1-2 神刀の舞
「でやぁぁぁぁっ!!」
ゴブリン・アーマードにユウの奪命撃が直撃する。
それにより、ゴブリン・アーマードの2本目のHPバーが全損した。
ゴブリン・アーマードが反撃のために斧を振るう。それを裂空波でパリィするユウ。
「奪命撃!!」
ユウの奪命撃がゴブリン・アーマードに直撃する。
だが、反撃できたゴブリン・アーマードの膝蹴りがユウに直撃する。
「ぐっ……は……」
10メートルほど吹き飛ばされるユウ。
HPバーが4割まで減少する。
「ユウ、下がれ!!」
マックス達、計8人が前に出る。
もちろん、ほとんどパリィだ。攻撃するほど、彼らには余裕はない。
彼らだってダメージを負っているのだ。リスクを承知で攻撃することはできない。
ユウは最後のHP回復剤でHPを満タンにして、ゴブリン・アーマードに向かった。
「マックス、交代だ!!」
「スマン、頼んだ!!」
ユウが前に出て、8人が後退する。
「爆砕陣!!」
爆砕陣の炎を纏った地割れがクリーンヒット。
ゴブリン・アーマードのHPバー3本目が減る。
「まだまだ!! 裂空波!!」
裂空波の衝撃波がゴブリン・アーマードに直撃し、ダメージでゴブリン・アーマードが一瞬だけ硬直した。
その間にユウは接近し、奪命撃を発動。
無防備なところを直撃した。
さらにもう一撃。もう一度、奪命撃を打ち込んだユウ。
ゴブリン・アーマードのHPバー3本目が半分以下になった。
「くそっ……TPが!?」
剣技を連発しているため、TPの消耗が驚くほど早い。
「マックス、頼む!!」
「了解!!」
ユウは下がって、TP回復剤を飲む。
「くそっ……これが最後か……」
TPは全快したが、TP回復剤はもうない。
これでは、ゴブリン・アーマードを倒す前に燃料切れだ。
「マックス、交代!!」
だが、やるしかない。生きるためには戦うしかない。
「裂空波!!」
次々と剣技を当てていくユウ。
と、そのとき。何らかのファンファーレが鳴り響いた。
目の前にウィンドウが現れた。
「すまん、下がる!!」
ユウはそう言って後退した。
「スキル熟練度100達成……? 新技習得?」
ユウは剣技一覧を確認した。
すると、4つ目の剣技が表示されていた。
「迅乱撃……?」
この技は、TPだけでなく、MPも消費する上に発動後、数秒間は行動不能になり、5分間、迅乱撃の発動は不可能になるという説明書きがなされている。
「……賭けるか……」
ユウは呟き、一気に駆け出した。
「マックス、交代!!」
「ユウ、頼む!!」
「ああ……迅乱撃!!」
発動した瞬間、ユウが目にも止まらぬスピードで加速した。
刀身が白く輝く。
超速でゴブリン・アーマードを突き、その後、刀を遠心力をうまく使うように振り回した。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10……
計11連撃だ。
「グワオオオオオオオッ!!」
今の一撃……いや、11連撃で3本目が全損、4本目がレッドゾーンに達した。
だが、ユウは数秒間動けない。そこでゴブリン・アーマードが反撃する。
「グワオオオオオオオッ!!」
斧が赤く光る。剣技だ。最初に裂空波に似た剣技を見た後、何も出してこなかったがピンチになって、ようやく出してきたようだ。
「ああ……」
死んだ……、確かにユウはそう思った。
だが、マックス達は上手くゴブリン・アーマードを倒してくれるだろう。
もう4本目……最後のHPバーもレッドゾーンなのだ。
だが、ユウは死ななかった。
「ユウ!!」
マックスの叫び声がかなり近くで聞こえた。
そして、マックス達8人がユウの視界内に現れ、8人共同でゴブリン・アーマードの剣技をパリィする。
凄まじい轟音が響き、ゴブリン・アーマードの剣技がパリィされる。
マックス達8人は、思いっきり吹き飛ばされる。幸い、深刻なダメージを負ったプレイヤーはいない。
ユウは、吹き飛ばされるマックスと目があった。
彼の目は言っていた。
‘倒せ’と。
