後編
焚き火をはさんで向かい側にいる彼を見て、不思議なものだと思う。
印象的なのは、私よりも長い黒髪。シティにも黒髪の人はいたけど、どれも茶色が暗くなったような色だった。象牙色の肌に澄んだ翡翠色の瞳。瞳は特に、不思議だ。瞳孔が獣のように細いのだ。彼の村の人たちは、皆こんな姿をしているのだろうか。
きっと、彼らはシティの人間とはまったく違う進化過程を辿ったはずだ。大柄な体格や発達した筋肉を見ればわかる。彼を手当てした時にわかったことだけれど、内蔵の作りも少し異なるようだった。
外の世界って、不思議なことだらけ。
「傷、大丈夫?」
さっきから時々顔をしかめているのが気になった。彼の体格を考えれば、それほど大した傷には思えなかったけれど、万が一ということもある。私もそれほど医術に通じているわけでもないし。
「大事無い。もう塞がってるだろう」
「そう、よかった」
安心して椀の中身をすする。
食事を終えて出発し、半日も歩くと彼の仲間と合流した。
「若、ご無事でしたか……!」
次々と彼に駆け寄る男たち。やはり、彼と同じように大柄だ。
「お前たちは無事だったか?」
「皆大きな傷は負っておりませぬ。若は?」
「腹をやられたがもう癒えた。その娘のおかげだ。」
彼と話していた大柄な男は、そこで初めて私のほうを見た。
「若、こやつは都市の人間ではありませぬか」
「手当てをしてくれ、脱出も助けてくれた俺の恩人だ。村まで連れて行くことにした。丁重に扱うようにしろ」
「了承しました」
「さぁ、行こう。無事に村にたどり着きたかったら、ぐずぐずしてはいられまい」
そう言って彼は皆を率いて歩き出した。
私は彼と言葉を交わしていた年長の人の横に並び話しかけた。
「さっきの彼の言葉、ああいえば聞こえはいいけど、本当はシティから出たくて条件を出した、我が儘娘なんだ。お荷物になると思うけど、村までどうかよろしくたのむよ」
少し笑えば、相手も笑みを返してくれた。
「貴方様はどうやら素直な方のようだ。若のお隣に行きなさい、呼んでおられます」
「ありがとう、そうするね」
これからどうしょうか。あの檻を抜け出した私には、何ができるだろうか。
迷いも戸惑いもある。でも、もう私は囚われていない。そして、独りぼっちでもなくなる気がする。先頭に立つ彼に駆け寄りながら、私はそう思った。
あとがき
はじめまして、織といいます。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
初投稿で見難いところもあると思いますが、評価してくださるとうれしいです。
登場人物について少し書いておきたいと思います。
娘……ケイトリン・E・マクレガー。シティに住む十九才。植物と動物が好き。
男……刹那。シティの外に暮らす種族の次期族長。
牙獣……アルフォン。ケイトリンが世話していた。
部下……族長の補佐。名前はまだなし。
このお話はもっと長い物語の始まりというか、プロローグのようなものなので、今後もしかしたら長編に書き直したものを掲載するかもしれません。