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第18話 それぞれの事情

 【豊かな銀樹亭】に戻ると、マリーナさんが忙しいながらも出迎えてくれる。

 食堂には沢山の客がいるのだろう。さっきから注文の声がフロントまで聞こえてくる。

 酒を飲んでゆっくりするような時間なので、食堂も繁盛しているといった感じだ。

 ここは格安で泊まれるし、料理も美味い。

 人気の宿屋と言っても過言ではない。


 「おかえり、今日は遅かったね。」

 「ええ、少し色々とありまして。あの、4人部屋なんて無いですよね?仲間が急遽増えまして4人になったのです」

 「申し訳ないけど、うちは3人部屋までで、その部屋ももう埋まってるし2人部屋ももう空いてないよ」

 やっぱりそうだよね。朝ならまだしもこんな夜に急に言っても部屋なんて無いよな。

 仕方ない。俺とメロリが同じベッドで、レモとヴィオレットでもう一つのベッドに寝てもらおう。

 「分かりました。今の借りている部屋に4人で寝ますので、2人分追加します」

 レモとヴィオレットの分を追加で払った。

 「はいはい、確かに。お客さんも変わった人だね。それじゃ鍵渡すよ」

 マリーナさんは、苦笑しながらも鍵を渡してくれたので受け取って部屋に戻る。


 「さてと、まずはヴィオレット。君の病気を先に治そう。随分と遅くなってしまって悪かったよ」

 俺はヴィオレットに謝ると、ヴィオレットは慌てたように手を振り首を振っていた。

 多分気にするなということなんだろう。

 俺は無限収納アイテムから万能霊薬エリクサーを取り出し、ヴィオレットに渡す。

 ヴィオレットは薬を受け取ったが、困惑気味だ。

 「それは万能霊薬エリクサーだ。ありとあらゆる病気を治す薬だから安心して飲んで良い。因みにそこのメロリもレモも飲んだ事があるから心配しないで飲んで良いよ」

 ヴィオレットがメロリやレモの方を向いたが、二人とも頷いたのを見て安心したんだろう。

 蓋を開け、少しずつ飲んでいく。

 飲み終わったのを確認して鑑定をしてみると、状態が【良好】になっていたので安心した。

 良かった、心の病にも効くみたいだ。

 「多分、声が出るようになったと思う。少しずつで良いから声を出す事をしてみてくれないか?」

 ヴィオレットは驚いた顔して、俺を見つめる。

 「・・・ぁ・・・ぁ・・」

 声を出そうしてみたのだろう。小さいながらも声になってきている。

 「!!!!あー、あー!!!!」

 お、今度はちゃんとした声に聞こえる。うん、段々調子が戻ってきたみたいだな。

 ヴィオレットは俺の方を向いて笑顔になった。

 「治して頂き、誠にありがとうございます。わたくしヴィオレットと申します。改めまして、宜しくお願い致しますわ。ご主人様」

 ヴィオレットは手で服を少し摘まんで優雅に挨拶をする。貴族の女性がするような優雅な挨拶だ。

 その姿に俺は少し見惚れてしまった。

 メロリもレモも文句無しの美少女だが、このヴィオレットは系統が違うというか、次元が違う。

 超が付く位の美少女だ。

 鳥族と言われるだけあって背中には白い翼が生えていた。

 髪型は薄い水色でウェーブの掛かったロングヘアで、艶があって光り輝いて見える。

 睫毛が長く、瞳の色は紫水晶で、伏せ目がちだと色気が14歳なのに尋常じゃない。

 鼻はちょうどいいくらいの高さで、唇は小ぶりでコーラルピンクだ。

 肌は透き通るような感じで艶かしい。

 身長はだいたい155cmくらいだろうか。俺より少し低いがメロリよりも高い。

 体つきはレモが肉感的ならば、ヴィオレットは華奢なりにも小ぶりだが出る所は出ているという感じだ。

 何というか、この世界の14歳15歳はぱねぇっす。

 これさ、20歳迎えたらどうなるんだろうね?怖いよね。今のうちに唾付けといた方がいいのか?