「言われなくとも……!!」
ユウはゴブリン・アーマードに攻撃をかける。
だが、剣技は使わない。剣技なしの通常攻撃ではゴブリン・アーマードへのダメージは微々たるものだ。
だが、ユウには剣技1回分のTPしか残っていない。それでは恐らく一撃では倒せない。
だからユウは待った。その瞬間を。
「ウグオオオオオオオ!!」
ゴブリン・アーマードが攻撃モーションに入る。
そこだ。
「奪命撃!!」
ユウが剣技を発動し、攻撃モーションに入ったゴブリン・アーマードに刺突技《奪命撃》を食らわせる。
攻撃モーション中に攻撃を当てるとダメージが2倍……
ゴブリン・アーマードの最後のHPバーが0になり、凄まじい光と轟音を撒き散らしながら、ゴブリン・アーマードはガラス細工のように砕け散った。
9人の前にウィンドウが現れる。
経験値の分配は、ダメージを与えた率と狙われた時間、攻撃回数などを組み合わせて算出される。結局、大半はユウが受け取るのだが。
「よっしゃあああああっ!!」
「うおおおおっ!!」
ユウも、マックス達8人も全員がレベルアップした。
ユウもレベル10から12まで上がった。
お金は全員で均等だ。
55000ちょっとを手に入れた。おそらく、全体では500000なのだろう。
アイテムは、最もダメージを与えたプレイヤーに与えられる。
もちろんユウだ。
《ミッドナイト》シリーズだ。防具の、頭部、腕、手、胴体、脚部の5ヶ所分の防具を手に入れた。
全部装備してみる。
「それがドロップアイテムか……真っ黒だな」
マックスが言った。
漆黒のレギンス、漆黒のコート、漆黒の腕装甲、漆黒の……メリケンサック?
何でそんなモンが……、とユウは思った。
そして……漆黒の仮面。
獣のような獰猛な形の仮面……というより、フルフェイス型のヘルメットだ。
いや……フルフェイスではない。
鼻と口は出ている。それ以外は隠れているが。
「誰だかわかんねーぞ」
ギルガメッシュの誰かが言った。正体を隠せるのか……
防具の性能もかなりのものだ。防具は武器同様に、強化していくことでどんどん強くなる。いい防具は、強化していくことでいつまでも使えるのだ。
「……ところでユウ……アンタの剣技は何だ?」
マックスは真剣な目でユウに尋ねる。
「刀専用スキルだよ……初日に手に入れたやつだ」
それを聞き、8人のプレイヤーは驚く。
「初日だって!?」
「一体、どんなチートをしたんだ!?」
‘チート’という言葉に苦笑いしながらユウは答えた。
「チートじゃねーよ……初日にソリトン平原のユニークボスとバッタリ会ってさ……」
「か、勝ったのか……1人で……?」
「……まあな。通常攻撃だけでどうにか……」
そんなバカな、とでも言うように唖然とするギルガメッシュのメンバー。
「……失礼だが……お前の現実世界でのことをおしえてくれないか?」
マックスが言った。
「ああ。俺は養子。本当の母は病死。父は自衛官でさ……よくわからん特殊部隊の一員で、出動がかかって死亡した。何の任務だったのかは知らない。この日本に、そんな危険な任務があることが信じられないが、父が死んだのも事実だ。で、母の姉のところへ養子に入ったと。父が死んだのは俺が10歳のころだ。父から小さい頃から武術を教えられててな。で、そん中には剣道もあれば西洋風の剣術もあったってわけ。とんだ武術マニアだったんだな、親父は。毎日毎日稽古づけ。まぁ、俺も好きだったから積極的にやってたけど……まさか、こんな時に役立つとは」
「そうか……強き者には、強き所以があるということか……」
「そんな大それたものじゃないさ」
マックスの発言に苦笑するユウ。
「さ、戻ろうぜ。もう疲れた」
ユウはそう言って、ボスの部屋から出た。
「俺も疲れたー」
「てか、もうボス戦って」
「アイツは初日からだぞ?」
そんなことを口にしながらギルガメッシュのメンバーも部屋から出て行く。それを見てマックスは苦笑しながら、最後にマックスも出た。
こうして、ヴィザリゴ砦の戦いは終わった。