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転生領主一代記──伯爵四男に転生したので辺境開拓したら、いつの間にか公国建国して連邦王国まで出来てた件  作者: 想いの力のその先へ
第一部 領主就任編 第一章 15歳、領主就任の時

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7/8

七話

 アスガルは今ごろ、城へ。アルデバラン領へ着いた頃だろうか。あいつが出発して一日が経過している。無事についているといいんだが。


「おにーちゃん、どうしたの?」


 こちらを見上げ、不思議そうに首をかしげているメル。

 ……よそう、現実逃避したところで意味はない。とはいえ。


「おぉ、ありがとう。ありがとうございます」


 目の前に跪いて、涙を流しながらこちらを拝んでくる老人がいたら、現実逃避もしたくなる。と、いうより。さらに後ろでは夫婦であろう男女が抱き合って喜んでいたり、蹲って泣いている男までいる。

 感謝されている、というのは嬉しくはある。しかし、原因が前の代官にある以上、こちらとしてはいたたまれない気持ちの方が強いのだが……。

 なにしろ、館から見つかった物資は前の代官が着服していた、搾取していた物資なんだ。それを解放したから、と拝まれても。こちらとしては、マッチポンプしている気分だ。

 奥でレグルスもなんとも言えない、いたたまれない表情になっている。きっと、俺も同じ顔になっているに違いない。


「ご老人、顔を上げてくれ」


 しかし、老人。村の顔役は泣くばかりでこちらの声が届いていない。ここで声を張り上げるのも何か違うし、と困っていたのだが。


「おじーちゃん、おにーちゃんが顔上げてって」


 メルが老人の服を引っ張りながら話しかける。グッジョブだ。これなら角が立たない。

 孫娘の言葉だからか。老人はすぐに顔を上げてくれた。俺は老人の前に跪くと、両手で彼の手を包み込む。


「すまない、あなたたちには苦労を掛けた。本当に申し訳ない」

「……ふ、ぐぅ」


 俺の謝罪に感極まったのか、老人は再びうつむく。それとととに手に、ポタポタ、と水滴が落ちる。きっと……、いや。絶対辛かったはずだ。

 もっとまともな領主、代官がいれば彼らは子供を人買いに売るなんてこと、しなくてよかった。慎ましやかだが、幸せな生活を送ることができた。

 それを護るべき貴族が、代官が彼らを虐げていた。


 ……この国は、ここまで腐っているのか。

 王位のため、幼子を、アンリを殺した国だ。あり得ない話じゃない。しかし、同時に俺にとってこの国は、前世の故郷と同じく、ここもまた故郷なんだ。できれば、悪く思いたくなかった。なかったんだ。でも……。


 サルガス王が病に侵される前はここまでじゃなかったはずだ。少なくとも、あの方は戦ばかりしている民に優しくない王だったが、暴虐ではなかった。

 だが、今の王は執務を執る時間も少なくなっているという。その代わりを王子たちが行っているとも。だが……!


「…………っ!」


 ぎり、と歯が軋む。苛立ち、無力感で腹立たしい。

 民は国の礎だぞ。王家のおもちゃじゃなければ、点数稼ぎの駒でもない。


 かつて、前世には王は国の奴隷、という言葉があった。俺もそこまでやれ、とは言わない。だが、その真意は知るべきだ。

 国、という箱は民という名の中身があって、始めて機能する。民なき国など空虚な空箱だ。裸の王さまなどじゃあるまいに。

 そして、それは領主。代官も同じこと。代わりはいるから、と苛烈な統治をすればいずれ領地は荒廃する。

 いわば、これは俺の戒めでもある。あり得たかもしれない、俺の統治。その末路なのだ。


 俺はいまだに泣いているであろう老人へ、優しく声をかける。


「ご老人、すまないがたてるか?」

「は、はいっ……」


 聞こえてくる涙声。それで、老人は緩慢な動きで立ち上がる。それに合わせて、俺も立ち、それで辺りを見回す。

 そこにはいまだ泣き、笑っている村人たちの姿。


 俺は彼らに宣言しなければならない。領主として、統治者として。


「皆、聴いてほしい」


 一拍、止まる。村人たちがこちらに注目するのが分かった。続きを話す。


「まず、申し訳ない。あなたたちが苦しい思いをしたのは、我らの不徳とするところ。謝ってすむ問題ではないが、それでも謝らせてほしい。すまなかった」


 そのまま頭を下げる。空気が少し重くなるのを感じる。メルがその空気を感じ取ったのか、身体を強張らせている。

 すぅ、と息を吸う。ここからが本番だ。頭を上げ、胸を張る。


「そして、その上でこんなことをいうのは無能の極みだが、助けてほしい。俺は、この村のことをよく知らない。あなたたちの助けが必要だ」


 はっ、と老人が息をのむ。先ほど蹲って泣いていた男が険しい顔になる。


「ご領主さま、あんたには感謝してる。だがよ……」


 男の顔がくしゃり、と歪む。泣き笑いの表情だ。


「そんな、情けないこと言わないでくだせぇ。あんたは命令してくれりゃあいい。手伝えって。少なくとも、あんたは、あの糞代官より信用できる」

「すまない……いや、違うな。ありがとう。君の名は?」

「デトローフ、デフと呼んでくだせぇ」


 名乗ってくれたデフは男臭い笑みを浮かべる。後ろの村人たちも、同じように笑みを浮かべる者。こくり、と頷く者。真摯にこちらを見つめる者と様々だ。

 彼らからは一様にこちらを信頼する気持ちが窺える。ありがたいことだ。彼らの信頼を裏切ったのはパルサ王国だというのに。

 だからこそ、今度こそ彼らの信頼を裏切らないようにしなければならない。


「じゃあ、デフ。それに皆も手伝ってくれ。そして、より良くしていこう。ここが、この場所こそが我らの故郷、楽園だと誇れるように」


 俺の決意、そして宣言に村人たちは顔を綻ばせる。その中で、メルは嬉しそうに笑っていた。

 ……これで、正しいんだよな。ライナ、アンリ。


 俺は俺で出来ることを。そして、いつか、きっとお前を……。

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