第31話 出会い
ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。
夏風邪は長引きますね。皆様もお気をつけください。
ヴィオレットの大事なお嬢様は第二の郭に眠っているらしいのだが、第二の郭は貴族が住む区画で俺たちのような庶民が入れる場所じゃない。何とかしたら入れるかもしれないと希望を抱きつつ、第二の郭に入る門の所まで来てみた。
「何だ、貴様らは」
厳つい門番の男に声を掛けられる。
「あの、お墓参りの為に入りたいのですが入れてもらうことは出来ますでしょうか?」
「まずは身分証を提示しろ」
そう言われたので、赤色になったばかりのギルドカードを提示した。
「冒険者のリュート?知らないな。ここは庶民の来る場所ではない。早々に立ち去れ」
「ほんの少しだけお墓参りさせてもらえれば立ち去りますから」
「駄目だ。ここから先に立ち入る事は許さん」
頑固だな。騒ぎを起こしてまで入りたいわけじゃないので、打開策を打ち出してみた。
「じゃあ、これでどうですか?」
俺は金貨3枚ほど取り出して門番に渡す。
「!?…これだけでは通せんな」
お、掛かったな。俺は更に金貨2枚を渡す。
「少しだけだぞ。見張りにマルクを付けるからそのつもりでいろ。怪しい事を少しでもしたらすぐに捕まえて奴隷落としだからな」
門番はすぐに金貨5枚を自分のポケットの中にしまって、マルクを呼んできた。
「マルク、こいつらが怪しい事をしないかついていって見張っていろ」
「はい、お任せください!」
マルクと呼ばれたのはまだ少年と言われてもおかしくない16歳くらいの男の子だった。門番の制服が新しいので新人の子なんだろう。仕事を頼まれて張り切っているみたいだ。
「では、行ってきます」
俺たちは厳つい門番に声を掛けて、お嬢様のお墓がある方向へ歩き出す。マルクは俺達の後ろを監視しながらついてきているが、話しかけるような事はしてこない。慣れ親しむつもりもないので、マルクは放っておこう。何かあれば話しかけてくるだろうしな。
初めて第二の郭に入ったが、貴族らしい豪邸ばかりが立ち並んでいる。むしろ城じゃないの?と思うくらい立派で豪華だ。しかも緑もちゃんとあって建造物と自然がマッチしていて美しい。第三の郭は本当に人も多いし、商店街や宿屋とか居住区もあって活気に満ち溢れているが、一方第二の郭は閑静な感じだな。行きかう人ははほとんどおらず、豪華な馬車などが走っているだけだ。最も貴族だからあまり庶民のように歩かないかもしれないけどね。
ヴィオレットに案内されて、歩いていくと墓地が見えてくる。テレビとかで見ている外国の墓地の感じだ。緑豊かな静かな場所に墓地があった。
「こちらですわ、ご主人様」
ヴィオレットは3つの立派なお墓の前に立つ。
「左からお嬢様のサリスルシア様、旦那様のゴードラム様、奥様のラフィーネ様です」
こちらのお墓は日ごろから手入れがしっかりされているのか綺麗に掃除されている。
花を手向け、お参りをしていると人がこちらに近づいてくるのが分かった。
「誰だね、君達は」
声を掛けてきたのは30代後半くらいの紳士だ。スラリと身長が高く、質の良い服を身に纏い手には花束を持っていた。顔はイケメンなのだが、顎の部分に目がいってしまう。顎が尻の様に割れている所謂ケツアゴだ。立派に割れている。イケメンなのに勿体無い感じだ。
「メルヴィム様、お久しぶりでございます。ヴィオレットでございますわ」
ヴィオレットが一歩前に出て、ワンピースの裾を掴み優雅にお辞儀をする。
それを見ていた紳士は少し目を見張ってヴィオレットを見ている。
「ヴィオレットか。久しぶりだな。話せるようになったのか?」
「ええ、こちらのご主人様に買って頂きまして高価な薬で私の病気まで治してくださったのですのよ」
「そうか、それは何よりだな。そちらの御仁も感謝する。私はメルヴィム・ワーリッツ伯爵だ」
ワーリッツ伯爵…どっかで聞いたことがあるような名前だな。あれは何だったっけ?
