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序章 プロローグ

もうどれぐらいこうしているだろう。

私は光の射さない真っ暗な空間の中でうっすら目を開けた。

冷たい石の床に寝そべっていたので、お尻と背中が痛い。

起き上がろうとしたが、手足に架せられた鎖の重みでうまくいかない。

しばらくもがいた挙句、諦めて背中だけを反らせて自分をごまかした。

・・・なんでこんな事になっちゃったんだろう。


私の名前はシルヴィア・ルー。16歳。

両親は私が小さい頃に流行り病で亡くなり、教会が運営している孤児院で生活している。

16歳ともなると周りはほとんど年下ばかりなので、シスターの下で子供たちの世話をするのが日課だ。

だけど、そろそろ私も仕事を見つけて、孤児院に生活費を入れたいと常々思っていたので、今日もシスターに断って職業紹介所に出かける・・・途中だった。

少し人通りの少ない路地を歩いていた途端、背後から突然布のようなものを口に押し付けられた。

咄嗟に暴れるが、ごつごつした男性の手はがっちり私の腕を掴んでいて振りほどけない。

そうこうしているうち、徐々に意識が遠のいていき・・・次に目覚めた時にはこの状態、という訳だ。

目を開けていても、閉じているのかと錯覚するほどの暗さ。

手足の枷は予想外に重くひんやりしていて、暴れる度に皮膚を擦りむいていく。

痛みに顔を歪ませ、私はぼんやりと思いを巡らせる。

・・・シスター、心配してるかな。

自警団に通報してくれただろうか。

時間の感覚がいまいち掴めないから、孤児院を出てどれぐらい経っているのか分からない。

私・・・どうなっちゃうんだろう・・・

不意に寂しさが胸を締め付け、涙が溢れてきた。

ぐすぐすと鼻をすすりながら流れるままに泣く。

泣いても何も始まらない。だけど、不安で押しつぶされそうで、それを思う度に新しい涙が溢れ、止まらなかった。

そのまましばらく泣いて、少し落ち着いた私は涙を拭こうと頑張って腕を上げた。

そのまま目に腕を持っていき・・・

「・・・・・・ん?」

涙を拭いた腕に違和感を覚えた。

・・・なんか、自分の腕にしては妙に毛深かったような・・・

と、その時。

がらがらがっしゃぁんっと、外から物凄い音が聞こえてきて、びくっと身をすくませる。

な、なに!?何が起こってるの!?

びくびくしながら、外に意識を集中させる。

相変わらずどかん、がしゃん、とけたたましい音とともに、どこだー、探せーという野太い男性の怒鳴り声が聞こえてくる。

・・・とにかく大騒ぎになってる事は間違いないみたいだけど、様子が分からないだけにこの声が何を意味するのか全く分からない。

と、突然ばぁんっという音とともに強烈な光が飛び込んできて、私はあまりの眩しさに目をきつく閉じる。

「・・・見つけた」

不意に上から男性の声が降ってきた。

その声はハッキリしているけれどとても優しく、私は声の主を見ようと一生懸命目をしぱしぱさせる。

「もう大丈夫。助けに来たよ」

・・・助けに、来た?

ようやく光に目が慣れてきて、やっと相手を見上げる事が出来た。

お城の騎士様かな、エンブレムを付けた鎧を身に付けてはいるけど、ヘルムはつけていないので顔が露わになっている。

その容姿に絶句する。

世の中にはこんな美形がいるものなのか!

さらさらした金髪に、はっとするほど鮮やかな紫の瞳が私を優しく見下ろしている。

心臓がさっきまでとは違う意味で早鐘を打つ。

「金の瞳が印象的だね」

そう言って手を差し出されーーーーー

私は咄嗟に後ずさった。

鎖が邪魔して実際はほとんど後ずされていないけれど、それでも私は必死だった。

だって・・・怖い。またどこかに連れ去られてしまうんじゃないかって思うと身体が勝手に・・・!

怯えて警戒する私を見て、目の前の男性はしばらく考え込む。

「そうか・・・そりゃ怖いよね。知らない男がいきなり手を差し出してるんだもんね。」

じゃあ、と言って屈み込み、彼は差し出していた手を片手から両手に変え、手のひらを空に向けた。

「こうしよう。・・・君から少しずつ、おいで」

そのまま優しい笑みを浮かべて静止する。

なんだか、その姿はとても大きく、頼もしく見えた。

私はその顔と手を交互に見比べる。

・・・信じても、いいんだろうか。

「その重そうな鎖を切るには君に心を許して貰わなくちゃいけない。だから、僕を認めてくれるなら、おいで」

その言葉には、嘘は感じられなかった。

・・・誰でも、いい。この状況から救ってくれるなら。

私は最後の力を振り絞り、ずず、と鎖を引きずり、すぐそばにあった彼の手のひらに顔をぽて、と乗せた。

その瞬間意識が急速に遠のく。

がちゃん、という音と手足が軽くなった感覚を最後に、私の意識は闇に堕ちた。




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