0-2 初めての戦闘
ユウはユキナ達と別れた後、とりあえず戦いをすることにした。どんなRPGでも、戦わないと何も始まらない。
只今のユウの装備は、ボーンナイフという短剣とウッドバックラー、そしてインナー一式というバリバリの初期装備だった。
当然だ。ゲームに入った途端にこの騒ぎだから。
「とりあえず、モンスターを虐殺と……」
RPGで吐くようなセリフではないようなことを言いながら、ユウはフィールドに出た。
ユウが出てきたフィールドの名は、ソリトン平原。
エリア1の北部の大半を占める平原だ。
エリア1の地図を見ると、北部にソリトン平原、中央部にバルコラ山、南部には迷いの森、南東部にはドリアン湿地帯がある。
今いるのは、ソリトン平原の中でもかなり北だ。始まりの街が北の果てにあるから仕方のないことだが。
ここから、南西に10キロほど進むとリーンロッズ村に行ける。
リーンロッズ村は、ソリトン平原南部の小さな村……らしい。何しろ、誰も行ったことがないのだ。
「初期装備でどこまで行けるか……」
ユウはそんなことを呟きながら、歩き出した。
しばらくすると、青いプニプニした塊が襲ってきた。おそらく、スライムとかそんな感じのモンスターだろう。
このゲームは、対象物に意識を向けるとカーソルが出て、詳しいことが表示される。
モンスターの名前は、ブルースライム。
やっぱスライムだよね。
ブルースライム君は、どうやら1匹でユウに向かってくるらしい。
プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ
そんな音をだしながら平原を、それほど速くない速度で駆けるブルースライム。
ユウは、ボーンナイフを取り出し、ブルースライムがユウに体当たりをする寸前に振り下ろした。
「プギャッ!?」
どこから出したのかわからない、けっこうかわいい声を上げて、ブルースライムは倒れた。モンスター上部にあるHPバーは一撃で全損していた。
攻撃態勢に入って、攻撃中のモンスターに攻撃を当てると、2倍のダメージが入るらしい。
それが、このゲームを買う前の事前情報の中にあったのを、ユウは思い出した。
「でもやっぱ弱えぇ」
スライムとは、哀しい宿命だな。
だが、この後のエンカウントの時に、ユウはスライムの底力を知ることになる。
「はははっ……冗談キツいぜ」
ユウは乾いた笑みをこぼすが、目は笑っていない。
目の前には10匹以上の、赤、青、緑のスライム達がプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニと、跳ねている。
最初の戦闘からしばらくする間に、5、6回ほど戦闘になった。
この地域には、ブルースライムと、ちょっと攻撃力が高いレッドスライム、ほっとくと回復していくグリーンスライムがいる。
それぞれ、けっこう弱く、苦戦はしなかった。
だが……
「なんでこんな時にユニークボスにエンカウントしちまうのかな……?」
群の中心にはユニークボスである、ビッグスライムがいる。ユニークボスとは、倒す必要はないが、この世界に1匹しかいないモンスターのことだ。
けっこう強く、倒せば莫大な経験値とお金が手に入る。さらに、特殊で強力なアイテムをドロップするらしい。
「これは……逃げた方が……」
死んでは元も子もない。
だが……
「……なっ!?」
スライム達は素早い動きでユウを包囲した。ビッグスライムに統率されているおかげで、スライム達の行動は迅速で無駄がない。
「やるしか……ないか」
ユウは今、レベル2。
正直、普通のプレイヤーなら勝てない。
ただ、勝機はある。
このゲームでは、プレイヤー自身のスキルが大きく関わってくる。
身のこなしや、行動。判断力。反射神経に運動神経。
それに賭ければ勝てないこともない。
なぜなら、ユウ……現実世界の勇は……
ブルースライム2匹が前方から突っ込んでくる。
両方とも回避しつつ、片方のブルースライムにすれ違いざまにボーンナイフの一撃を食らわせる。
攻撃中だったので、一撃でHPが全損。
後方からレッドスライムが突進。
思い切りジャンプする。ゲーム中のステータスの敏捷性のアシストで1メートルほど飛び上がる。
そのままレッドスライムの上に乗っかり、ボーンナイフを下に突き出す。
一撃でHPの6割を減らし、もう一撃。
HPが全損したレッドスライムはガラス細工のように割れた。どのモンスターも大体同じような倒れ方だ。
「今度はこっちから!!」
ユウは素早くスライムの群に飛び込んだ。
「うおおおおおっ!!」
群の中でめったやたらにボーンナイフを振り回すユウ。
その斬撃が次々とスライム達を斬り裂く。
「よし……これなら……!」
だがそこで、ユニークボスであるビッグスライムがユウに体当たりした。
「うぐっ……!」
痛い。元々は痛覚がないはずなのに、痛覚まで再現されている。現実と違って、痛みはすぐに引いたが、これは戦いづらい。
自分のHPを見ると、今ので2割削られた。
