3 促され
今回はかなり短いです。
すみません。
はて、なんでだろうか。
濡れた髪を拭きながら、こいつはここでこんなことをやっているのだろう? と率直に疑問に思ってしまう。
「なあ、何やってんだ?」
疑問符を頭の上にいくつも思い浮かべながら、明日香に尋ねる。しかし、尋ねられた当の本人である明日香はと言えば、逆に何がかな? と尋ね返してきた。
訊いているのはこっちなので、なんだか腹が立つが、どうやら短縮している部分から離さなければいけないらしい。
「いやだからさ、なんでお前は俺のじいちゃんの家に住んでるんだ?」
そう、そうである。
何故か、この少女はじいちゃんの家の一室を自分の部屋にしている。
「ああ、そのことだね」
明日香は得心いったように呟く。
その声音がどうも軽く感じてしまい俺は、
「いやいや、その事しかないだろ」
とつい言わなくても良いことまで言ってしまった。
別に言って怒られることではないので良いのだが、それにしても彼女の態度がどうも深刻なものに感じないのだ。人んちに住んでいるのなら、もう少し……うーんなんて言って良いんだろうか。まあ、とりあえず何か思ってもいいはずだ。
それなのに彼女の態度と言ったら、実に軽いものである。
「まあ、色々と事情があるんだけど――」
そりゃ色々と事情がなけりゃ、他人の家に住みこんだりはしないだろうよ。そんな当たり前のことを内心でツッコミながら、俺は彼女の言葉の続きに耳を傾ける。
「お父さんとお母さん、島の外に働きに出てるんだよ」
「ふーん。でも、答えになってないだろ。ここに居る理由にはよ」
彼女はその言葉に、あははは、と苦く笑いながら、
「それを訊くかな」
と呆れと愚痴を混ぜ込んだような声音で返答してくる。その態度に眉を顰める俺だったが、しばらくしてから失言だったということに気が付いた。
そう、もう答えは提示されていたのだ。
「あ、そうか」
「うん、そういうことだよ」
ニコリと笑って彼女は肯定する。
そういうこととはどういうことか。
答えは聞くまでもない。詰まる所そういうことだ。
明日香は病気を患っている。
今目の前でにこにこと笑い続けている彼女は、本当は何かしらの薬でどうにかこうにか命を繋ぎ止めている。
俺はどう言えばいいのか分からないまま彼女を見つめ、奥歯を噛みしめた。
明日香とは今日知り合ったばかりの奴だ。知り合いではあるけど、友達ではない。だからそこまで思い悩んで、優しい言葉を掛ける必要はない。
けれど、なんでだろう。俺の彼女の顔を見据える視線が震えていた。
「大丈夫?」
いつまで経っても口を噤ませていることから、俺の様子が可笑しいと感じたのだろう。彼女は澄んだ瞳に、不安の色を含ませながら尋ねてきた。
そこで俺の意識はようやく目の前に戻る。
「あ、ああ、大丈夫だ」
なにも大丈夫じゃない。
けれど、名も知らぬ感情に促されるまま嘘を吐いた。