星めぐりのクリスマス
冬休みも私たちは四人で何回か集まった。勉強会も続けていたのだけれど、クリスマスやお正月に。
メリークリスマス兼颯大のハッピーバースデーは、電車に乗ってとなりの市まで出かけた。イルミネーションがきれいだって有名なのだ。藤白に合格したら通学で使うことになる駅で降り、まずは駅ビルのフードコートで夕ご飯。駅前広場の大きなツリーに感動してから、噴水公園に続く繁華街を歩いた。
ツリーや街路樹や商店を飾るイルミネーションは、毎年テーマを決めているらしい。去年は──家族で来たのだけれど──思いっきり楽しそうな赤と緑のクリスマスカラーだった。今年のイルミネーションは青と白の光がメインだ。海の底か宇宙っぽい。私がそう言うと、颯大は、
「宇宙だろ」
目線である方向をさし示した。
星座のかたちのイルミネーションが斜めに街路樹を渡っていた。最初のは白鳥座だろうけど、次は……何だろう? そして、さそり座……。冬なのに夏の星座ばかりだ。
けれど、最後の星座が南十字星だと気づいたときに、ピンと来た。白鳥座の北十字から始まって南十字星で終わる──これは『銀河鉄道の夜』に出てくる星座たちだ。白鳥座の次の、なんだかわからなかった星座は、きっとケンタウルス座だ。
「ていうか、銀河鉄道か」
同時に颯大が言って、びっくりした。
「颯大、宮沢賢治、読むんだ」
「え? 知らねーけど。小学生のとき、プラネタリウムで観た」
へえ。プラネタリウムでそういうプログラムがあるんだ。ロマンティックそう。観てみたい。
「感動した?」
「うん。宇宙に行ってみたくなった」
……颯大も感動したんだね。私が本を読んだときの感動とは少し違うみたいだけれど。
あまり遅くならないように駅に戻った。ふたたび電車に乗って、降りた駅で葉月と蓮にさよならした。葉月はお父さんが車で迎えにきてくれて、蓮は自転車。私は颯大に送ってもらって家へと歩く。
途中、人通りのない道で、用意していた誕生日プレゼントを颯大に渡した。
プレゼント、何がいいか、とても考えた。葉月にも相談した。葉月は、うーん、と考えて、
『受験生だから、参考書、とか』
ナイ。受験生だから……わかるけど、がり勉優等生女の私でも、それはナイ。
結局、定番、王道、何のサプライズもないミサンガにした。『不器用さんでも絶対に失敗しないミサンガづくり』というサイトを見てがんばった。色は青と黒──スペインの強豪サッカークラブ、インテルのチームカラーだ。以前、颯大に、そこで活躍した日本人選手のファンだって聞いたことがあったから。
外灯の光の下で紙袋からミサンガを取り出した颯大は、ほんの一瞬ミサンガを見つめ、
「つけて」
ミサンガと左手を私に差し出した。え、私が結ぶの?
どきどきしながら颯大の手首にミサンガを結び終わると、颯大はミサンガを外灯にかざし、笑った。
「すげえ努力の跡が見える」
それは下手という意味かな! ……反論できないけど。
颯大は下ろした手を開いて、もう一度、私に向けた。私の頭に『?』が浮かぶ。……プレゼントはミサンガだけだよ? もう何も出ないよ……? 私がその手のひらと颯大の顔を見比べると、颯大は鼻の頭を軽くこすった。
「綾原の分。結んでやるから」
何を言っているのかわからない。結んでやる、ってミサンガのこと? 私の分?
「颯大のだけだよ。だって颯大の誕プレだから」
きっぱりとそう言ってから、ハッと気づいた。同時に、颯大の顔に動揺が走る。
「……ごめん。姉ちゃんがカレとおそろいでつくってたから、綾原も──って……」
それだ、おそろい! そうすればよかった。自分の分もつくっていれば、颯大が、私の手首にミサンガを結んでくれていたんだ? 大失敗では……?
しゅん、としていたら、颯大が言った。
「じゃ、俺がつくるか、綾原の分は」
「つくれるの?」
驚いて顔を上げると、颯大は左手首のミサンガを見て、
「このくらいならつくれる気がする」
「結構ムズカシかったから!」
落ちてくるのは外灯の光だったけど、私の心の中には青と白のイルミネーションが浮かんでいた。颯大が『銀河鉄道』だと言ったイルミネーション。ジョバンニの『どこまでもどこまでも僕たち一緒に行こうねえ』というセリフも浮かんでいた。
どこまでも、一緒に。
──振り向いたらカムパネルラがいなくなっていた次のシーンのことは忘れていた。
クリスマスのあとは、三が日過ぎに近所の神社に初詣して合格祈願して、私たち四人の冬休みは終わった。
いよいよ受験本番だ。




