第16話 嫌な予感
奴隷商館に着いて、エルファン達はさっさと中に入っていく。
俺達も遅れないようにエルファン達の後を追いかけていった。
中に入ると、大きなエントランスがあり、吹き抜けになっている。
現代の日本のガラスよりはかなり曇って半透明だがちゃんと窓ガラスがはめ込まれており、光が取り込まれるような仕組みになっている。
宿屋は木の窓だったが、ちゃんとしたとこへ来るとガラスもあるんだなぁと妙なところで感心してしまった。
光が差し込んでいるからなのか、俺がイメージしていた奴隷商館とは違っていた。
奴隷を売るんだから仄暗くじめじめとした嫌なイメージをしていたのだが、入った限りでは明るくて清潔感がある。まぁ、まだエントランスしか入ってないけど。
「何か御用でございますか?」
俺達を見つけて、執事のような格好のおじさんが近づいてくる。
ちょっと試しに鑑定してみると、名前はセバスチャンで職業はドリーの執事となっている。
セバスチャン…なんてお約束な名前なんだ。
執事といえばセバスチャンというルールでもあるのだろうか?ちょっとテンションが上がってしまった。
「ドリーはいるかい?」
「当商館の主ドリーは現在、他のお客様をお相手になさっております。宜しければお部屋にご案内いたしますのでそこでお待ち頂くか、再度ご来館頂くかになりますがどうなさいますか?」
「リュート暫く待つけど良いかい?」
「ん?ああ、構わないよ」
今日は特に何をするわけでもないので頷いた。
「今、リュート様と仰られましたか?」
セバスチャンが俺のほうを向いて聞いてくる。
「ええ、僕の友人のリュートですけど何か?」
エルファンがセバスチャンに向かって訝しげに聞く。
「もしかして犬の獣人の奴隷を庇い、しかもその奴隷の主人から啖呵を切って金貨30枚を叩きつけてご購入したあのリュート様でいらっしゃいますか!?」
どのリュートだよ。恥ずかしいが、事実なので頷く。
「うーん、多分合ってると思います。ここの商館前でメロリを胸糞悪い男から手切れ金含めて金貨30枚で買いましたから」
「おお、そうでございましたか!!それなら少々お待ち下さいませ。ただいま主を呼んで参ります」
セバスチャンは何をどう思ったのか分からないが、主人を呼んできてくれるらしい。
「え?何だったの?ところで君の仲間の子は他の主人から買い取ったのかい?」
「ああ、この商館前で喚いている男がいて、何かと思って覗いてみたら自分のせいでメロリの耳が聞こえなくなったのにドリーさんにいちゃんもんつけてて、挙句の果てには買い取ってもらえないと分かるとメロリを蹴り飛ばそうとしたんだよ。それでカッとなってつい啖呵を切って衝動買いをしてしまったというわけだ」
「なるほど。しかしよく金貨30枚なんていう大金を持っていたね。君もどこかの貴族なのかい?」
「いや、貴族ではないが小さいときから働いてお金を貯めたんだ」
咄嗟に嘘をついてしまったが、邪竜神と黒の魔王を倒して使い切れないほどのお金を持ってますなんて言えないだろ?