「私はリュートと申します。冒険者をしております」
普段は人と話すときは自分の事を「僕」と言っているが、目上で貴族なんだから「僕」も「私」の方がいいと思うので切り替えて話す。
「冒険者か。ヴィオレットの事を頼んだよ。うちにはヴィオレットに異常な執着をしているバカ息子がいるのでね。ヴィオレットには早々に屋敷を出てもらう必要があったのだよ」
「それは一体?」
「私の息子は3年前に兄上の屋敷に遊びに行った時に見かけたヴィオレットに懸想をし、それからは腑抜けになってしまったのだよ。兄上がこんな事になってしまった今、私がワーリッツ家の当主だ。そして次の当主になるのは私の息子なんだ。当主としての役目を全うさせる為にも然るべき貴族の娘と縁組し、血筋を守っていかなければならない。申し訳ないが、ヴィオレットはサリスルシアが拾ってきた子だし種族も違う。とても次期当主の妻にするわけにはいかないのだよ」
なるほど。よくある話だよね。身分違いの恋ってやつだよな。貴族の坊ちゃんがメイドとか下働きの女性に恋心を抱くってのは漫画でもあるし。そしてそれを反対する親がいるってのはお約束。
「息子も16歳だし、勢い余って何をするか分からないだろう?だからヴィオレットには屋敷を出てもらったんだ。間違いが起こってからでは遅いからな。勝手な事を言って申し訳ない」
「いえ、メルヴィム様謝らないでくださいませ。そうでしたの…私初めて理由を聞きましたわ。でもメルヴィム様には感謝してますのよ。メルヴィム様のおかげで素晴らしいご主人様に出会えたんですもの」
ヴィオレットは晴れやかな笑顔でメルヴィムに感謝している。何か照れるじゃないか。
「ああ、元気そうで安心したよ。今日は兄上達の墓参りに来てくれたのか?」
「そうですの。ご主人様の許可を頂きましてそれでお墓参りに来ましたのよ」
「ありがとう、兄上達も喜ぶだろう。私も今日は時間があったのでこちらに来てみて良かったよ」
メルヴィムさんは持っていた花を手向け、お参りし始めたので俺達は静かに見守る。
しかしそんな中静寂を突き破った奴がいた。
「父上ー!!父上ー。どこにいらっしゃいますか!?」
ここは墓地だというのに大きな声を張り上げて墓地の中を走っているバカがいた。
「拙いな。君達ここの裏手から出て行ってくれないか。あれはうちのバカ息子だ。ヴィオレットを見られるわけにはいかない」
俺達は頷いてそっと裏手から出ようとした時
「ヴィオレット!!??」
見つかってしまった!!どうする?
「アイル!!私はこっちだ!!」
アイルと呼ばれたバカ息子はメルヴィムさんを探しに来たのにもかかわらず、そんな事は忘れたとばかりに一直線にこちらに向かってくる。必死な形相が怖い。
「ヴィオレットー!!やっと見つけた!!会いたかったよ!!!」
メルヴィムさんはケツアゴだがイケメンに対し、アイルはケツアゴが前面に主張して、顔の輪郭は野球ベースみたいで厳ついタイプだ。目はぎょろっとしていて、鼻は大きく口は小さい。ちぐはぐな顔でイケメンから程遠い。こりゃ両親の悪いところばかり似たに違いない。
メルヴィムさんがアイルの前に飛び出すが、そんなものはもうアイルには見えていないらしい。
ドンと突き飛ばされ、倒れそうになっているところをマルクが飛び出してきて支える。やるな、マルク!すっかり忘れてたけど。監視は忘れていなかったらしい。
「ああ、愛しのヴィオレット!!今日こそ僕のプロポーズを受け取って欲しい」
そう言って、一直線にやってきたアイルはヴィオレットの前に肩膝をつき香水のビンを胸元から取り出してヴィオレットに捧げる。
あれって、ヒアリスの香水じゃないか?本当にプロポーズとして使うんだ。妙な事に感心する。しかし、こいつっていつも香水のビンを持ち歩いていたのだろうか?
