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彼方へ

 冬休みが終わるとすぐにTOEIC、そして英検の一次試験と続いた。

 結果発表は両方とも二月。発表ページをネットでクリックするときは、緊張で心臓が締めつけられた。

 TOEICのスコアは600点を余裕でクリアした。英検の一次試験も合格した。スコアも悪くない。

 だが、英検はまだ終わりじゃない。二次試験の面接が三月にある。過去の出題をおさらいした。オンライン英会話も、始めたころに比べれば、だいぶスムースに会話ができるようになってきた。二次試験の結果は──。

 合格。両方の試験結果を添付して、語学研修に申し込みした。〆切に、ぎりぎりセーフだった。あとはネイティブ先生との面接を残すのみ。

 先生はちょっと気難しそうに見える中年のイギリス人女性だ。特進科の英会話の授業を受け持っているだけだから、普通科の私が話すのは初めてだ。

 外国人に日本の文化を紹介するとしたら、何を紹介したいか、聞かれた。夏休みに読んだ『怪談』が浮かんだけれど、日本の怪異を語るには知識不足だ。ここは漫研部として、マンガを推そう。

 ……私が紹介したいのは、マンガです。日本のマンガにはさまざまなジャンルがあります。ファンタジー、恋愛、スポーツ。ストーリーと絵でキャラクターの感情が深く表現され、読者をわくわくさせたり感動させたりすることができます……。

 それでは、あなたはどんなジャンルのマンガが好きですか? 電子書籍と紙の本があるけれど、あなたはどちらを読みますか? その理由は? ……というように質問が続いて、なんとか答えた。そして、では最後の質問です、と前置きされて……。

「What is your dream for the future?」

「My dream is to go somewhere over the rainbow」

 するっと答えた次の瞬間、背筋が冷たくなった。──虹の彼方って、どこ?

 いや、子どものころに空想していた山の向こうのイメージなんだけれど。本当の気持ちではあるのだけれど。今は英語研修に参加できるかどうかの面接中なわけで、英語で自由にコミュニケーションがとれるようになりたい、とか答えるべきだったのでは。せめて、虹の彼方ではなくて、イギリスに留学したい、と言うべきだったのでは。

 先生は、きょとん、と私を見つめた。やってしまった、と心の中で頭を抱える。だけど、先生は、

「ぷっ」

 と、吹き出して。

 ありがとう、とても楽しい時間でした──と、面接が終わった。



 来年度の語学研修に申し込んだ生徒数は、定員より数人多かったらしい。

 数人なら、英語力に問題なければ定員オーバーでも全員受け入れてもらえる、といううわさを漫研部の先輩から聞いた。じゃあ、私も大丈夫なのでは?

 ほっとしかけた。が、逆に英語力に問題があれば、定員に入っていても落とされるんだった。それに、私は奨学金がほしいんだ。

 結果は、学年の終了式があった日の午後、メールで届く予定だった。



 落ち着かない気持ちで終了式を終え、自分の部屋でメールを待つ。メールの通知音が鳴って、心臓が跳ねた。

『夏休み語学研修参加者のみなさまへ』

 みなさま、って、私も『みなさま』のひとり、ってことでいい? 急いでメールに目を通す。参加者の名簿に、自分の名前もある。

 よかった。普通科はやっぱり自分ひとりだったけれど、気にしないぞ。

 メールはもう一通あった。開くと、

『奨学金給付の手続きについて』

 ……成績優秀につき奨学金が給付されることになりました。受給を希望する場合は以下の……。

 途中まで読んで、体中の力が抜けた。しばらくして、じわじわと嬉しさがこみ上げる。

 や……ったあ。


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