1-4 急襲
リーンロッズ村まで目前というとき……
「何だ、お前達は?」
ユウ達3人は、10人もの盗賊のような奴らに進路を妨害された。
だから、ユウはいったのだ。
お前達は何だ、と。
「お前達3人を殺すように言われた者だ」
賊のリーダーらしき人物が言った。
「ああ~、あの小汚い下郎か」
こんな時でも余裕綽々のユウ。
「調子に乗るなぁ! 俺達は……」
「誰も自己紹介求めてねーよ、雑兵A」
「んなっ!?」
あまりにもあんまりな発言。
「んで……その格好は、PK集団か?」
「そうだ。お前らを殺しに来た、な」
リーダーが脅すように言う。
「ああ、了解了解。どう見たってPKの格好だもんな。機動力優先の防具に、短剣。威力は低いが麻痺属性の、取り回しやすい短剣だな。さらに2人は麻痺毒弾を装填したボウガンか」
一瞬で分析される殺人部隊。
それに、PK達とはいえど、恐怖を抱かずにはいられなかった。そして、ユウはとんでもないことを口にする。
「お前らを生かしていれば、さらに多くの人々が殺される。2週間も経たない内に、PKになったんだ。腹の底から黒いに違いない……。だから……貴様らは皆殺しにしよう。命乞いをしても慈悲はかけない」
その言葉に、少女達に戦慄がはしる。自分達と同年代くらいの少年が、殺すと言ったのだ。冗談抜きでヤバい。
「わかってねぇなぁ……」
PKの1人が卑下た笑みを浮かべる。
「この状況では、俺達に主導権があるんだぜ? 行くぞ、てめぇら!! 死ねぇ!!」
PK3人が短剣を抜き、ユウに突っ込む。
一方、ユウは溜め息混じりに……
「主導権云々は誰が決めたのやら……」
そう呟き、刀を抜く。
そして、また呟く。
「……裂空波」
刀を一閃させる。そこから放たれる巨大な鎌の刃のような衝撃波。
「んなっ!?」
PKが驚きの声を上げた。
だが、もう遅い。
衝撃波がPK3人をなぎはらう。
「ぐはっ……!?」
強烈な痛みに、声も出ないPK達。だが、彼らは見ていた。驚愕の目で。
空になった自分のHPバーを。
バカな……
それすらも声に出せず、ガラス細工の如く砕け散った。
辺りに静寂が戻った。
PK達は、恐怖で動けない。それは、ニーナとセレスにとっても同じことだ。
「……どうした。終わりか? なら、こちらからだ……爆砕陣!!」
ユウは刀を地面に叩きつけた。
地割れが、ボウガン装備のPK2人を襲う。
地割れから溢れ出た灼熱の焔が、PKを焼き尽くす。
悲鳴すらあげられずに、2人とも砕け散る。
「あと5人……」
「ひっ……!?」
PK達が恐怖に駆られた。
だが、逃げ出せなかった。逃げ出す前に、砕け散ったのだ。
裂空波を放たれ、さらに3人が死ぬ。
「い、嫌だ!! 死にたくない、助け……」
助けて、というセリフは途中で切れた。
ユウが問答無用に奪命撃を食らわせたからだ。
ガシャン、という音と共に砕けるPK。
「く、来るなぁ!? コイツを殺すぞ!?」
「た、助けて……」
セレスが最後の1人に人質にされている。
だが……
「アホか?」
ユウは冷たく言った。
「な、何だと?」
「これはゲームだ。そんな威力の低い短剣で、俺がお前を殺す前に、セレスを殺せるわけがない」
「だ、だが、お前の変な剣技は使えないぞ!?」
「使う必要性も感じない……」
そう言って、ユウは素早く駆け出した。
「んなっ!? ぐあっ!?」
そして、最後のPKの顔面に痛みがはしる。通常攻撃だ。ユウからの。セレスに攻撃する暇さえなかった。
凄まじい速さだ。この速さはシステム外の能力によるものだ。彼自身、運動神経が良いのだ。さらにステータス補正もある。凄まじい速さになるのは、頷ける話だ。
「だが……なっ!?」
通常攻撃だから大丈夫だと、このPKは思っていた。
だが、見てしまった。
ユウに振り返った時、自分のHPバーを。
空になったHPバーを。
「そんな……」
最後のPKも砕け散った。
「終わったな……」
ユウは、人質にされていたセレスに向き直った。
「大丈夫か?」
ユウはそう声をかけた。
「は、はい……」
セレスが気圧されたように返す。ニーナもユウを怖がっているようだ。
