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 今回はかなり短いです。

 すみません。

 はて、なんでだろうか。

 濡れた髪を拭きながら、こいつはここでこんなことをやっているのだろう? と率直に疑問に思ってしまう。


「なあ、何やってんだ?」


 疑問符を頭の上にいくつも思い浮かべながら、明日香に尋ねる。しかし、尋ねられた当の本人である明日香はと言えば、逆に何がかな? と尋ね返してきた。

 訊いているのはこっちなので、なんだか腹が立つが、どうやら短縮している部分から離さなければいけないらしい。


「いやだからさ、なんでお前は俺のじいちゃんの家に住んでるんだ?」

 そう、そうである。

 何故か、この少女はじいちゃんの家の一室を自分の部屋にしている。


「ああ、そのことだね」


 明日香は得心いったように呟く。

その声音がどうも軽く感じてしまい俺は、


「いやいや、その事しかないだろ」


 とつい言わなくても良いことまで言ってしまった。

 別に言って怒られることではないので良いのだが、それにしても彼女の態度がどうも深刻なものに感じないのだ。人んちに住んでいるのなら、もう少し……うーんなんて言って良いんだろうか。まあ、とりあえず何か思ってもいいはずだ。

 それなのに彼女の態度と言ったら、実に軽いものである。


「まあ、色々と事情があるんだけど――」


 そりゃ色々と事情がなけりゃ、他人の家に住みこんだりはしないだろうよ。そんな当たり前のことを内心でツッコミながら、俺は彼女の言葉の続きに耳を傾ける。


「お父さんとお母さん、島の外に働きに出てるんだよ」

「ふーん。でも、答えになってないだろ。ここに居る理由にはよ」


 彼女はその言葉に、あははは、と苦く笑いながら、


「それを訊くかな」


 と呆れと愚痴を混ぜ込んだような声音で返答してくる。その態度に眉を顰める俺だったが、しばらくしてから失言だったということに気が付いた。

 そう、もう答えは提示されていたのだ。


「あ、そうか」

「うん、そういうことだよ」


 ニコリと笑って彼女は肯定する。

 そういうこととはどういうことか。

 答えは聞くまでもない。詰まる所そういうことだ。

 明日香は病気を患っている。

 今目の前でにこにこと笑い続けている彼女は、本当は何かしらの薬でどうにかこうにか命を繋ぎ止めている。

 俺はどう言えばいいのか分からないまま彼女を見つめ、奥歯を噛みしめた。

 明日香とは今日知り合ったばかりの奴だ。知り合いではあるけど、友達ではない。だからそこまで思い悩んで、優しい言葉を掛ける必要はない。

 けれど、なんでだろう。俺の彼女の顔を見据える視線が震えていた。


「大丈夫?」


 いつまで経っても口を噤ませていることから、俺の様子が可笑しいと感じたのだろう。彼女は澄んだ瞳に、不安の色を含ませながら尋ねてきた。

 そこで俺の意識はようやく目の前に戻る。


「あ、ああ、大丈夫だ」


 なにも大丈夫じゃない。

 けれど、名も知らぬ感情に促されるまま嘘を吐いた。


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