪魔で歩きにくいが、それでも少しずつ歩いていった。
おかしい…俺が赤い点を避けながら歩くのは当然だが、それよりも前に赤い点のほうが俺から遠ざかっていく。一体どういうことだ?まぁ敵に遭遇しなくていいけど。
敵の心配もないので、森の中を鑑定しまくって薬草や体力回復薬、魔力回復薬の素材を見つけたので回収していく。その他にも使えそうな素材があったのでそれも見つけては回収していった。おかげでかなりの量の素材を手に入れることが出来た。ホクホクだよ、ホクホク。
あちこち素材を回収するため蛇行しながら歩き続けてようやく森の外へ出た。
森を抜けるとそこは砂漠だった。
マップを確認すると、【イリア砂漠】らしい。この砂漠を抜けて北東の位置に大きな都市がある。
そこに向けて俺はひたすら歩き続ける。
マップ機能がなかったら怖くて砂漠なんて歩けないよな。神様のおかげで地図や水、食料もあるから平気だけど。1人で歩いているので寂しくなって昔のアニソンなどを歌いながら歩き続けた。
見渡す限り砂ですよ、砂。もういい加減飽きてきたな。砂以外のものを見たい。
体力があまりにも余っているのか歩いても全く疲れないので、寝ないで歩いていく。
4回目の朝を迎えたところで遠くのほうにうっすら大きな城壁らしきものが見えてくる。
「ようやく見えた~」
徐々に歩くにつれ砂漠から草原へと変わり始めた。おお、草だ草。砂以外のものが見れたよ。
町を目指して歩いているとマップに白い点がまばらに増え始めてきた。
白い点がある方を見てみると人の姿が見えた。白い点ってのは人みたいだな。もしかして赤い点が敵意ある存在で白い点が敵意ない存在という風に分かれてるということか?それなら区別しやすくていいな。
かなり近づいてきて都市の全貌が見えてくる。遠くから見ていたので気がつかなかったが、かなりの高さの城壁だ。そしてその城壁がこの都市全体を囲んでいるらしい。
これこそファンタジー!地球でもこんな城壁都市なんて見たことないんじゃないのか?
マップで調べるとこの都市はシェルリア帝国の【帝都シェーンゼー】という名前らしい。帝都のすぐ近くには大きな湖がある。この湖が帝都の観光名所だろうか?落ち着いたら行ってみるか。
この帝都には入り口が4箇所あってそれぞれ北門、東門、南門、西門とあるみたいだ。俺は南門を目指して歩いている。門に近づいてくると城に入るための列が出来ていた。
ここに並べばいいんだろうか?とりあえず並んでみる。徐々に列が短くなってきた。
俺は前の様子を伺うと並んでいる人間が門番に何やら身分証明書らしきものを提示している。
ヤバイ、俺身分証なんて持ってない…。
内心慌てて、身分証の替わりがないか探していると何やら門番と揉めている人がいる。聞き耳を立てているとその人は身分証を無くしたらしい。それで門番が水晶みたいなのを持ってきてその人に手を乗せるように言っている。
あれは何だ?水晶が光り輝いた後、その後門番と話して中に入っていく。
どういうことだ?分からないので前の人に聞いてみる。
「あの、すいません。今の人って何で身分証も持ってないのに通れたんですか?」
「ああ、たまに身分証を落としてしまう人がいるんだよ。それであの水晶で名前、種族、年齢、職業、レベルなんかを調べて、後は犯罪を犯してないか調べてから問題が無いと入れるんだよ」
「なるほど、ありがとうございました」
これは非常にヤバイ…何がやばいって身分証持ってないよりも俺のレベルのほうがヤバイ。
さっきからいろんな人を鑑定しているが、レベル30台や40台の人がちらほらいるだけで後はみんなレベル1から20くらいが多い。レベル500とかなんて全然普通じゃなかった!!