 いや、いかんいかん。それは捕まるだろう。俺は変態の領域に足を突っ込むわけにはいかないのだ。

 頭を振って邪念を払う。邪念よ、どこかに行け!!!


 「えっと・・ご主人様?」

 ヴィオレットは首を少し傾げながら、俺に聞いてくる。

 おっと、頭を振りすぎた。

 「いや、大丈夫だ。俺の名前はリュート。宜しくな。多分分かってるとは思うけど、犬の獣人がメロリで猿の獣人がレモだ。みんな仲良くしてやっていこうな」

 ヴィオレットに二人を改めて紹介してやると、メロリもレモもヴィオレットに近づき笑顔で話している。

 年齢も近いし、仲良くなるのにも時間は掛からないだろう。

 「みんなお腹空いたんじゃないか?先にご飯を食べて、汗を流した後に少し良ければみんなの話を聞きたい」

 3人の顔を見ると、3人とも頷いてくれたので安心した。

 「じゃあご飯を食べに行こう」

 「「「はい、ご主人様」」」

 俺達は食堂へ向かった。


 食堂に来ると、酒を飲んでいる人で大半は占められていたが端っこに空いている席を見つけたのでそこに向かう。

 ちゃんと4人座れそうだ。

 今日のお勧めを4つ頼んで暫く待つ事にした。

 「そういえば、食べ物で嫌いな物とか好きな物とかある?」

 「メロリはお肉が好きです!嫌いな食べ物は無いです」

 うん、確かにメロリは肉が好きだな。別に魚は嫌いでも無いが肉の方が好きと言う事なんだろう。

 「あたしは、特に嫌いな物はありませんが、果物が好きです」

 なるほど、レモは果物が好きなのね。そういえばここ来てから果物は食べた事ないな。シトロンのジュースを飲んだくらいでそれ以外にはない。果物も見たら買ってやるか。

 「私も嫌いな物はありませんけど、強いて言えば鶏肉が苦手ですわ。好きな物は甘いものですわね」

 鶏肉…。鳥族だからかな。好きな物が甘いものって女の子らしいな。

 他愛のない事を話していたら食事が運ばれてくる。

 今日のお勧めはホーンラビットのステーキとサラダとパンだった。

 ホーンラビットって俺達が討伐依頼で倒した魔物じゃないか。ワイルドボアの時もそうだったが、この世界は魔物を食べる。

 地球では考えられない事だけどね。

 ちなみに魔物と野生動物の差は魔石が取れるのと取れないという事と目が赤いか赤くないからしい。 

 「じゃあ、冷めない内に食べよう。いただきます」

 メロリもレモは手を合わせて「いただきます」と言っているが、ヴィオレットは初めての事なので何のことだか分からずおろおろとしている。

 するとレモがヴィオレットに説明してやったのか、納得したように手を合わせ「いただきます」と言っている。

 ふむ、良い心がけだよね。感謝して食べるってのは。

 まずはホーンラビットのステーキを一口大に切って頬張る。

 おお、これは美味い。初めて野うさぎの香草焼きを食べた時も肉汁が出て美味いと思ったが、これは何と言うか柔らかくてジューシーなのだ。

 牛肉とは違う味なのだが、肉の所々にサシが入っていて噛むと脂がじゅわっと出てきて牛肉を食べているような感覚に陥る。

 味付けは塩のみだけど、肉の味を引き立てていて美味い。

 あっという間に食べ終わったのだが、足りないよな。

 「俺はステーキのおかわりをするが、みんなはどうする?」

 「メロリも食べたいです!!」

 「いいんですか?」

 「私もよろしいのですか?」

 「もちろんだ、好きなだけ食べていいよ」

 そう言うとみんな嬉しそうにしている。うんうん、育ち盛りはちゃんと食べないとね。

 その後、俺は2枚でギブアップしたが3人は結構な枚数を食べていた。

 何というか、その細い体のどこに大量の肉が入っていくのか俺は知りたい。

 後で苦しくなっても知らんからな。


 汚れを落としさっぱりした後、全員が揃ったところで話し始める。

 「さてと、俺はみんなの事を全く知らないからな。まずは色々と聞きたいが、その前に俺から話そう」

 3人とも真剣な顔をして頷いた。

 「俺はリュート。これは知っているよな。年齢は15歳でここより遥か遠くからやってきた。目的は冒険と世界を見て旅をする事だ。人との交流が無いところで育ったから全くこの世界の常識とは分からない。だから色々と教えてもらえると助かるかな」

