二十四話
領主のボンと騎士のお嬢ちゃんが仲良く領地を見て回っとる。なんとも微笑ましくて、笑える光景や。うちは笑えへんけど。ちゅうか、うちもダーリンとお手手つないでデートしたいわ!
……って、ちゃう。そうじゃなくて!
なんで、ここでイオス公爵家が出てくんねん!
いや、確かに、辺境領に最初。公爵家が手伝い出してたんも、それにお嬢ちゃんが着いてきてたんも調べが付いとる。でもなぁ……。
「それじゃあ、うちらが食い込めないやん……!」
思わず、ぎりぃ、と歯軋りする。
奴隷も多く連れてきた。ボンの蓄えが少なくなってきとんのも把握しとる。ここでうまく内に入り込めば、利ザヤでウハウハやった。
なのに……!
「ご破算やないか!」
まさか、ここで公爵家が介入してくるなんて、思わへんやん!
どうせ、内政音痴の伯爵家はもうそろそろ、支援を打ち切る。娘が動いとるようやけど、当主は首を縦に振らへん。内政、利益のことなんぞ頭にないから。
だから一流になれへんことを理解しとらん。それは別にええ。うちらにとって、蜜でしかないんやし。
場合によっちゃ、伯爵家や公爵家にも広げよ、思てたんに。まさか、その前の時点で擱坐やん。
「どこのどいつや、盤面広げたんわ」
少なくとも、奥さま。マイアやない。あん人なら、うちらと甘い汁啜る側に来る。
でも、公爵家の現当主にしても動きがおかしい、あん人はこういう搦め手が嫌いなんは調べが付いとる。
ダーリンはこんなことする必要ない。……まぁ、やりすぎ言うて肘鉄してる可能性はあるけど。
あの嬢ちゃんは、まぁ……。うん、そんな絵図面引ける頭ないやろ。
まさか、領主のボンに踊らされてた? うちらが?
「いや、落ち着け……。んなわけないやろ」
それをするんなら、もっと早い段階で手札を切る。少なくとも、領民を危険にさらす必要なんてない。と、なると怪しいのは……。
「そういえば、ボンの姉。公爵家の婚約者やったなぁ……」
あのボンクラが動かないのに、業を煮やして婚約者に働きかけた? それなら、一連の動きも説明付く。けど。
「いや、ないわ。いくらなんでも伯爵家ん娘のお願いで、跡取りが動く、なんてあり得へんやろ」
それに、公爵家の跡取り。イクリルやっけ。そのボンの噂は良い意味でも、悪い意味でも聞こえてこおへん。
凡庸な跡取りなんやろ。しかも、確か年は領主のボンと同い年。さすがに、ボンみたい奇人がもうひとりおってたまるかいな。
……いかんな。頭が熱うなっとる。落ち着かへんと。
すぅ、はぁ、と深呼吸して、少しでも気分を落ち着かせる。
そして、少し落ち着いた頭で結論を出す。
「……まぁ、ええやろ。あくまで最初のプランがお釈迦になっただけや」
すんごい、腹立つけど。まだまだ、利権には食い込める。うちも、奥さまも、や。でも……。
うちは机にどかり、と座って手紙を、書簡を書く。そして――。
「だれか! だれかおるか!」
「はいっ! ただいま――」
「よしっ、これでダーリンのとこ行って、ケツ叩いてや!」
ばっ、と書き終えた書簡を来た部下に渡す。
内容は簡単、いますぐ職人連れてこい。それだけや。
公爵家が介入してくる前なら、職人を出し渋りして、値を吊り上げてもよかった。
でも、もうそんなフェーズは過ぎてもうた。今は少しでも早く職人連れてきて、ボンに恩を売るべきや。そうしないと、うちらの影響力がどんどん吸われてまう。
その前に、一定の影響力は確保せんと。あと……。
「これ、これは奥さまに。超特急で頼むで!」
もう一枚書いたものを、今度は奥さま。マイアに渡すよう頼む。
こっちはもっと長期的なもんや。うちら、マーネン商会でもやるつもりやけど。別口でディオスクロイ子爵家でもやってもらう。
「ここの噂を流す。勢いの、流れのある領地や、って言う噂を」
そうすればこの辺境は嫌でも注目される。そして、注目されれば流れてくる。人が、物が、利が。それが増えれば増えるほど利益という名のパイが大きくなる。そうなればこっちのもんや。
たとえ、他の商会が来たところで、その頃にはうちらと奥さま、それに公爵家で利権はがっちがちや。入り込む隙間なんて与えへん。まぁ、ほんのちょっと、恵みを与える程度ならエエけどな。多少の競争があった方が市場としても育つし。
そんためなら、いまは損得度外視や。ここを発展させるため、じゃぶじゃぶ流したる。人も、物も、金もや。
それが首輪に、うちらの利益になる。
まぁ、ボンが簡単に引っ掛かるとも思えん。ここからは、どう上手く立ち回るか、やな。
「確かに、緒戦はうちらの負けや。だけど、見とけよ? こっから巻き返したる」
うちは負けっぱなしが嫌いなんや。覚悟しとけよ、ボンにお嬢ちゃん。最後に笑うはうち。アルフェ・マーネン、そしてマーネン商会や。そこだけは譲らへん。




