1-1 パーティー戦
4日目の夕方、ようやくユウ以外のプレイヤーがリーンロッズ村にやってきた。
彼らが来るまでに、ユウのレベルは10になっていた。
朝から晩まで延々と倒し続けてこれだ。本当にレベルが上がりにくい。
彼らは8人でパーティーを組んでいた。
このゲームでは8人までパーティーを組めるので、最大人数だといえる。
彼らのレベルはわからないが、弱いから群れているようにも見える。
このゲームでは、相手の名前やレベル、ステータスはわからない。
かろうじてわかるのが状態異常くらいだ。
「おい、アンタ」
いきなり、パーティーのリーダーっぽいプレイヤーに話しかけられたユウ。
「何だ?」
「アンタ、1人でここまで来たのか?」
「ああ」
「どうやって?」
「スライムしかいねーから簡単だろうが。レベル1でもここまで来られる」
そこでパーティーの1人……不健康そうな目つきの悪いプレイヤーがニヤニヤ笑いながら口を開いた。
「オイオイ、バカじゃねーの? デスゲームなんだぜ?」
「ああ、そうだな」
「それがわかってて、ソロかよ。マジ、イカレてるぜ」
その男に続いて他のメンバーも笑う。
「おい、失礼だろ。……スマンな。俺はそんなつもりではなかったんだ。ソロでやるのもいいが……死ぬなよ」
どうやら、リーダーだけはとても良い人のようだ。
「わかってるよ。アンタもバカども率いてんだ。ソロより危険かもよ」
「んだと!?」
「落ち着け。先にふっかけたお前が悪い」
リーダーがメンバーを注意する。
「まったく……。本当にスマン。バカばっかで。……一応、フレンド登録しておかないか? 何かあったときのために」
「わかった……俺はユウ。よろしく」
「俺はマックス。ギルド《ギルガメッシュ》を率いている。メンバーはこの通りだ」
「んじゃな、死ぬなよ」
「アンタこそな」
そうして、ギルガメッシュのプレイヤーは宿を探しに街の中心部まで歩いていった。
「さて、俺は……と」
ユウは、さらに新しい地域を探検していた。昼夜問わず。
リーンロッズ村から2キロほど南下すると、バルコラ山に着く。
バルコラ山に挑戦するのは、もう少ししてからにするが、バルコラ山付近のスライム達は、リーンロッズ村周辺のスライム達より強いので、経験値稼ぎにはもってこいだ。
ユウは、そこで3時間スライムを倒しまくって、リーンロッズ村に帰還した。
翌日……5日目だ。
「我々とモンスター狩りに行かないか?」
広場でたまたま会った、ギルガメッシュのリーダーであるマックスが言った。
彼の連れてきたメンバーも目を丸くしている。
「もちろん、パーティーを組むわけではない。……ただ、互いの戦い方を理解しあおうというわけだ。どうだ?」
「……まぁ……いいけど」
ユウは自分の力……神刀スキルを隠そうか迷った。だが、彼らに奇妙に思われて、変な噂を流されると面倒だ。神刀スキルは隠しておく方がいいかもしれない。
「で、どこでやるんだ?」
「砦だ」
「砦って……ヴィザリゴ砦か?」
「そうだ。我々は行ったことがないが、探索して攻略に備えるべきだ。NPCによれば、ゴブリンがいるらしい」
「ゴブリン……ねぇ……」
RPGには、よくいるようなモンスターだ。
「ようはゴブリン狩りか」
「まぁ、そんなところだ……集合は今から1時間後。いいな?」
「構わない」
そう言って、ユウとギルガメッシュのメンバー達は、それぞれ準備を始めた。
1時間後……
「そろそろ行くか……」
ユウが言った。ここはリーンロッズ村の中央広場。
ギルガメッシュのメンバー達も勢揃いしている。
「では、行こう」
マックスがそう言い、9人ものプレイヤーはバルコラ山を貫くように存在するヴィザリゴ砦へ向かった。
ゴブリンと戦うのは、ユウも初めてだ。
ヴィザリゴ砦まで行くのが面倒なのと、バルコラ山を抜けるのはしばらくしてからにしようと考えていたからだ。
バルコラ山を抜けるためには、ヴィザリゴ砦を通らないといけない。
1人でバルコラ山を抜けても、エリアボスを1人で倒そうという気にはなれない。
「着いたぞ……」
マックスが言った。
ヴィザリゴ砦は、バルコラ山を貫くように存在し、トンネルのようになっている。
その姿は、古びた古城にも見える。
「入るぞ」
ユウはギルガメッシュよりも先に入っていった。
中は暗く、定間隔でたいまつがある。おかげで、真っ暗ということはない。
「それでも薄暗い……」
10メートル先がどうにか見える程度の明かりしかないため、1人で抜けるのはかなりの恐怖を伴うだろう。
「ユウ、ゴブリンだ」