 15歳…初めてこの世界でステータスを確認したときに35歳から15歳になったのには驚いたが、ちゃんと水の入った桶とかで自分の顔を見てみると中学生の時と同じ顔をしていたので若返ったのは実感済みだ。

 ただ、精神年齢は一応35歳のおっさんなのだが、最近は妙にテンションが高い事も多い。

 体の年齢に合わせて少しは精神年齢も若返ったのかもしれないけど。

 多少の嘘は勘弁してもらおう。だって、異世界から来ました!なんて頭がおかしいと思われるに違いないからだ。

 地球から来てるんだからこっちの常識なんて全く分からないし教えてもらったほうが良いだろう。

 「それじゃ、メロリ。話せるようだったら話してくれ。嫌な事とか話したくなければ無理に話さなくてもいいからな」

 メロリは尻尾をフリフリしながら頷く。

 「メロリは犬族で11歳です。犬の国で育ちましたが、両親に子供が多かったので口減らしで奴隷になりました。今の優しいご主人様とは違う前の怖いご主人様に買ってもらって迷宮ダンジョンに行っていました。そこで罠が発動して大きな爆発音と共にメロリは耳が聞こえなくなったんです。耳が聞こえなくなったメロリは話せなくって前の怖いご主人様に怒られて、奴隷商館で売られそうになっていたところを今の優しいご主人様に助けてもらって、万能霊薬エリクサーで耳も治してもらいました。今のご主人様の事がとっても大好きなのです!メロリはとっても幸せです!」

 メロリは尻尾をブンブンと振って、俺のところへやってくる。

 何この可愛い子は。思いっきり頭を撫でてやったら嬉しそうに目を細めている。

 「それでは、次はあたしでいいですか?」

 レモが訊ねてきたので頷いてやる。

 「あたしは猿族で15歳です。名前はレモ。この帝都で生まれて両親は死んでもういません。野垂れ死にするところをドリー様に助けてもらって、暫く奴隷商館で暮らしていました。それで前のご主人様のエルファン様に買っていただき、冒険者として暮らしていました。罠の探知や解除、それに罠を仕掛けたり出来ます。猿族は器用なので短剣であれば両手で持って敵を攻撃出来るし、弓も使おうと思えば使えます。森の中でトレントを狩っている所にワイルドボアの群れに遭遇して、あたしとペッゼンとモイスで足止めをしましたが、力尽きて大怪我をしたところに今のご主人様が現れ、傷を治してくださったのですがトレントの攻撃で目が見えなくなっていたあたしの目を貴重な薬で見える様にして貰いました。リュート様には感謝してます。あたしもご主人様の傍にいられて幸せです」

 あの亡くなっていた奴隷はペッゼンとモイスという名前だったのか。とりあえず冥福を祈っとこう。

 レモは照れくさそうにしているので、近づいて頭をポンポンと撫でてやった。

 カーッと赤面して俯いてしまう。

 気が強そうなのに照れているのはとっても可愛いな。

 「最後は私ですわね」

 ヴィオレットは頷いて、話し始めた。

 「私はヴィオレット。鳥族で14歳の乙女ですわ。5歳の時に両親が無くなり、帝都を当ても無く彷徨っていた私を貴族のお嬢様が拾ってくださり、それからずっとお嬢様の遊び相手としてお屋敷に住まわせてもらってましたの。そんな幸せが続くと思ってましたのに、長くは続きませんでしたわ。ある日の夜中に賊がお屋敷に侵入したのです。お嬢様はそれを察知したのか私を連れて隠し扉まで来たところで賊に見つかってしまい、私だけを隠し扉に押し込めてお嬢様は賊に立ち向かわれていました。私はただ恐ろしくて逃げてしまったのですわ。気がついた時には外に出ていて屋敷の方を見てみると燃えていましたの」

