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野球の世界も医療の世界も全く空想上の物です。
ご不快に思われたり、面白くないと感じる方はお読み頂く必要はありません。
この事を踏まえ訪れて頂くようお願いします。
夢の球宴と言われるオールスターゲームが終わり、後半戦が始まったある日、
スポーツ新聞だけではなく、一般紙も1面の記事は、皆同じだった。
【神海リバティーズ 須藤 靭帯断裂!】
【須藤 今季絶望か!】
【3億円プレーヤー 須藤の復帰はいつ?】
鈴乃は丁寧にドリップした目ざめの朝の珈琲の香を楽しみながら、
新聞をポイっと机の上に置き、テレビをつける。
『今季絶好調だっただけに、この怪我は残念ですね』
『オールスターではMVPも獲得して、波に乗っていた所だけに、
神海リバティーズのこの後の戦いに不安が残ります』
『4番の主砲の抜けた穴は、大きいです。
これで、ペナントレースの行方がますます分からなくなってきました』
どの局もやはりトップニュースは、同じだった。
朝の顔と言われているキャスターと女子アナが深刻そうに、
熱弁をふるうスポーツコメンテーターに頷いている。
何度も、その怪我の元になったシーンが映し出される。
観葉植物に水をやりながら、テレビをチラチラ見る。
3塁コーチが腕を回す。
須藤が3塁ベースを回りホームベースに全力疾走で向かう。
レフトから好返球がかえってくる。
足から滑り込んだ。
キャッチャーがミットにボールを納め、走り込んできた須藤にタッチしようとする。
大男同志のぶつかり合い。
砂埃が上がった。
審判の手がアウトのコールを告げる。
走り込んできた須藤は足を抑え、立ち上がる様子がなく、倒れ込んだまま。
審判が担架を要請する。
神海リバティーズの監督・選手が飛び出してくる。
相手側のピッチャーを始め野手全員がホームベース上に集まる中、
担架に乗せられ、須藤がトレーナーに付き添われてグランドを去る。
チラッと映った、その顔が歪んでいた。
「あれはきついかも・・・・」
テレビを見ていた鈴乃はポロリと言葉を発した。
「でも、このニュースがテレビも新聞もトップニュースだなんて、日本は平和だわ」
鈴乃は、ひとしきりそのニュースを見た後、テレビを消した。
時計を見る。
出かける時間だ。
靴を履きながら、今日のスケジュールを頭でなぞっていく。
患者の顔が思い浮かべながら、マンションの駐輪場に留めてある愛車に乗り込む。
今日も日差しがきつい。
きっと日焼け止めは効かないだろう。
これも気休めと思いながら、キャップを深くかぶり、つばで少しでも
顔に日陰が来るように気をつける。
そしてその上からヘルメットをつける。
仕事場まで、20分。
サングラスをかけ、自転車にまたがった。