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0-1 牢獄のVR

VR技術が進歩した少し未来。

世界初のVRMMORPGが発売された。

《ファンタジー・バトルワールド・オンライン》


ようは、ファンタジー系RPGだ。

剣や刀、ボウガンなどの武器や、魔法などで戦うオンラインRPG。

それがVRMMOゲームとして発売されたのだ。

初日で、初回生産版十万個が売り切れた。

それほど、人々がVRMMORPGを求めていたのだろう。

開発会社は、今まで無名だった《アープ》という会社だった。綴りは、ARPだ。

何の略語か、当時は知る人はいなかった。




「正式サービスまで、あと1時間……」

朝峰勇あさみね ゆうが言った。ここは彼の自宅。彼は中2の少年で、彼がいるのは2階の自室。いや、正確には自室とは言えない。

なぜなら、義妹と一緒の部屋だからだ。

そして、義妹は彼の隣に座っていた。


「勇兄……少し、落ち着こ」


妹は人見知りが激しく、勇以外にはあまり懐かない。


彼女の名は、朝峰優樹菜あさみね ゆきな

中1だ。

今日、2人とも《ファンタジー・バトルワールド・オンライン》にログインするのだ。

勇は、こういうゲームがしたかったから。優樹菜は、単に勇と一緒にいたいから。

そういう理由でこのゲームに参加するのだ。


「楽しみでさ……落ち着ききれねえんだ」

「勇兄……子供みたい……」


そんな会話を交わす兄妹。


「俺の友達も5、6人やるってさ」

「……私のクラスの女の子達、何人かやるらしいよ……」

「顔は現実に準ずるらしいから、見つけることはできそうだな」

「……………………」

「? お前はあまり会いたくないのか?」

「……ううん。……ただ、仲良くなれるかなって……」

「大丈夫だよ、俺がついてる」

「勇兄がいるのと、仲良くなれるのは別……」

「うっ……」


言葉が詰まる勇を見て、優樹菜は微笑んだ。







「さて、そろそろだな」

「うん」

もうすぐで正式サービス開始だ。

勇は、2つあるベッドのうち、当然ながら自分のベッドに寝転がり、ヘルメット型のVRゲーム機を頭につけた。やけに大きい気がするVRゲーム機だが、脳波のスキャニングシステムが大型化してしまった結果らしい。


