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幕間3-レモの視点ー 前編

思いのほか長くなってしまったため前編後編で分けました。

宜しければお読みください。もちろん読まなくても本編には関係ないので大丈夫です。

少しだけ残酷な表現が入っているのでご注意ください。

 帝都より少し離れた森の中で、デビルバタフライに襲われている子供連れの冒険者達がいた。

 赤髪のスラリと背の高い男の猿の獣人と、金色の瞳が印象的な肉感的な女の猿の獣人が子供を守りながらひたすらデビルバタフライから逃げている。


 「もうだめだ、倒しきれない。俺が囮になるからアランナ、レモを連れて逃げろ!」

 「何言ってるんだい!あたしだってまだ戦えるよ!あんただけ置いて逃げるなんて出来ないさ!」

 「せめてアランナとレモだけでも助かって欲しいんだ!俺は家族を守る義務がある!早く逃げろ!」

 「嫌だよ!あたし達が逃げたらあんたどうやって回復するんだい!?みすみす見殺しなんてあたしには出来ないよ!」

 「くっ、じゃあレモだけでも安全な場所へ!」

 「レモ、そこの木の穴の中に隠れてな!父さんと母さんは、こいつを何とか仕留めるから早くお行き!」

 「うん、分かった。母さん!」

 あたしは母さんに言われた通りに木の穴に隠れる。父さんも強いし、母さんも強い。きっと早くあんな化け物倒してくれる。

 今日は普段冒険者として忙しい両親が、「たまにはレモも冒険に連れて行ってやるか」と一緒に森まで連れてきてくれた。あたしは嬉しくて少しはしゃいでいた為にデビルバタフライの巣がある事を気がつかないで領域テリトリーに侵入してしまった。

 今はちょうどデビルバタフライの産卵時期と重なっていて、ただでさえ気が立っているのにそれをあたしがフラフラと迷い込んだからこうして襲われる事になったんだけど…。

 いつも冒険に連れて行ってくれるときはあっという間に父さんが敵を倒してくれて、傷ついたら母さんが魔法で治す。それが両親の冒険スタイルだった。

 昔、母さんは小さな町のシスターをやってたって言ってたけど母さんのあけすけな物言いに神父様がシスターに向いてないって冒険者の仕事を進めてくれたらしい。そこで父さんと知り合って情熱的に愛し合ってあたしが生まれたってわけ。

 今でも父さんと母さんがイチャイチャしてるのを見ているから両親の仲はいいみたい。弟や妹が生まれてもおかしくないけど、母さんが冒険者の仕事が出来なくなるからって父さんと話し合って避妊してるって言ってた。子供に話すような事じゃないけど、うちの家庭はオープンだったから慣れてるんだよね。

 「グルギャッーーーーーーー!!!」

 デビルバタフライの断末魔が聞こえる。やっぱり父さんと母さんは強いな。きっと倒してあたしに早く出てきなって言ってくれる。

 しかし、いつまで待ってもその声が掛けられる事はなかった。

 不審に思い、木の穴からそっと顔を出して様子を伺ってみるとアトローシャススパイダーがデビルバタフライを捕食しているのが見えた。

 え?父さんと母さんは??

 目を凝らしてしっかり見てみると、アトローシャススパイダーの足元には父さんの使ってきた武器や母さんの杖、それに両親の物と思われる腕や足だけが落ちていた。あまりの出来事に言葉が出ない。どうして?父さんや母さんは強いはずなのに…。

 両親が死んだなんてとても信じられないけど、でも無残な光景を見たら信じたくなくても現実だと嫌でも分かってしまう。

 蜘蛛は蝶を食べ終わるとお腹が満たされたのかまたどこかへ去っていってしまった。ちゃんと近くにいないか確認してから父さんと母さんのいた場所へ向かった。

 あたしは必死で父さんの武器と母さんの杖を拾い、父さんの腕と母さんの足を拾った。

 父さんの腕も母さんの足から温もりを感じる。

 小さい時から、父さんと母さんからは自分達が冒険者だからいつ死んでもおかしくないと言われ続けてきた。いつでも覚悟をしてるつもりだった。でも全然覚悟なんて出来てなんていなかった。

 「父さん、母さん、ごめんなさい!!あたしがデビルバタフライの巣に近づかなかったらこんなことにはならなかったのに!!!」

 溢れる涙が止まらなくて、地面に涙が落ちては吸収される。

 どんなに後悔しても両親が戻ってきてくれる事はないことは分かっているけど、それでもあたしは思い切りしゃくりあげながら泣いた。

 どれくらい泣いたかわからない。気づいた時には父さんの腕も母さんの足も硬直して冷たくなっていた。

 両手に武器や腕、足を何とか抱え、帝都に向かって歩き出す。

 ひたすら足が棒になるくらい歩いて、何とか帝都にたどり着いたときには夕方だった。腕の力ももう残ってないけど、ギルドに行けば何とかしてくれるかもしれない。

 自分を奮い立たせながらギルドに到着する。いつも父さんと仲良くしていたおじさんがあたしに気がついて声を掛けてくれた。

 「おう、レモちゃんじゃないか。クリムとアランナは?また酒でも買いにいってるのかい?」

 「おじさん…父さんと母さんはアトローシャススパイダーにやられて死んでしまいました。これが残った父さんの腕と母さんの足です」

 「え?クリムとアランナが死んだ…?しかもアトローシャススパイダーだって!?とにかく話は座って聞こう」

 おじさんはあたしにジュースを渡してくれ、自身も麦酒を頼んで椅子に腰掛けた。

 「どういうことか教えてくれるか?」

 おじさんにはちゃんと順を追って話した。あたしがデビルバタフライの巣に不用意に近づいてしまった事、両親が倒すためにあたしを木の穴に隠して戦った事、デビルバタフライの断末魔が聞こえたから両親が倒したのだと思って様子を見たらアトローシャススパイダーがデビルバタフライを捕食していた事、そのまわりに両親の武器と腕、足が落ちていた事を話した。

