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save the gene  作者: ふい
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第3話 闇バイト

【連載小説】save the gene | 第3話 闇バイト


Part 1 港区の喧騒

午後七時。浜松町の喧騒が一段落し、ネオンサインが 港区の人達の帰路を照らす頃、一戸天馬は待ち合わせ場所に立っていた。スマートコンタクトに映し出された目の前の画面では、彼のアバターが華麗なスキルを繰り出し、敵をなぎ倒している。


「スタミナ無限の上にガチャ放題ですげー面白れーこれもう福利厚生だろ?」


天馬が夢中になっているのは、株式会社gene社が開発した大人気ソーシャルゲームRPG『ジェネシス・オデッセイ』だ。gene社の一員として登録された者のみがアクセスできるスタミナ課金石無限仕様は、まさに彼にとっての福利厚生と言えた。指先を忙しく動かし、レアアイテム獲得の喜びに浸っていると、視界の端に丸い影が近づいてくるのが見えた。


「やあ!」


ボーリング玉ほどの大きさのぬいぐるみに似た奇妙なキャラクター、ジーンが、相変わらず天馬の頭の高さあたりでぷかぷかと浮遊しながら現れた。


「今日は高校生になっても思春期の君が葛藤しないような単純な案件を持ってきたよ!」


天馬はゲームアプリを素早く終了させ、現実世界へと意識を戻した。


「夜遅くに浜松町まで呼び出して、今度はどういう奴?俺んち門限あるから無断で来たんだよ」


ジーンはいつもの淡々とした口調で答えた。


「はいはい、今日は単純な悪党の相手だよ。さあプロンプトをスマコンで手入力で打って。『闇バイト タワマン save the gene!!』」


「はぁ?」


天馬は顔をしかめた。「今回は犯罪者のナチュラル!?俺相手したくねえし。何か普通に悪人を改心させる的なの、あったな何か」


「さっさと打って」


ジーンの有無を言わせぬ言葉に、天馬は渋々従った。スマートコンタクトの画面に現れたキーボードを、人差し指でフリック入力する。


『闇バイト タワマン save the gene!!』


すると、対話型AIメビウスの画面が切り替わり、一つの動画が再生された。


「三人組の少年がセキュリティの甘いタワマンの上級国民を強盗するか……まあ分かりやすい……そして怖い」


動画に映し出されたのは、いかにも血気盛んな若い男たちが、高級そうなマンションの一室に押し入る様子だった。


「ナノマシン弛緩装置で一時的に身動き取れなくして君がプロンプトを打つ。そうすれとナチュラルが出てくるから君が倒す!ただ犯罪者のナチュラルはちょっと強めだよ」


ジーンの説明に、天馬は半ば呆れながらも覚悟を決めた。


「屁理屈ぬいぐるみさん!今日もよろしくお願いします!」


最初の出会いからもうすぐ一月。奇妙な相棒との付き合いにも、天馬はだいぶ慣れてきていた。夜の帳が下りた浜松町の喧騒を後に、二人はジーンが指し示す方向、きらびやかな光を放つ高層マンションへと向かった。今夜もまた、彼の平凡な高校生活とはかけ離れた、騒がしい夜が始まる予感がしていた。


Part 2 ナノマシンのご都合主義

浜松町の喧騒から離れ、天馬とジーンが辿り着いた高層マンションは、異質な静けさに包まれていた。約束の午後九時までにはまだ時間がある。所在なげに周囲を見渡していた天馬は、ふと抱いた疑問を口にした。


「確か病気を治すとかもナノマシンだったな。ナチュラルを倒すのもナノマシン、犯罪者を拘束するのもナノマシン……なんでもそれだな」


ジーンは、いつものように知識をひけらかすように説明した。


「要は肉眼では確認できないミクロのAIのことだよ。世の中便利になったよね。AIとかさぁ、ナノマシンとか今の世の中一元化する傾向にあるんだよ」


天馬は納得したような、そうでないような表情で呟いた。「剣や銃は魔法はなくナノマシン……ナノマシン……ナノマシン……ブツブツ」


ジーンは少し呆れたように言った。「漫画やゲームで育ってる人多いよね。天馬はバリエーションがないとつまらないと思ってるんでしょ?さっきの自社製のゲームは武器も兵器も魔法だって出てくるけど、それはゲームだからでしょ?」


「むしろ現代ってさ、ゲームより便利じゃね?」


天馬の突拍子もない発言に、ジーンは小さく微笑んだ。「いい世の中になったね!」


他愛ない会話に花が咲き、二人が談笑していると、マンションの方向に怪しい影が近づいてくるのが見えた。三人組の少年たちだ。


「ちょっと天馬は物陰に隠れてて」


ジーンはそう言うと、自身の体に何か小さな装置を装着した。それは、さっき言ってたナノマシン弛緩装置だろう。準備を終えたジーンは、ぷかりぷかりと浮きながら、ゆっくりと三人組の少年たちの元へと向かっていった。天馬は言われた通り、近くの植え込みの陰に身を潜め、成り行きを見守ることにした。静寂を破るように、今まさに何かが始まろうとしていた。