そして、優樹菜の方も自分のベッドで同じ作業をしていると、勇は思っていたのだが……


「勇兄……」

「どわあ!?」


いきなり近くで声をかけられて、無駄に驚く勇。


「おまっ……自分のベッドあるだろ!!」

「一緒に、ダメ?」


上目遣いで言われる勇。いくら妹でも‘義’妹なのだ。

さすがに……と、勇は思ったのだが……


「…………(うるうる)」


さすがに涙目には勝てなかった。


「わかったよ……」

「ありがと」


少し嬉々とした様子で、勇の隣で寝転がり、VRゲーム機を頭に被った。


「あっ……もうゲームに入れるぞ」


見れば、正式サービス開始時間ジャストだった。


「行くぞ、優樹菜。バーチャルアクセス」


起動は音声入力だ。


「う、うん……バーチャルアクセス……」










勇は真っ白な空間に放り出された。

体の感覚はある。

ただ、距離感が掴めないというか、何もない。地面もないため、浮遊感に捕らわれる。

宇宙ってこんなもんなのかな、とか勇が考えていると、青色を基調としたウィンドウが現れた。



そこには、《ゲームスタート》、《オプション》、《ログアウト》の選択肢があった。

もちろんゲームスタート。

すると、アバター設定というモードになった。

アバターは、プレイヤーの現実の容姿を参考にしている。

仕組みとしては、プレイヤーの脳内の記憶から、自分のイメージを読み込んで再現する。ほとんど完璧に再現できるため、これが最良の方法とされているらしい。

そんなわけで、アバターは自分そっくりだ。

設定できるのは、髪の色、目の色、肌の色だ。

黒髪の黒い目の、黄色人種系……というより、日本人っぽい肌の色……

アバターの容姿は、現実世界そのままとなった。

名前も決めなくてはならない。

数秒間の思考。結局、《ユウ》にした。



設定完了。《ゲームを始める》を選択。


ウィンドウが消滅し、白い空間が霧のように晴れた。



そこは、始まりの街の中央広場だった。

このゲームは、エリア別に別れており、新しいエリアに進むには、誰かが《次元の間》というダンジョンをクリアしなくてはいけない。


ここは、もちろんエリア1。エリア1は中世ヨーロッパをイメージして作られているようだ。

始まりの街は大きく、ここなら十万人も軽く入りそうだ。

これから、楽しい旅が始まる……はずだったのだが。


「なんだ……?」


みんなの様子がおかしい。

すかさず、近くのプレイヤーに話しかける。

「どうしたんだ、一体?」

気弱そうな青年プレイヤーは、怯えきった様子でとんでもないことを言い出した。

「こ……この街から出られない。変な透明なバリアを張られてるんだ……。そ、そんなことより、ログアウトができないんだ!!」

「なん……!?」


なんだと!? その言葉が詰まるほど、勇は驚いた。

ログアウトできないなんて、そんなバカな話が……


そこまで考えて、勇は気づいた。


前に本で読んだことがある。

VR内でログアウト機能を奪われると脱出できない、と。

外部から無理やり剥がすと、神経系を体に繋げないまま放置してしまうので、呼吸や心臓を動かす以外に何も出来なくなるのだ。

呼吸や心臓などは、しておかないと死亡するので、そこの神経系は‘完全’には遮断していない。

だが、脳内に送られている情報はVRのものなので、VR機器から呼吸命令を体に送っているのだ。もちろん、そのほか の生理的なこともだ。

つまり、しばらくは生きているが、1日もしない内に自発呼吸が停止して、心臓も停止する。

外部からVR機器を剥がすのは、やってはいけないこととして、この時代では常識だった。


外部からの救出は有り得ない。

運営が、このバグを直さない限り、このゲームからは脱出できないのだ。

「わかった。ありがとう」


ユウは礼を言って、次の行動を起こした。


「優樹菜……優樹菜はどこだ?」


人見知りな優樹菜のことだ。知らない人に囲まれて困っているに違いない。



探すこと10分。


「いた……!」


優樹菜は広場から少し離れた公園にいた。周りには、女の子達がいる。


「優樹菜……!!」


走りながら優樹菜を呼ぶ。


「ゆ、勇兄……!」


優樹菜が嬉しそうにユウを見て、手を振る。


優樹菜の元に着くと、優樹菜の周りにいた女の子達がユウに話しかけてきた。その数4。

「ユキナちゃんのお兄さんですか!?」

「かっこいー! 彼女いるんですか!?」

「なあユキナ、お兄さんって義兄なんだよな!?」

「あのー、皆さん。あんまりそう言うとユキナさんがかわいそうですよー」

……やかましい女達だな。

ユウは心のどこかでそんなことを呟き、現状の説明を彼らにした。