「もしかして薬を作ってお金にしていたのかい?」
「ん?ああ、そういうことだな」
嘘に嘘を重ねてしまった。薬も作れるようになってから日が経ってませんとも言えないよね。
普通は熟練度が上がるまでに多分普通の人はかなりの時間が要するけど、俺は【熟練度20倍UP】のスキルを持っているから異常な速度で出来るようになるからな。
小さいときから作ってましたと言っておけば大丈夫だとは思う。多分。
「お待たせして申し訳ありません。エルファン様、リュート様ご来館ありがとうございます」
ドリーさんがセバスチャンを連れ添ってやってきた。
「立ち話もなんですので、部屋にご案内しましょう」
ドリーさんに案内されてやってきたのは広さで言うと20畳位の部屋だろうか。
ここも半透明だが窓がついており光が差し込んでいる。
華美ではないが、それなりに質の良い家具が置かれていた。
「こちらへお座りください」
なかなか座り心地の長椅子にエルファンとミゼル、そして俺が座った。メロリはレモに一緒に立っているよう言われたので俺の後ろに立っている。
座ったと同時に飲み物が運ばれてくる。さっきのセバスチャンがテキパキとそれぞれに飲み物を配る。いつの間にやら用意していたみたいだ。凄いな、さすがはセバスチャンだ。
「今日はどういったご用件でしょうか?」
飲み物が配り終わったタイミングと同時にドリーが話しかけてきた。
「レモをリュートの奴隷に変更したいので手続きをお願いします」
「それは構いませんが、またどうしてか伺っても?」
「昨日僕達はトレントを狩ってたらワイルドボアの群れに出くわしてね。奴隷を犠牲にして命辛々逃げているところにリュートがいて助けてもらったんだ。ミゼルも大怪我をしていたし、レモは魔物に相当傷つけられて目も見えなくなっていてそれをリュートが治して救ってくれたんだよ」
そこで一度エルファンは飲み物で喉を潤し、また話し始めた。
「それで僕達には冒険者としての才能がないと判断して冒険者を辞め薬を扱う商人になろうと思ってる。折角レモは罠探知や罠解除が出来るんだ。冒険者としてやっていった方がいいと思ったのと、レモ自身リュートの所に行きたいって言ったからね。僕もそれには大賛成だし問題ないということでレモを僕の奴隷からリュートの奴隷に変えてもらおうと思って来たのさ」
「そういう事でしたか。それでしたら手数料は頂きますが、変更出来ますよ」
エルファンとドリーさんで話をしていくらかドリーさんに渡していたので手数料を払ったんだろう。
「では失礼して」
俺に断りを入れてからドリーさんは俺とレモに手を当ててブツブツと呟くとレモの左腕に刺青が浮かび上がる。
「これで完了致しました」
ドリーさんは満足そうに頷いている。
鑑定してみると確かにレモはリュートの奴隷になっていた。
「よかった、これでレモはリュートのものだね。レモもリュートの傍で頑張るんだよ」
「はい、ごしゅ・・エルファン様」
「さてと、手続きも終わったし帰ろうか」
そう言ってエルファン達が立ち上がったので、俺も立ち上がる。
ドリーさんが近づいてきて俺に話しかける。
「リュート様、宜しければお時間ありますでしょうか?」
「え?ありますけど何ですか?」
ドリーさんはエルファンの方をチラッと見る。
エルファンはそれを見て何かを察したようだ。
「リュート、僕達は先に帰るよ。そうそう、暫くは【灰色の熊猫亭】にいるけど店舗を兼ねての家を借りようと思ってるんだ。引っ越したらまた連絡するよ。えっとリュートはどこに泊まってるんだっけ?」
「ああ、言ってなかったか。【豊かな銀樹亭】だよ」
「そうか、じゃあまた連絡する」
「分かった」
エルファンはイケメンがするポーズ(ピースの人差し指と中指をくっつけておでこ付近で振る感じ)をして出て行った。似合ってたからいいけど、あれ俺がやると顰蹙を買うよな。
俺はもう一度椅子に座って、ドリーさんの方を向いた。ドリーさんも座る。
「リュート様、お時間は取らせませんのでお話を聞いてくださいますでしょうか?」
「何ですか?」