初めてのダメージがボスからの一撃というプレイヤーはなかなかいないだろう。
「って……んなこと考えてる場合じゃねぇ!!」
ビッグスライムは更に突進してきた。
スライム系列のモンスターは、体当たりしか知らないのか、なんて思いながら回避。
すれ違いざまに一閃。
敵のHPバー……4本ある内の1本が5%ほど縮まった。
攻撃中に攻撃を当てて、これなのだ。
「しんどいぜ、まったく」
残存敵は、グリーンスライム2匹とビッグスライム。
「だが、勝てる!!」
そう言いながら、ユウはスライムに突撃した。
その頃、ユキナ達は……
「……あ、あの……みんな……」
ユキナは少しオドオドしながら口を開いた。
「なに、ユキナちゃん?」
「勇兄が頑張ってるから……私も、私なりに頑張りたい……」
「そうだな。何かしねーとな」
「……わ、私は生産職でみんなの役に立ちたい」
生産職とは、読んで字のごとく。
剣や防具、アイテムを材料を集めて生産する職業だ。
「それはいい考えですねー。私達も協力しますよー」
「あ、ありがとう……」
勇兄……私も頑張るから、勇兄も頑張ってね……
「はぁはぁ……。決着をつけるぞ、このデカブツ」
ビッグスライムのHPバーは3本が全損。残り1本も1割に満たない。
ユウのHPバーも残り2割。
「行くぜぇ!!」
ユウが駆ける。それに呼応するかのように、ビッグスライムも駆け出す。
「せやぁ!!」
タイミングを合わせて攻撃を当てる。だが、ビッグスライムは止まらない。
ユウは吹っ飛ばされる。
「うぐっ……!」
ユウのHPバーも1割以下。
ビッグスライムが、トドメをさすために大ジャンプ。
ボディープレスで押し潰す気だ。
倒れた状態のユウに回避手段はない。
「くっ……!」
どうすれば生き残れる……!
回避以外の手段。
攻撃を受ければ死亡。攻撃を受ける前に倒さないと。
1度食らってわかったことだが、ボディープレスが着地する瞬間は、ビッグスライムが無敵状態……ダメージを受けない状態になる。
武器を突き上げて待ちかまえていても無駄だ。
なら……
「無敵状態になる前に……!!」
ユウはボーンナイフを‘上に投げた’。
ボーンナイフは真っ直ぐにビッグスライムに突き刺さる。
そして、雑魚スライムの何倍もあろうかという爆発音と光を撒き散らして、ビッグスライムを消失した。
目の前にたくさんの表示が現れる。
レベルが3から8に。
レベルは、ビッグスライムの周りにいたスライムを倒して、2から3に上がっていたが、ビッグスライムを倒して更に大幅にレベルが上がった。
300000G獲得。Gは、ようはお金だ。
初期所持金で1000Gなので、エリア1ではかなりの大金だ。
ドロップアイテムは、スキルの書、だ。
何のスキルか調べてみるユウ。
すると……
「神刀スキル……?」
神刀スキルの説明を見る。
神刀スキルとは、神の力を宿した刀専用スキルだ。特殊スキルで、この世界で1人しか得られないスキル。
それだけにかなり強力。
「刀……か」
お金はたくさんあるので、大丈夫だろう。
だが、刀には防御手段がない。盾を装備できないのだ。
刀は攻撃的な武器。それだけに防御が手薄になる。デスゲームである今、防御を捨てるのはどうなのか。
「……って、デスゲーム宣告されて2時間で死にかけた奴が思うことじゃねーな……」
やはり、攻撃は最大の防御だ。第一、元よりボス戦は1人で挑むモンじゃない。
場合によっては3桁ものプレイヤーがボス戦に参加するのだ。システム上、それが可能となっている……というより、システム的にもできるだけ多くのプレイヤーで挑むように調整されている。
それを1人で挑んで勝ったユウとは一体……
どれほどのバカなのか。
体力がかなり減って、回復もできないがリーンロッズ村はもう見えている。
「早く行こう」
そう言ってユウは駆け出した。
リーンロッズ村は、村、というが、小さな街みたいなものである。
石造りの建物が建っており、道はレンガで舗装されている。
建物はほとんどが二階建てだ。
酒場や武具屋、道具屋もあるし宿屋もある。
ようは、ちょっとした街なのだ。
「さて、まずは武具屋……と」
店は、リーンロッズ村の中央部にある広場に集中しているらしい。
「見つけた……」
武具屋に入ったユウは、まず刀を探した。
見つけた刀で1番強いのは、鉄刀壱ノ型、というものだった。
それを購入し、防具は動きを阻害せず、防具アビリティーが良いものを探した。
そして、手に入れたのはダークコート、ダークハンズ、ダークレギンス。
ダークハンズは手の防具で、まだ腕につけられるが動きを阻害しそうなものしかなかったのでやめた。
防具アビリティーは、敏捷性向上、隠蔽能力向上、HP自動回復、だ。
隠蔽能力とは、モンスターに見つかりにくくなる能力だ。ソロで戦うには重要な能力だ。
他は読んで字のごとく。
「さて、と。神刀スキルとやらを試してみるか……」
そう言って、ユウは街を出る。
そしてこの後、神刀スキルのチート気味な力に、ユウは驚愕することとなる。