 ヴィオレットはその事を思い出したのだろう。震えて目からは涙が零れる。

 「その後何とか火が収まったのですが、屋敷の中からは旦那様と奥様、そして私の大事なお嬢様が惨たらしい姿で発見されたのです。私があの時逃げなければと思うと…」

 そこでヴィオレットは涙を堪えきれずしゃくり上げる。

 俺はタオルと取り出し、ヴィオレットに渡した。

 「ごめん、そんな辛い事思い出させて」

 背中を擦ってやると、少し落ち着いてくる。

 「いいえ、誰かに聞いて欲しかったのですわ。私はお嬢様の惨い姿を見てそれ以来声が出なくなったのです。きっとお嬢様が私の事を恨んで声を奪ったのだと思いました。来る日も来る日もお嬢様に心の中で懺悔しました。そうしている間にも旦那様の弟君が当主となられて声も出ない、メイドも出来ない私をドリー様のところにお売りになったのです。そこからの事は皆様がご存知の通りご主人様に買っていただき万能霊薬エリクサーまで与えて貰って今に至ります。私もご主人様に感謝しておりますわ」

 ヴィオレットは涙目ながらも笑顔で俺に感謝を述べる。

 俺は背中を擦るのを止めて頭を撫でてやった。

 「俺はお嬢様はきっと恨んでないと思うぞ。恨むんだったらヴィオレットを自分を差し置いて逃がしたりしない。ヴィオレットはお嬢様が大事だったようにお嬢様もヴィオレットの事が大事だったんだろう。もう自分をあまり責めたりしないでやってくれ」

 「お嬢様が私の事が大事…?」

 ヴィオレットは何か考えるような顔で呟く。

 「そりゃ9年くらいはずっと一緒に居たんだろう?大事だと思うよ。家族って言っても過言じゃない」

 ヴィオレットは俺のほうを見上げる。涙に濡れた紫水晶の瞳が煌く。

 「家族…確かに私にとって旦那様も奥様もお嬢様も大事な人たちでした。一緒に居ると心が温まって癒されてとても楽しかったですわ。それが家族というなら私は本当に大切にされてきたのですね」

 言葉をかみ締めるようにヴィオレットは呟いた。

 「そうだな」

 「私、前を向いて生きますわ。亡くなられたお嬢様の為にも精一杯生きていきます」

 ヴィオレットが決意新たにしたので頷いてやる。

 「そう言えばヴィオレットはどうしたい?このまま自由にしてやってもいいし俺達と冒険しながら旅してもいいけど、どうする?」

 俺はヴィオレットを治してやりたくて買ったのだが、ヴィオレットはお嬢様育ちみたいなものだし冒険者なんて嫌だって言ったら開放してやってもいい。スキルを見せてもらってからだけど。

 「もちろん、ご主人様について参りますわ。私は家事も出来ないですし、非力ですけど頑張ります!」

 ヴィオレットはさっきまで泣いていた子とは思えないぐらい晴れ晴れな笑顔だ。

 うん、やる気があることはいいね。非力なら俺と一緒に魔法を覚えてみるってのも手かもな。

 「それなら俺と一緒に魔法を覚えに行くか?」

 「よろしいんですの!?」

 ヴィオレットは乗り出してくる。

 「ああ、それじゃ明日は一緒に冒険者ギルドに行って魔法使いを紹介してもらおう!」

 「はい!!」

 忘れてたけど、ようやく魔法を覚える時が来た!

お読み頂きありがとうございます。

以前は魔術師としていたのですが、魔法と魔術は違うものだと気がついて魔法使いと変更させていただきました。ご迷惑おかけして申し訳ありません。

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