四十二話
お久しぶりです、お待たせしました。作者です。
少し書き溜めができたので再開です。
今回は最低、一週間連続更新となります。
イオネ。傭兵集団、紫煙の蜻蛉団団長である彼女を迎え入れてから既に一週間が経った。その一週間で、彼女を迎え入れられたのが正解だった。というのは、よくよく実感として理解できた。
「なぁ、レグルス。ここについてなんだがねぇ……」
「あぁ、それは。こちらで受け持つ予定ですよ」
「助かるよ」
いまもイオネはレグルスと、我が将来の家宰どのと今後の雑多なことについて協議を続けている。もともと、傭兵集団、という組織の屋台骨を支えていた女傑だ。こういう点にも馴染み、既に改善策などの提案まで行うようになった。
彼女の姿を見て、俺はうんうん、と頷いていた。
「やはり、彼女を引っ張って正解だった」
正直、彼女を最初に引き込む時は、部隊の指揮官。傭兵団を含めて特殊部隊として運用しようか、なんて考えていた。
しかし、彼女の人を率いていたという実績は惜しい。ただの部隊長で収めたくなかった、という個人的なワガママがあった。それが功を奏した、とも言える。
もっとも、彼女におんぶにダッコ、というわけにもいかない。そうすれば、今度は彼女の業務量が多くなるだけ。いわば、仕事がスライドした。そういうことになってしまう。それでは意味がない。
「だからこそアスガル、レグルスにも頑張って貰う必要があるが……」
俺が彼女に求めている役割は潤滑油。つまり、戦場と政。どちらも知る彼女へ二人の橋渡しをしてほしいのだ。
そして、まとめた情報の中で重要なものをこちらへ上げる。まぁ、はっきり言えば、ある程度の裁量権を彼女へ与えるつもりだ。もちろん、すぐ、という話ではなく、いずれ。仕事の内容を完全に把握したあとで、の話だ。
いわば、領地の最終決定権は俺。軍事はアスガル、内政はレグルスが回し、イオネには俺の決済が必要な項目をピックアップ。こちらへ回す、という仕事をして貰いたい、というのがいまの考えだ。
むろん、今後イオネの働き次第では他をお願いする可能性もあるだろう。いまの構想だって、組織が、人が育てば代用可能な領域だからだ。
そのため、他にイオネを効率的に使える仕事が現れればそこにあてがうのは自明の理だ。
「正直、やりたいこと。やってほしいことを上げたらキリがない」
それこそ、いまアスガルが訓練している――現状、金脈の調査を優先しているが――兵士たちの仮想敵としても傭兵団は使えるし、領内の巡回なども請け負ってもらっている。まぁ、巡回に関しては副団長として復帰させたデフ主導でやらせているが……。
それはともかく、やれること。やりたいことで言えば他にもいくらでもある。もちろん、あれもこれも、と手を出す訳じゃなくて優先順位をつけて行動させている。
それがあるからこそ、イオネとデフを別々に運用しているのだから。
「まぁ、これは教育が終わるのを待つしかないが……」
そう、一部の奴隷たちは適正を見て教育。いわゆる、軍の下士官教育。もしくは内政官の教育、のようなものもやらせている。
そして、その講師がイオネとレグルスだ。先ほどの二人のやり取りも、その打ち合わせだったりする。
平民は学がない。それは確かだ。なにしろ、学ぶべき学舎も師となる者たちもいなかったのだから。その師にイオネとレグルスがなる。
もっとも、二人を延々と講師役として縛り付けるわけにもいかない。そもそも、二人にも業務があるんだ。だから、いま教育している一期生、とでもいうべきか。彼ら、彼女らにはある程度実務経験を積ませたあと、教官という立場に、二人に代わる師となってもらう。
むろん、それまで数年はかかるだろう。その間、俺やレグルス、イオネはブラック企業顔負けのデスマーチになる公算が高い。
……場合によっては、公爵閣下やイクリルくん。マイア夫人に助け船を求めるのも手かもしれない。と、いうか。面子を優先して、領地崩壊など笑い話にもならない。
「そういう意味では、頭が痛くなるが……」
かといって、言っても詮なきことだ。いまはなんとか領地を回しつつ、領地の発展。それに必要な人財の育成をするフェーズなんだ。痛かろうが、苦しかろうがやるしかない。
「それに……」
ちらり、と俺は窓の外を見た。近くの広場で軽快な掛け声が聞こえる。
アスガルが金鉱の調査に行ったと言っても全員連れていった訳じゃない。ならば、残りの人間は?
その答えがこの掛け声。アスガルは兵士を幾つかの班に別け、ひとつの班を調査に連れ出し、残りの班には自主的な訓練を命じていた。
そして、その中に一人の少女。青く、短い髪を揺らせ、汗を滴られるメルの姿。
彼女もまた兵士と、エレインの姿を見て憧れた騎士となるため、訓練に精を出していた。
正味、個人的にはあの娘。メルには無理をしてほしくない。俺があの娘を、メルを贔屓目で見ているという自覚はある。やはり、妹のような存在の彼女には無茶をしてほしくないんだ。
……もっとも、俺のワガママを除けば、アスガルはあの娘の才能を買っている。少なくとも、俺よりは才能がある、と。
それを聞かされた時、正直俺は比較対象が悪くないか、と思ったものだ。悪い意味で。
なにしろ、俺の才能は甘めに評価しても平々凡々。少しでも兵士、戦士としての才能があるなら上回るのは道理。その状態で才能がある、と言われても……。というのが本音だ。
……まぁ、もっとも。そんな俺の心配は後に杞憂として終わる。
なにしろ彼女は後に、辺境領で姫騎士と双璧を為す、氷魔法を扱う女騎士として、平民から騎士へ成り上がった希望として、そして――。
――俺の、領主の。姫騎士と同じく、辺境伯の伴侶の一人として名を馳せ、羨望を一心に受ける立場となるのだから。