「アイル様、お気持ちは嬉しいのですけれど私はもう他の人からプロポーズを受けましたの。ごめんなさい、お断りいたしますわ」
ヴィオレットは鞄から俺が渡したヒアリスの香水のビンを取り出してアイルに見せている。
プロポーズではないと念を押して渡したが、この場合の嘘は仕方ないだろう。
「嘘だぁぁぁぁぁ!!!!!どこのどいつだ!!!決闘を申し込む!!」
アイルは頭を抱えていたが、急に立ち上がり怒りをあらわにした。
嫌な展開だよね、これ。
「ヴィオレットに求婚したやつ許せん!!僕がギッタギッタに打ちのめしてやる!!!」
アイルの怒りは頂点に達している。傍から見てると面白いが、その怒りの矛先が俺に向いたら面倒だな。そう思っているとアイルと目が合う。うわ、ヤバイ。
「貴様か!?貴様がヴィオレットに求婚したのか!!!!!!!!!!」
全身怒りでプルプルしてて、鼻息が荒い。
「やめてくださらない!?その方は私の大事なご主人様ですから手を出さないでほしいですわ!」
あー、ヴィオレットそれは拙いよ。案の定アイルの髪の毛は逆立っている。
「僕と決闘しろ!!貴様なんぞ僕の剣技で打ちのめしてやる!!!!」
アイルは腰から剣を抜き出して俺に襲ってこようとするので、3人娘を下がらせる。
「ご主人様、気をつけてください!」
「ご主人様、頑張ってくださいなのです!」
レモもメロリも応援してくれている。ここはご主人様として頑張らないとな。
「私もご主人様が勝つと信じてますわ!!」
そう言われてやらなきゃ男が廃るぜ!俺は、覚えたばかりの格闘術で構える。
剣だと傷つけてしまうし、魔法だと墓地を荒らしてしまうからだ。
剣を持たない俺に更に怒りを覚えたアイルは、唾を飛ばしながら声を荒げた。
「貴様!!僕を侮辱しているのか?素手で僕に勝てるわけがないだろう!!余程死にたいらしいな」
そう言って、剣を振り上げて突っ込んでくるので難なく避ける。何と言うか遅いし、剣技もなっちゃいない。剣を振り回しているだけで、とても剣技とは呼べないものだ。
力任せに振っているので、次第に腕が上がらなくなってくる。ゼーハーと肩で息をしているのが分かった。
「さっきからちょこまかと動いて、男なら正面切って戦え!」
いや、当たらないからって八つ当たり止めてほしいよな。さっさと終わらせよう。
俺は踏み込みアイルの懐に入り、鳩尾に拳を入れる。
「ウグッ」
そのままアイルは倒れこんだ。ふぅ、ようやく静かになった。
「本当にうちの息子が申し訳ない。いきなり襲い掛かるなど…貴族の風上にも置けん。しっかりと教育をしなかった私が悪いな。本当に申し訳なかった」
メルヴィムさんは俺に頭を下げてきた。
「いえ、大丈夫です。頭を上げてください」
貴族ってそんな庶民に頭を下げるようなイメージないからビックリした。この人は貴族でもしっかりした人みたいだ。
「またこのお詫びは後日させてもらうよ。アイルが目を覚まさないうちに連れて帰ることにする。迷惑をかけて申し訳なかったね。ではこれにて失礼」
メルヴィムさんはアイルを引きずりながら墓地を出て行った。
「ちょっと、問題起こさないでくださいよ。ヒヤヒヤしたじゃないですか」
すっかり忘れていたマルクが俺達に声を掛ける。
「ワーリッツ伯爵様がいい人で良かったものの、普通は少しでも貴族の機嫌を損ねたら色々と大変なんですから。気をつけてくださいよ。さあもう墓参りも終わりましたよね?早く帰りますよ。もうこんなにハラハラするのは嫌です」
マルクは一気に捲くし立てると俺達に帰るよう催促をした。確かにもう墓参りも終わった事だし、ここには用事がない。マルクに従って、墓地を後にした。
歩きながらワーリッツ伯爵の事を考える。どこかで聞いたことがあるような名前なんだよな。記憶の片隅から必死で思い出す。あ!ジョニーさんの日記に出てきた名前だ。ジョニーさんやエリーゼさんに関係のあるのかもしれないから今度会うことがあるなら聞いてみよう。
第二の郭の門まで戻ってきて、厳つい門番に挨拶してから出た。やっぱり第三の郭が一番落ち着くわ。
レモの両親やヴィオレットのお嬢様に挨拶できたし、今日は有意義な一日だった。
家に帰ったら麹作り再開だ!!
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