レベル500がばれたらバケモノ扱いされてしまうじゃないか!!それは何としてでも避けたい。何かいい方法はないだろうか!無限収納の中を探していく。
あった、あったよこの問題を打開する秘策が。
【偽りの指輪】
レア度:☆7
性能:ステータス、スキル、レベルを偽り相手を欺く。相手よりもレベルが高いと見破られない。
ばれないように無限収納から指輪を取り出し、急いで指に嵌める。
どうやら間に合った。次に俺が呼ばれる。
「次の者前へ。身分証を提示してくれ」
「すいません、身分証落としてしまって…」
「お前もか。仕方ない。おい、エリックまた水晶持ってきてくれ」
「はい、どうぞ。」
「おい、お前。ここに手を乗せろ。」
水晶が目の前に出される。ちゃんと偽れるか不安だけどここで乗せないのもマズイ。
意を決して水晶に手を乗せる。水晶が光り輝く。そこに浮かべられていたのは俺の簡易ステータスだ。
名前:リュート
種族:人間
年齢:15歳
職業:庶民
レベル:5
犯罪:なし
良かった…。レベル5になってる。助かった。
「よし、犯罪歴はないようだな。しかしお前15歳なのか?ひょろくてまだ子供みたいだな。それにまだ無職のようだし。ここには仕事を求めてやってきたのか?」
「は、はい。」
「そうか、仮の身分証発行に大銀貨1枚だ。ちゃんとした身分証を持って来たら銀貨5枚返す。身分証は冒険者用、商人用、職人用、庶民用とある。それぞれの身分証発行は冒険者なら冒険者ギルド、商人なら商人ギルド、職人なら各職人ギルド、庶民ならこの門を北に真っ直ぐ歩いて2本目の道を左に曲がったところに身分証を発行してくれる所がある。この帝都シェーンゼーには東西南北にそれぞれ門がある。冒険者と商人の身分証を持っているものは無料で通れるが、職人と庶民の身分証は出入りするのに大銅貨3枚と銅貨5枚掛かることだけは覚えておいてくれ」
「わかりました。では大銀貨1枚です」
「うむ、確かに受け取った。エリック仮の身分証を出してやれ」
「畏まりました」
エリックと呼ばれた若い門番に仮の身分証を貰う。
「ありがとうございます」
「いえ、次からは気をつけてください」
エリックに会釈をして俺の対応してくれたもう1人の門番メクソンさんにも会釈する。
何故メクソンさんの名前が分かったって?それは俺の目にだけかもしれないが、人物の頭の上に名前が見えるんだ。ここまでゲーム仕様だとは…。まぁ、人を探す時は楽かもしれないが、人が多い所だとごちゃごちゃして見えるな。後で見やすいように弄ってみるか。
俺は門の中へ入ろうとした時、そのメクソンさんから話しかけられた。
「おい、リュート。もう今日泊まる宿屋は決めたのか?」
「いえ、まだ決めていませんけど…」
「そうか、ならば【豊かな銀樹亭】がお勧めだ。料理も美味いし、安い。決めてないならそこへ行くといい。この門を真っ直ぐ北に向かい3本目の横道を左に入れば分かるはずだ」
「ありがとうございます。行ってみます」
めっちゃ、いい人だなメクソンさん。日本語で言うとちょっと目くそみたいで可哀想な名前だけど。
まずは宿屋を取らないとダメだよな。マップを確認すると確かにメクソンさんに教えてもらった位置にあったので向かう。暫く歩いていると【豊かな銀樹亭】が見えてきた。ちゃんと綺麗に周りも掃除されているし建物も小奇麗だ。良さそうだな。
入ってみると、ちょっと小太りのおばさんが出てくる。名前はマリーナさんだ。
「いらっしゃい、食事かい?それとも泊まりかい?」
「泊まりで、とりあえず3日間お願いしたいんですけどいいですか?」
「はいはい、3日ね。1日銀貨4枚と大銅貨5枚で3日間で大銀貨1枚と銀貨3枚、大銅貨5枚だよ。金は前払い制だからね。食事は一日2回。時間は好きな時間にどうぞ。」
「じゃあ、これお金です」
「うん、確かに。じゃあ案内するからついておいで」
そう促されてマリーナさんについていく。2階の角部屋で【小枝】と扉に書かれている。
