二十話
あの後、職人の誘致についてヴァンに商談を持ちかけたわけだが、予想通り。というより、予想以上に食いついてきた。
それだけじゃない。正直、彼の反応に違和感があったくらいだ。俺の要望に関して、渡りに船という反応に見えた。もしかしたら、マーネン商会の方でも職人を紹介してこちらに貸しを作ろう、という思惑があったのかもしれない。
しかし、同時に話しているうちに感じたことだが、ヴァン・マーネンという男は商人にしては、というか商人らしくリスクを嫌う人物のように見えた。そんな人間が職人誘致を手伝う、なんて多少のリスクが生じる事柄に積極的になるとも思えない。
「なにか、裏にプレーンでもいるのか?」
あるいは、驚いた話だが、アルフェとは夫婦だと聞いた。彼女からせっつかれたのかもしれない。辺境領に投資しろ、と。
まぁ、なんにしても……。
「アインさま、準備が整いましたよ」
領主の執務室へがちゃり、とドアを開いて呼びに来たレグルス。
「そうか、了解した。では、行こうか」
いま、マーネン商会から購入した奴隷たち。その中で買い戻しの子供たち以外を、館の一室に集めている。彼らに今後のことについて話すとしようか。
館の一室。本来は会議室として造られたであろう部屋を、いまは教室のような形で長机を並べ、奴隷たちを座らせている。
見た目だけで言えば、かつての就職説明会だ。そんなことを思いながら、俺は彼らの前へ立つ。
「さて、はじめましてだな。この領地の主、アイン・アルデバランだ。宜しく頼む」
奴隷たちがざわ、とざわめく。奴隷に宜しく、何て言う主などいないだろうし残当だろう。
軽く見渡しても、奴隷たちの目は好奇や期待などといった正の感情ばかりで、負の感情は見当たらない。強いて言えば、少しの困惑がブレンドされてるぐらいだろう。
まぁ、それはそれで仕方ない。なにしろ、レグルスが俺を呼びに来る前に奴隷たちにとあるヒアリングをしておいてくれ。と、命じたのがその理由になるだろうからだ。
「諸君らも困惑しているだろうが、これからのことについて説明する。まず、始めに言っておくが、この領地は人手が足りない。ゆえに君らが買われた、という事実は覚えておいてほしい」
再び辺りを見渡す。困惑の度合いが強くなっているのを肌で感じる。なにを言い渡されるのか、と戦々恐々しているのだろう。
「そのため、レグルス――」
その言葉と共に、レグルスが一歩前に出て頭を下げる。それでさらにざわめく奴隷たち。俺は構わず話を続ける。
「彼から色々話を聞かれただろう。それは今後のための判断材料として、だ。では、ここで発表していく。まず、君らには全部で四つの班に別れてもらう。狩猟のための班、木こりのための班。農作業のための班。そして、館での雑務をしてもらうための班だ。ここまではいいだろうか?」
そこまでで言葉を切り、奴隷たちを見る。どうやら理解できているようだ。話を続ける。
「そして、四つの班に別けるわけだが、この中で大人であるものたちは班関係なく、アスガル――」
横に控えていたアスガルが一歩前に出る。彼が着ている鎧ががちゃり、と音を立てた。
「彼の軍事教練に参加してもらう。これは、男女関係なく、の話だ」
「紹介に預かったアスガルだ。とはいえ、最初から厳しく行くつもりはないからな、安心して良いぞ。はっはっはっ!」
「なお、アスガルは現状木こり班の指揮官でもある。その事も覚えておくように」
快闊に笑うアスガル。心なしか、場の雰囲気が少し和らいだように感じた。
「また、諸君らが住む住居だが。それに関してはこの館で寝泊まりしてもらう。館での雑務に割り振ったのもここが理由だ。つまり、自分たちの世話は自身でしてもらう、ということだ」
なにしろ、館には空き部屋がたくさんある。それをいわゆる社宅として利用しよう、という考えだ。実際、現状館には俺たち三人しか住んでいないのだから、それを有効活用しようという話だ。まぁ、ついでに俺たちの食事も作ってもらうが。これくらいの役得はあっても良いだろう。
「ここからは待遇面での話となる。まず、始めに諸君らは奴隷であるが、働きに対しては報いるつもりだ。端的に言うと、少量であるが働きに対応して賃金を支給する」
いままでで一番のざわめきが起こる。奴隷たちはまさか、と言わんばかりに辺りを見渡し、互いの顔を付き合わせていた。
奴隷の中のひとりが手を上げた。
「あの……」
「質問は待ってもらおう。どうせ、この後。もっと質問したい事柄の話をするのでな」
そう言って奴隷の質問を拒否する。だが、俺が言っているのは事実だ。次の話は先ほど以上の衝撃になるのは間違いない。
「そして、期限を三年設ける。……一応、言っておくがこれは三年後、諸君らを奴隷として売り払う。などという意味ではなく、三年間地道に働けば奴隷契約の解除。つまり、諸君らは奴隷という立場から解放され、正式な領民として迎え入れる、という意味だ」
場が、しん、と静まり返る。当たり前だ、まさか働きの説明で君らは奴隷から解放される、聞かされたらそうもなる。
それ以前に、おそらく俺が言った賃金についても自身を買い戻せ、という意図だと思っていただろうが、それも違う。
早い話が奴隷解放された後の支度金、という意味合いが強い。
「後は子供に関してだが、こちらは大人が教練している間、勉強をしてもらう。また、子供の奴隷契約解除に関しても解除後は独自契約とし、館。つまり、領主である俺が保護者という形になる。子供にはちょっと難しいかもしれないが、ここまでは良いかな?」
やはり、ちんぷんかんぷんなようで、頭にクエスチョンマークが浮かんでいるような子供たちばかりだ。
思わず苦笑いが漏れる。だが、一応説明は続ける。
「まぁ、感嘆に言えば大人になるまでの間。こちら、領主、というか行政の方で面倒を見る、ということだ。なお、もしもの話になるが、諸君らの間で大人の男女が結婚、その後子供を養子に迎えたい、という場合はその限りではない。また、将来的に結婚する場合も同じくとする」
すると、大人のなかで納得した表情をした者たちが現れる。いわゆる、養子縁組は認めるよ。あと、子供が成人した後、結婚も認めるよ、という話だ。
「以上で説明は終了する。では、質問がある人間は挙手、手を上げ――」
一斉にズバッ、と上がる手を見て俺は、これは長くなる。と、理解して顔をひきつらせるのだった。