ユウの前には、中央に廊下、両サイドには2階への階段がある。
右の階段から、緑色でインナーを着たゴブリンが現れた。その数4。
「まずは俺達の戦い方を見てくれ……行くぞ、みんな!!」
そう言ってマックス達8人は、ゴブリンを取り囲み、2対1で確実にしとめていった。
「これが俺達の戦い方だ」
マックスが言った。
確かに、いい戦い方だ。自分達に有利な状況をつくり、安全に、確実にしとめる。
だが、これは逆境に弱いともとれる。見たところ、プレイヤー個人の行動は単純で、プレイヤー個人のスキル……システム外の強さ、ようは通常攻撃の剣さばきがなっちゃいなかった。
これでは、今は大丈夫でもそう遠くない未来に全滅する恐れがある。
「ユウ……ゴブリンだ。1人でやるには多いぞ」
ゴブリン5体が廊下から現れた。
「なめるな」
ユウはそう呟き、ゴブリンの集団のど真ん中に突っ込んだ。
「なっ……!?」
さすがのマックスも驚く。彼らにとって見れば、自ら不利な状況に持ち込んだのだから。
だが、ユウにとっては違う。
敵集団のど真ん中ということは、全ての敵に攻撃が届くということだ。
「うおぉぉぉっ!!」
ユウは刀を抜き、通常攻撃のみでゴブリンを圧倒した。
一振りで複数のゴブリンを攻撃し、攻撃モーションに入ったゴブリンを優先的に切り刻む。
瞬く間に、ゴブリン達のHPは0になり、ガラス細工のように爆散した。
僅か10秒。10秒で決着が着いた。
驚くギルガメッシュのメンバーに、ユウは感情のない声で言った。
「これが俺の戦い方だ」
圧倒的戦闘能力で敵集団に乗り込み、ど真ん中から撃滅する。
「んなムチャな……」
昨日、ユウに喧嘩をふっかけてきた不健康そうな目つきの悪い男が呟いた。
「もちろん、危ないと判断したら離脱するし、ボス戦で同じようなことはしないと思う……ボスが弱かったら別だけど」
「アンタの戦い方はわかった……どうやら、俺達には真似できそうにない」
マックスがそう言った。そして、マックスはユウに近づき、他のメンバーには聞こえない声でユウに言った。
「本当は俺もわかってる……この戦い方は、ピンチに弱いことを」
ユウは、少し驚いた。
気づいていたとは。
「なら、どうして戦い方を変えない?」
「弱いからだ。君のように、システム外の強さを持っていない。さらには、君はシステム的な強さも相当なのだろう?」
このマックスは、人間としてはかなりできてる部類のようだ。
「俺にはあいつらを守る義務がある」
「なら、アンタが強くなるんだ。そうすれば、それを見たメンバー達は、アンタみたいになろうと努力する。俺みたいな、どこの誰だか知らない奴が見せつけても効果は薄い」
「そうだな……」
「さ……ゴブリン狩りを続けるぞ」
「ああ」
そう言って、ユウとマックスは7人の元へ歩いていった。
3時間後……
結構な数のゴブリンを倒したが、ユウのレベルは10のままだ。
他の奴らは、2、3人レベルアップしたようだが、ユウは経験値バーの8割が埋まった状態だ。来る前は半分くらいだったので、後もう2、3時間すればレベルアップするだろう。スライム狩りよりか、ずっと効率がいい。
「そろそろ帰らないか?」
マックスが言った。
確かに、回復アイテムの数は心許ない。ただ、TP回復用の《TP回復剤》は手付かずだ。
スキルを使うと化け物呼ばわりされそうだからだ。
「そうだな、帰るか」
ユウも同意。メンバー達も次々と同意していったが、1人だけ……例の不健康そうな男が言った。
「あそこの部屋だけ探索しようぜ。何かいいモンありそうだし」
確かに特別な部屋っぽい。場所が砦の中央部で扉もかなり大きい。さらには、装飾までされている。
明らかに特別な部屋だ。
ユウは嫌な予感がしていた。
こういう部屋には、大体……
「行ってきまーす」
「おい、ま……」
ユウの制止は間に合わず、男は入っていった。そして、他のギルガメッシュのメンバー達も入っていく。
「…………………」
「マックス、アンタも嫌な予感がするのか?」
「杞憂であってほしいがな」
「仕方ない……俺達も行くぞ」
「ああ」
仕方なく、ユウとマックスも入っていった。
中は真っ暗で何も見えなかった。
「何だここ? 何も見えないぜ!?」
ギルガメッシュの誰かが言った。
そのとき、変化が起きた。
声に反応するかのように、部屋が明るくなりだしたのだ。
まるで、太陽に照らされているかのようだ。
「まぶしっ……!!」
ユウは、いきなり明るくなったので目を細めた。
だが、さすがゲーム。現実よりか遥かに早く目が慣れた。この部屋は、まるで宮殿の王家専用の食事室みたいな豪華で奥行きのある構造になっていた。