「お客さんの部屋はここだよ。必ず外へ行くときは鍵を預けていっておくれ」
そう言われて俺は頷いてマリーナさんから鍵を受け取る。
「あの、お風呂とかどうなってますか?旅をしてきたのでお風呂に浸かりたいんですけど」
「お風呂?お客さん、ここは庶民の泊まる宿ですよ?お風呂なんてお貴族様が浸かるようなものはうちにはおいてませんよ。ですけどお湯を桶1杯につき大銅貨4枚と銅貨2枚で用意しますよ」
…風呂なかったー!マジか…仕方ないよな。好意で教えてもらった宿だから無碍にも出来ない。
「じゃあお湯お願いします。」
「今から用意すると少し時間がかかるので暫く部屋で待っていておくれ。それじゃごゆっくり」
お金を渡すとそう言ってマリーナさんは部屋を出て行った。
俺は部屋に入り先程のやり取りを思い出す。ここの宿屋は1日銀貨4枚と大銅貨5枚だと言った。で、3日間になると大銀貨1枚、銀貨3枚、大銅貨5枚と言ったんだよな。普通に考えると銀貨12枚と大銅貨15枚でいいはずなのにな。ああ、つまり大銅貨10枚で銀貨になり、銀貨10枚で大銀貨になるのか。他の硬貨も10枚ずつで変わるのだろうか?まぁこれも図書館なりで調べれば分かるだろう。
トントン
「お客さん、お湯をお持ちしましたよ」
「はい、今開けます」
俺は急いでドアを開けると並々とお湯が入った大きな桶をマリーナさんが持っていたので受け取る。
「髪とか洗うなら宿の裏手にちょっとした洗い場があるんでそこで洗ってくださいよ。部屋の中だと濡れちゃうからね。頼みますよ」
「あ、じゃあ移動します」
俺は折角持ってきてもらった桶をフラフラしながら宿の裏手に持って行き、洗い場を見つけた。
俺のほかには誰も居なかった。テンプレ無かった…。ここに美女のお姉さんがいてエヘヘウフフな展開が待っているはずだったのに。
ローブを脱ぎ、パンツも脱いでヒアリスの石鹸を取り出し洗う。お湯に触るとかなり熱めだが、すぐに冷めるだろう。
あー、さっぱりした。水じゃなくてお湯ってのはありがたいね。しかし、お風呂に浸かれないとは問題だわ。今はそんなに寒くない時期みたいだけど寒くなったらどうするんだろうね。確実に風邪引くよな。それまでには何とかしたい。
小ざっぱりしたので次はご飯を食べるか。異世界初の料理だよ。楽しみだよね!
◇◇◇
食堂に行くと、それ以外はあまり人がいなかった。空いてる席に座り注文する。するとしばらくしてからマリーナさんが持ってきてくれた。
「はい、お待ちどうさま。野うさぎの香草焼きと、野菜の煮込みとパンだよ。パンのおかわりは2個までなら無料だけど、それ以上なら1つ銅貨5枚だよ」
おおお、美味そう!「いただきます」と呟いてからまずは野うさぎの香草焼きを頬張る。
思ったより癖がないな。癖があったとしても香草でうまくカバーしてるんだろう。一口齧るとまずは香草の香りが鼻腔を擽り、次にうさぎの肉の歯ごたえと肉汁がうまく絡み合う。地球ではうさぎなんて食べたことはなかったが、これはこれでかなり美味い物だった。
次に野菜の煮込みをスプーンで掬い味わってみる。これは野菜の旨味が凝縮した感じだ。ある程度煮込んであるためか野菜の形が残ってなくてトロリとしたシチューのようだな。あっさりと塩で味付けしてあるんだろう。
最後にパンを口にしてみる。これはちょっと残念だ。全体的にパサパサしていて小麦の香りも吹っ飛んでしまっている。日本で食べられるようなロールパンとか食パンとはちょっと違い、固くて水分がない。うーん。俺は固いパンより柔らかいふわふわのパンが好きなんだ。まぁ食べられないこと無いけど。
久しぶりの温かい食事と異世界初の料理は十分満足できるものだった。
【黒の森】からぶっ通しで歩いてきたのでそろそろゆっくりと休みたいな。
身分証の発行や必要なものの買い物は明日行けばいいだろう。
ベッドに入ったらあっという間に俺は眠りに落ちた。
お読みいただきありがとうございます。