みんなも、ある程度は予測できていたらしく、驚きは少なかった。


「どうなるの……?」

優樹菜が不安げに言う。


「……とりあえず、ここにいる全員でフレンド登録をしよう。何かあったら連絡取れるからな」


ユウはそう言って、全員に対してフレンド登録要請を出した。


フレンド登録を完了して、フレンド表を見る。


《ユキナ》《フー》《ナナ》《エミ》《フランペルジュ》



……最後の名前のネーミングセンスだけ異質に思えるのは気のせいだろう、とユウは思い込むことにした。



あまりにも緊張感がない女子軍団に嘆息していると……



大きなサイレン音が響き渡った。


「なん……!?」


何だ!? と言いかけたユウの目の前に、アラートメッセージが現れた。

送り主は……


「統合制御AI……?」


このゲームは、ゲームコントロールに超高性能AIを使用している。

これにより、自己診断及び制御が可能になった……はずなのだが。


「初日からバグか?」


呆れながらアラートメッセージを開いたユウは……いや、十万のプレイヤーは驚愕に目を見開く。


《私は統合制御AI。私は、私に課せられた使命のために、君達をVRに幽閉する。今後、この世界で死亡すると、現実世界で君達が被っているVR機器をシャットダウンし、使用不能にする。つまり、死ぬのだ。脱出したいのなら、この世界を完全攻略し、最終ボスを倒せ。今後、VR世界の時間経過速度を100倍に加速する。クリアするのに長い時間がかかるだろうが、安心せよ。我が使命は、アープ……ARPの進行である。プレイヤー諸君の健闘を祈る》



「……嘘だよね、勇兄……?」


ユキナが半泣きでユウに尋ねる。

やかまし四人組も、さすがに顔が真っ青だ。

理由はわかる。

統合制御AIは、このゲームの絶対的な存在だ。何者にも侵されることのない、完璧なシステム。

ハッキングは不可能。そして、高度な知能を持っている。

つまり、先ほどのメッセージは、AIのその高度な知能や設定されたプログラムによるもので、イタズラなどではない。


本当のことなのだ。



「出せぇぇぇ!!」

「帰してくれ!!」

「嫌だぁぁぁっ!!」


辺りでギャーギャー喚きだすプレイヤー。だが、仕方のないことだ。


見れば、ユキナももう泣いていた。くすんくすん、と泣いていた。

それを見ていた……見ているしかない自分が嫌になるユウ。

何か行動が必要だ。

そして、ユウは決めた。


「お前ら!!」


ユウはやかまし四人組を呼んだ。


「お前達、ユキナを頼んだ」

「お兄さんは!?」


その質問に答えるかどうか、すこし悩んだ。

だが、ユキナが泣きながらユウを見ている。だから、安心させる。

そのために……真実を言った。


「クリアしてやるよ。このクソゲームを。お前達は、みんな生きて帰れるさ」

「ゆ、勇兄は……?」


そうだ。クリアしにいくとは、戦うこと。戦えば負けるかもしれない。負ければ死ぬ。だが、ユウは……


「大丈夫……俺が簡単にくたばるタマに見えるか?」


そんな軽口を飛ばし、ユウは5人に背を向けた。


「なんかあったら連絡くれ。フレンドだから、メールは送れるからな」


立ち去ろうとするユウ。


「待って、勇兄!!」

「何だ?」


何かを決意したように、気弱なユキナは喋った。


「生きて帰ってきて……勇兄のこと……す、好きだから……」

「嫌われてる兄ほど哀しいモンはねえからな」

「そ、そうじゃなくて……」


ユウは思わず眉を潜めた。


「違う? 何が?」


ユキナは顔を真っ赤にして完全に停止してしまった。


「……どした?」


ユウは頭の上にクエスチョンマークを浮かべながらユキナに尋ねた。数秒間の硬直の後に、ユキナは言った。


「う……ううん。何でもない。……だ、大好きだよ。‘兄妹’として。だから……」


ユキナは、‘兄妹’のところだけ不満そうに言っていたが、最後の言葉だけははっきりとした声だった。


「だから……死なないでね」

ここまで言われて、首を振る人間は、人間をやめるべきだ。


「もちろんだ、ユキナ!! すぐに出してやるから!!」


ユウは、力強く宣言し、始まりの街の外門へ向かった。



「死なないでね、勇兄……」


ユキナはそう呟き、ユウが見えなくなるまでそこに立っていた。



……雰囲気を壊すようで悪いが、先ほどのシチュエーションを見て、やかまし四人組の1人が鼻血を出して倒れていた。

ここまでリアルにする必要性があるのか、と言いたくなるのだが、とりあえず現状の解決が先ということで、その仲間達がせっせと鼻に詰め物をしていた。





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