そして見た。
奥にいるゴブリン達を。
そのゴブリンを率いる巨大なゴブリンを。
「……ユニークボスか……!!」
ユウは唇を噛み締めた。
最悪だ。回復アイテムも無い状態で相対するはめになるとは。
さらに、こういう場合、大概……
「出れない……!! 扉が開かない!!」
1人のプレイヤーが言った。
やっぱりだ。こういう場合、大概、ボスを倒さないと出られない。
「多分、扉を開けるにはボスを倒さなきゃいけない」
ユウは叫んだ。
「クソッ!! 出しやがれ、この緑ゴリラ!!」
ギルガメッシュのプレイヤー達が突撃する。
「待て、早まるな!!」
マックスが制止したが、時すでに遅し。
ユニークボス《ゴブリン・アーマード》が、背中に背負っていた斧を振り回す。
そこから発生した衝撃波がプレイヤー達をなぎはらう。
「ぐあっ!!」
「うぐっ!!」
「ぐはぁ!!」
プレイヤー達は一撃でHPの半分以上を持っていかれて吹き飛ばされた。
「……剣技……!!」
ユウは呟いた。ユニークボスの剣技はこれほどの威力があるのか、とユウは心の底で驚いた。
「マックス……仲間と一緒にアイツらを助けてやれ。……ヤツは俺に任せろ……!!」
「おい……ユウ! 危険だ!」
「アイツに対抗できる力は、今は俺しか持っていない」
「対抗できる力……だと?」
「特殊スキルだ。普通のスキルなら、1人でどうにかなんてできないだろう」
「ユウ……お前は一体……?」
マックスの困惑した声を背に、ユウは駆け出した。
ゴブリン6体に、ゴブリン・アーマード。
先にゴブリンを潰す。
「裂空波!!」
鉄刀壱ノ型から発せられた衝撃波がゴブリン達に襲いかかる。
4体を巻き込んで撃滅。
「遅い!!」
そのまま接近し、ゴブリンに奪命撃をぶち込む。
一撃でHPが0になる。
もう一体のゴブリンがユウの背後から襲いかかる。ゴブリンの主武装は斧だ。
その斧の刃ではない部分……柄の部分にめがけて刀を振るう。
バキン!!
斧が音を立てて折れた。
ゴブリンが驚愕の表情をだす。
このゲームのMobやNPC用のAIは、統合制御AIには届かないものの、かなり優秀だ。
生き物らしい行動や判断ができる。
そのまま、ユウはゴブリンに奪命撃をお見舞いし、HPを0にした。
通常攻撃では6、7発攻撃しないと倒せないゴブリンだが、神刀スキルの剣技を使えば一撃で倒せる。
「ウグワァァァァッ!!」
叫び声を上げながらゴブリン・アーマードが巨大な斧をユウに振り下ろす。
どう考えても通常攻撃ではパリィできない。
爆砕陣は地面に叩きつける剣技。
奪命撃は刺突技だ。
つまり、パリィできるのは残った……
「裂空波!!」
衝撃波が斧を弾く。
「奪命撃!!」
パリィされてゴブリン・アーマードの動きが一瞬固まった隙に、ユウは奪命撃を当てた。
4本ある内の1番上のHPバーの3割が削れる。
「くっ……!」
TP切れだ。だが、ユウが回復する間を与えようとしないゴブリン・アーマード。
「ウグワァァァァッ!!」
斧をめったやたらに振り回す。
「ぐっ……!!」
ひたすら回避に徹するユウ。
「ユウ!!」
マックスが叫びながら走ってきて、仲間3人とともに斧をパリィした。
人数がいれば通常攻撃でもパリィできるようだ。
その間にTP回復剤をアイテムポーチから出し、飲む。同時に3個。
アイテムを使うには、メニューのアイテム覧を選び、アイテムをオブジェクト化した後、ポーチにアイテムを入れておかなくてはならない。
今ユウのポーチに入っているアイテムは、TP回復剤と僅かなHP回復剤だ。
「マックス!! 下がれ!!」
ユウのその声に反応し、マックスと3人の仲間は後退する。
「爆砕陣!!」
刀を地面に叩きつけ、炎を吹き出す地割れがゴブリン・アーマードを襲う。
ダメージでゴブリン・アーマードの動きが止まる。
「裂空波!!」
さらに裂空波で攻撃。さらにダメージ。
1本目のHPバーはレッド域に達した。ほとんどのダメージはユウが与えたものだが、マックス達ギルガメッシュの攻撃も通じていたのだろう。彼らには助けられた。彼らがいなければTPを回復できず、ジリ貧になっていただろう。
「そうか……これが仲間か」
ユウはポツリと呟いた。
いつかは、自分に仲間ができるのも悪くない……ユウはそう思った。
「さぁ!! 本番はここからだ!!」
ユウは高らかに宣言した。
それに呼応するかのようにゴブリン・アーマードも叫んだ。
「俺達も力になるぞ、ユウ!!」
マックスが叫ぶ。
そして、1体と9人が激突した。