Part 3 C級ナチュラル上位種

ジーンがふわりと三人の少年たちに近づくと、彼らは戸惑いの表情を浮かべた。


「なんだこいつ!?スタンプのキャラクター?」


最初に口を開いた少年は、ジーンの奇妙な外見に拍子抜けした様子だった。


「監視カメラの類いじゃね?でも俺ら不審な恰好しないようにしたのにもしかして気づかれた!?」


別の少年が周囲を警戒しながら呟いた。


「そのもしかしてかもしれないから逃げるぞ!」


最後の少年がそう言い終わるか否か、三人は一斉に踵を返し、逃走を図ろうとした。その瞬間、ジーンは無言のまま、両掌から目に見えない光線を放出した。ナノマシン弛緩装置の照射だ。


すると、まるで意思を持つかのように、光線はリング状の物体へと形を変え、逃げる三人組それぞれの体を取り囲んだ。


「なんだ?身動き取れねえ!?あれれなんだか力が出ない……」


拘束された少年の一人が、焦りの色を浮かべながら声を上げた。抵抗を試みるも、体は鉛のように重く、言うことを聞かない。たちまち、三人組は為す術もなくおとなしくなってしまった。


ジーンは物陰に隠れている天馬に向かって、涼しい声で言った。「じゃあプロンプトを打って!すぐわかるでしょ?ちなみに慌てなくていいよ!」


天馬は、その余裕のある態度に珍しく自信をめぐらせた。「さて、とっとと悪霊退散して金もらって帰るわ」


スマートコンタクトを操作し、フリック入力で素早く文字を打ち込んだ。「三人組 犯罪者 save the gene!!」




画像

C級ナチュラル(犬型)

次の瞬間、彼らの前に現れたのは、異様な姿をした犬型の“ナチュラル”だった。鋭い牙と爪を持つが、よく見ると獰猛そうだが、ただの犬に見える。


ジーンは三階ほどの高さまで軽々と飛び上がり、天馬に冷静に告げた。「一番格下のナチュラルの中では上位種だから、油断しないで」


「じゃあ加勢しろよ!これも実地訓練的な何かかよ!」天馬は打って変わって苛立ちを隠せなくなった。


「C級とB級って強さに境目があってね、C級を余裕でいなすことができない限りはB級の案件は任せられない!後、B級任せられたくないから下手に手を抜いたりすると最悪死ぬよ!」ジーンの言葉は容赦がない。


「上位種ってなんだよ!下位と何が違うのかわからない!ヒント教えてくれ!」


「ひとまず相手の特徴を掴むまでよける。これが基本。ただ上位種は変則的な特徴持ってるから、よけながら推察して!」


犬型ナチュラルが低い唸り声を上げ、地面を蹴り上げた。


「わかったよ!攻撃来そうだし……メビウスの音声入力をオンにしてっと」


天馬はそう呟くと同時に、迫り来る上位種のナチュラルとの戦いに身を投じた。夜の静寂を切り裂くような、激しい衝突の予感が漂っていた。


Part 4 慣れ

犬型のナチュラルは、天馬に直接襲いかかることはせず、信じられないほどの高さで一気に空高く舞い上がった。


「ワオーン!!」


鼓膜を震わせるような雄叫びと共に、それは急降下し、獲物である天馬に襲いかかった。天馬は咄嗟に身をかわそうとしたが、その下降速度は彼の予想を遥かに上回っていた。避けきれず、右腕に鋭い牙が食い込んだ。


「まさか!この跳躍力で下降のスピードも速かった!身体能力が著しく高いぞ」


激痛に顔を歪めながら、天馬は無理やり腕を振りほどいた。しかし、右腕からは鮮血が溢れ出し、力が入らない。「いってぇ……血もだらだらだし腕も動かねえ……これって本当にモンスター相手にしてんじゃん!」


その瞬間、ジーンが天馬に向けて何かを発射した。それは以前にも見たことのある、ナノマシン照射装置の光だった。光を浴びた天馬の右腕は、みるみるうちに傷口が塞がり、出血が止まっていく。


「あれ?回復した!」


驚愕する天馬に、ジーンは冷静に言い放った。「C級程度だったらゲームオーバーは多分ないよ。B級だったらこのミスで死んでた。」


ジーンの言葉の重みに、天馬は一瞬息を呑んだ。しかし、今は考えている暇はない。彼はすぐに音声入力でメビウスにプロンプトを伝えた。「試しだ! 素早い 跳躍 驚異的な身体能力 destruction!!」


まるで天の助けか、あるいは天馬の直感が冴え渡ったのか……プロンプトが的中した。犬型のナチュラルは、まるで砂の城が崩れるかのように、一瞬にしてその形を失い、跡形もなく消滅した。