「実は当商館では基本的には病気や障害のある奴隷は引き取ったりはしないのですが、とある貴族から奴隷を引き取るよう命令されたのです」
へぇ、そうなのか。どこの世界でも貴族ってのは面倒なもんなんだな。
「それで?」
「お得意様でもある方なので命令とあってはお断りする訳にもいかず、その奴隷を引き取ったのですがその奴隷が、声が出ないのです。声が出ないので話も出来ず、こちらの声は聞こえてるのですがボーっとしている事も多くて売り物にはならないのです」
嫌な予感がプンプンしてきたんだけど…
「それで失礼ながらその犬の獣人のステータスを確認させてもらいました。リュート様がその奴隷を購入されたときは耳を患っていたのに、今はそれが治っているじゃありませんか」
そうだね。買った時は【難聴】と【心臓疾患】だった。でも万能霊薬であっという間に治しちゃったけど。
「リュート様がその子の病気を治せる手段を持っている、もしくは教会などで高い治療代を払い治療してもらっていると考えられるわけですよ」
まぁ、そうなるよね。俺だってそう考えるわ。
「それで無理を承知でお願いします。どうかその奴隷を買って頂けませんでしょうか?」
嫌な予感的中…。
「駄目でしょうか?お願い致します」
ドリーさんは頭を下げる。
「いや、頭を下げられても…。僕にはメロリやレモもいますし…」
後ろに立っているメロリやレモを見る。二人とも心配そうな顔をしている。
うーん。少し喉が渇いたので飲み物に口を付ける。
これは、紅茶っぽい味だ。鑑定してみるとレッドティーだった。そのまんまじゃないか。
「声は出ませんけど、かなりの器量の良い娘です。貴族から買い取りましたが、14歳でまだ生娘のままです。存分にお楽しみ頂けるとは思いますよ」
「ブーーーーッ」
畜生、予想してない言葉が出てきて噴いたわ。ドリーさんの顔に思いっきりレッドティーが掛かっていた。
「す、すみません!!」
俺は慌ててタオルを取り出してドリーさんに渡して、布でレッドティーまみれの机や椅子を拭いた。
ドリーさんはタオルで顔を拭っている。
「いえ、大丈夫です。どうでしょうか?考えて頂けますか?」
ううう、とりあえず見るくらいなら…だって顔面にレッドティー噴いちゃったしね。
「まずは見せてもらえますか?」
「もちろんでございます。少々お待ち下さいませ」
ドリーさんはベル様なものを取り出し、鳴らす。すると扉をノックし「失礼致します」とセバスチャンが部屋の中に入ってきた。
「お呼びでございますか」
「例の奴隷をここへ連れてきてくれ」
「畏まりました、少々お待ち下さいませ」
セバスチャンはお辞儀をし、出て行った。様になるぜセバスチャン!
待っている間にドリーさんと他愛もないことを話しているとトントンとノックする音がする。
「入れ」
「失礼致します。お待たせし申し訳ございません。奴隷を連れて参りました」
セバスチャンと後ろからセバスチャンに隠れるように少女が入ってくる。
「こちらに連れてきてくれ」
ドリーさんがその少女を俺の目の前に連れてくるようセバスチャンに指示する。
セバスチャンも心得たように少女を俺の前に立たせた。
「こちらが先程言っていた奴隷です。鳥族の娘で年齢は14歳。名前はヴィオレットでございます」
俺の前に立たされた鳥族の少女は無表情で俺を見ている。瞳に生気が宿っていない。
俺は早速鑑定をしてみた。
名前:ヴィオレット
種族:鳥族(白鳥族)
年齢:14歳
職業:奴隷
状態:【失声症】【心的外傷】
レベル:3
HP:40
MP:85
スキル
【鷹の目】熟練度:★
【梟の目】熟練度:★
【燕の飛翔】熟練度:★
<固有スキル>
【天使の歌】
ふむ、【失声症】と【心的外傷】とあるが、俺は医者ではないので推測だけど心の傷・・ストレスによって声が出なくなっているということだろうか?
色々と気になるスキルを持っているし、仲間にしても良いとは思うけど果たして万能霊薬で治るのかね。
心の傷にも効くんだろうか?試す価値はあるんだが、本人がそれを望むかだよな。
暫く放っといて欲しいって事もあるだろうし。
聞いてみるか。
お読み頂きありがとうございます。