ユウは自嘲気味に笑った。
「ははっ……ふう。これで俺もPKか」
そう言って、仮面を外した。
「あ……」
端正な顔立ちだった。イケメンともいえなくはない。だが、翳りが差している。
そして、寂しそうだった。
だから、ニーナもセレスも理解した。彼は不本意なのだ。人殺しをすることは。
彼は、いい人なのだ。
そして、自分達と同年代の子供なのだ。
だから、怖がることはないのだ。
「なに、ぼさっとしてんのよ!! 早く村に行こ!!」
ユウはキョトンとしていた。ニーナもセレスも、彼に微笑む。
ユウは、少し顔を俯けて、何かを言った。よく聞こえなかったが。
そして、ユウは顔を上げる。
初めて見た、彼の笑顔だった。と、いっても微笑み程度だが。
「そうだな」
ニーナとセレスは知らなかったが、彼女達は彼の心を救ったのだ。
たとえ悪人とはいえ、人を殺してしまい、大事な義妹にあわす顔がないと落ち込んでいたユウの心を。
彼女達の微笑みが、彼のしがらみを絶った。ユウは怖かったのだ。普通に接してくれないことが。
それを、義妹にもされるのではないかと。
だが、彼女達はそうしなかった。
彼にとって、これほど嬉しいことはない。
そして、ユウと、セレスとニーナは、この先長い付き合いとなる。
リーンロッズ村に入ってから、ユウ達3人は、色々としてくれた男を探していた。
セレスもニーナも怒り心頭だ。
「アイツだけは、絶対に許さない……!」
ニーナが怒気を迸らせながら言った。
「ヤツは何て名前だ?」
「イ、イージスです……」
なんという名前だ。人を囮にして盾を名乗るとは。
「一発痛い目にあわすか……」
「もうあわしてるけどね」
ニーナのツッコミは聞こえなかったことにするユウ。
この村には、かなりの人間が移っている。
数にして1000人近くだ。十万人のうちの1%だが、デスゲームになった今、1000人も戦う勇気を持ってくれたのは、むしろ僥倖だ。残念ながら犯罪者達もいるが。
リーンロッズ村は割と大きい。
1000人くらいなら、普通に宿をとれる。
そういうわけで人の多い村だ。イージスを探し出すのは難しい。
もちろん、超人的戦闘能力を持つユウにもどうすることも出来ない。
「仕方ない。あんなゴミを探すのも時間の無駄だ……。もう宿をとって寝よう」
ユウがそう提案する。
「そうですね。疲れましたし……」
「いつかボコボコにしてやるわ」
それぞれの反応を見せながら、ユウの意見に賛成の様子の2人。
「じゃあな。イージスみたいな野郎に捕まるなよ」
ユウが別れを言う。どうやら、ニーナやセレスと共に戦う意思はないらしい。
「あ、あの……」
セレスが遠ざかろうとするユウに声をかけた。
「ん?」
振り向くユウ。
対するセレスは、モジモジしながらユウに何かを言おうとしている。
ニーナは、セレスの様子を注意深く見ていた。
セレスの可愛らしい顔が、少し朱に染まっている。
まさかとは思うが、セレスはユウのことを……
ニーナは感づいた。
だから、少し手伝うことにした。
「私達としばらくパーティー組もうよ」
ニーナが言った。セレスが驚いた表情でニーナを見る。
一方のユウは、少し考えるそぶりを見せた。
「確かに、アンタに比べたら私達は弱いけど、せっかくだし最後まで面倒見てよ」
さすがにおこがましいとは自分でも思うニーナだが、セレスのためだ。
ユウはしばらく考えて……
「構わない」
それを聞いて、セレスの表情が明るくなった。
「よ、よろしくお願いします!」
少し噛みながらセレスが言った。
これは確実ね……
ニーナはそう判断した。セレスはユウに好意を抱き始めている。今日会ったばかりの少年に。
だが、セレスの性格上仕方ないのかもしれない。彼女は、おとなしく、少し臆病だ。
だから、強くて頼りになるユウに惹かれたのだろう。
リアルでも親友であるニーナに出来ることは応援することだけだ。
「とりあえず、明日の予定は明日に考えることにして寝よう……マジ眠ぃ」
時間的には夜11時頃だ。たくさん戦っていたのだから眠いのは仕方ない。
ユウ達は、とりあえず明日から行動を始めることにして、宿屋で休息をとることにした。