 おじさんは真剣そのものの顔で聞いていて、話が終わったときには青ざめていた。

 「それで、レモちゃんはどうするつもりなんだ?おじさんも少しなら手助けしてやれるが、女の子が暮らしていくにはきついだろう?」

 「父さんと母さんがいざとなったら使えって残してくれたお金も少しあるから大丈夫です。母さんに弟がいるって言ってたのでそこを訪ねようと思います」

 「そうか、それならいいが…。とりあえず、ギルドに報告してからクリムとアランナの墓を作ってやろう」

 「ありがとうございます」

 それからギルドにはおじさんが報告してくれて、その後帝都から少し離れた場所にお墓も作ってもらった。お墓に手を合わせ、少しだけの荷物を持って帝都を後にする。

 あたしは父さんと母さんが残してくれたお金を元に、猿の国へ行って母さんの弟の所で働こうって思って港町まで来た。猿の国は海を渡った所にあるので、かなり帝都からは遠い。

 船賃を聞いてみると、持っているお金でギリギリだったが何とか行けそうだった。ただ、すぐには出港しないので宿屋に泊まって待ちたかったけどお金がギリギリで泊まれなかった。

 少しの荷物を抱え、道端で蹲り何とか眠る。明後日の出港までの我慢だ。

 「チッ、今日はしけてやがったなぁ。大銀貨5枚くらいしか巻き上げられなかったぜ。あー、胸糞悪ぃな」

 「本当ですぜ、旦那。あっしも頑張ったんですがね、大銀貨3枚しか稼げやせんでした。すいやせん」

 「こんなとこにガキが寝てるな。こいつでも蹴っ飛ばして気でも晴らすかハハハ」

 「旦那、それは流石に可哀想ですぜ。こんな子供を蹴飛ばしたら死んじまいますよ」

 「ああ?お前、このオレ様に指図すんのか?」

 「いや、しかし…」

 「お前は黙ってみてりゃいいんだよ!オラ、クソガキこんな所で寝てんじゃねーよ!」

 眠っていたところに急に蹴り飛ばされて痛みで目が覚める。力一杯蹴飛ばされたのか、あたしの体は数メートル吹っ飛んだ。

 「アハハハハ、なかなか気持ちがスカッとするもんだなぁ、おい。どれもう一発蹴り飛ばすか」

 強い痛みが全身に駆け巡る。痛みで意識が朦朧としながらもあたしは男の方を向いた。

 「へぇ、何だクソガキ。オレ様に何か言いたいのか?でも聞いてやらねーぞ。オレ様は稼げなくてイライラしてんだ。更にオレ様を怒らせんなよ?」

 男はヘラヘラ笑いながら、あたしに近づいてくる。痛みで動けないが、何とか力を振り絞って逃げようとした。しかし、すぐに追いつかれて髪の毛をつかまれる。

 「痛いっ!!」

 「逃げようとしてんじゃねーよ」

 男は今度はあたしの顔を張り倒した。男は手加減などしてなくて、強い痛みが頬に走る。

 あたしは今日死ぬかもしれない。こんな男の手によって死ぬのは嫌だけど、力で敵うはずがない。

 「そこまでにしておきましょうよ、旦那。それ以上はダメですって」

 「お前は引っ込んでろ!」

 もう一人の男が引きとめてくれている間にあたしは荷物を持って駆け出した。

 「あ、逃げやがったな!待ちやがれ!」

 痛い体を引きずりながらなので足がもつれて、派手に転んでしまう。持っていた荷物が空に投げ出され、服とお金が辺りに散乱した。

 「お?こいつ金持ってんじゃねーか。やったね。これで酒が飲める」

 男が船賃を手に取るのをみて足にしがみつく。それを取られたら猿の国には行けないし、それは両親が命を懸けて稼いでくれたお金だから取られるわけにはいかない。

 「しがみつくな、クソガキ。これはオレ様の金だ。この金でお前はオレ様からお前の命を買ったんだ。有難く思えよ?へぇ、金貨結構入ってんな。おい、行くぞ」

 男は最後にあたしの頭を蹴って、引き止めてくれた男を引き連れて去っていった。

 体の痛みもよりも両親が必死で稼いでくれたお金を取られた事が悔しいし心が痛い。自分の力のなさに絶望した。

 結局、お金も取られてどこにも行けなくなったあたしは帝都に戻る事にした。死ぬなら両親の近くがいいから…。

お読み頂きありがとうございます。引き続き後編もお楽しみいただけると幸いです。

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