空中でその光景を見ていたジーンは、パチパチと手を叩いた。「やるじゃん!慣れてきたね!この調子この調子!」その声音には、ほんの少しの皮肉が混じっていた。


「飲み込み速いだろ?俺?高校の成績は上位だからな!C級の上位なんて楽勝よ」天馬は得意げに胸を張った。


「まだ終わってないよ。今回はたまたまナチュラルの処理がうまくいったけど……取り合えず闇バイトの子の話を聞いてくれる!」


ジーンの言葉で、天馬は現実に引き戻された。リング状の拘束は解かれることなく、三人組の少年たちがゆっくりと意識を取り戻し始めていた。彼らの犯した罪、そしてその背景にある事情を聞き出すこと、そう簡単に仕事は終わりしそうにないようだ!


Part 5 かつての犯罪

ナチュラルが消滅し、安堵したのも束の間、天馬は拘束されたままの少年たちに声をかけた。「大丈夫?怪我はない?」


彼なりに、今回の騒動を通して少年たちが少しでも反省の念を抱いたのではないかと期待していた。しかし、一人の少年は低い声で吐き捨てるように言った。「放せよ……!」


天馬の頭の中に大きな疑問符が浮かんだ(改心していない?何故?)。


次の瞬間、別の少年が憎悪を込めた目で天馬を睨みつけた。「てめえも殺すぞ!絶対ゆるさねえからな!俺達失敗したら殺されるんだよ!」


「殺される?誰に?後逃げようとしたよね?本当は強盗を起こすの内心怖れていたんじゃないの?」天馬は問い詰めた。


すると、また別の少年が、諦めと怒りが入り混じったような声で言った。「俺達脅さられても金がなきゃ生きていけねえんだよ!裕福そうなお前に何がわかる!?」


その言葉に、天馬は一瞬言葉を失った。彼らの置かれた状況の過酷さを突きつけられた気がした。


その沈黙を破るように、ジーンがふわりと地上に降り立ち、少年たちに向き直った。「指示役は誰?」


一人の少年は警戒心を露わにして答えた。「言えるかよそんなこと!」


ジーンは冷静に言った。「じゃあ僕が援助する上に、指示役を今から10秒で摘発できたら?考え変える?」


少年たちは驚いたような顔で顔を見合わせた。「じゃあそうしてくれよ!後何かおいしい飯食わせろよ!」


一連のやり取りに、天馬は完全に蚊帳の外だった。ジーンの言葉の速さと、少年たちの態度の変化に戸惑いを隠せない。


「天馬!」ジーンが声をかけた。「『指示役 摘発 save the gene!!』って打ってみて」


「ああ……わかった!」


言われるがまま、天馬はスマートコンタクトにプロンプトを入力した。すると、先ほどとは異なる動画がメビウスの画面に表示された。それは、少年たちにも見えるように共有された。


動画に映っていたのは、見覚えのない強面の男たちが警察に連行されていく様子だった。


少年たちは目を丸くして言った。「ギャラクシィさんが摘発されてる!?何で!?裏社会で力がある方だぞ!」


ジーンは涼しい声で答えた。「君達のスマホから微弱な通信記録を解析して、アジトを特定したの。その情報が管轄の警察署に瞬時に送信されて、すぐさま出動したんだよ。AIの普及によって、警察の能力も飛躍的に強化されたんだよね」


「すげー……これ未来予測じゃなくて、今現在起こってることだろ?」天馬は驚嘆の声を上げた。


三人組の少年たちは、信じられないといった表情でジーンを見つめた後、遠慮がちに言った。「じゃあ……スタンプのお前は俺達に牛丼おごってくれよ!」


ジーンは快活に答えた。「合点承知!」


「牛丼屋だったらどこにでもあるから、そこで話を聞くよ」天馬は提案した。


ジーンはリング状の拘束を解き放った。解放された少年たちは、まだ半信半疑の表情を浮かべながらも、ジーンと天馬に連れられるように、夜の街へと歩き出した。彼らの向かう先は、浜松町の一角にある牛丼チェーン店だった。そこで、何が語られるのだろうか。天馬は、事態が予想外の方向へ進んでいるのを感じていた。


Part 6 邂逅の光

牛丼チェーン店の明るい照明の下、先ほどまでの緊張感が嘘のように、少年たちは 楽しそうに とタッチパネルを操作していた。「俺チーズ牛丼特盛!」「俺ネギ玉特盛!」「じゃあ俺ジャンボ牛丼で!」


これから運ばれてくる牛丼に期待を寄せ、三人は顔を見合わせ、天馬とジーンに深々と頭を下げた。「ありがとうございます!これで飢えずにすみます!」


天馬は彼らの笑顔 を見て、年齢を尋ねた。「君達まだ中学生?僕より年下だと思うけど」


少年たちはそれぞれ自己紹介をした。「俺はムーン!」「そして俺はアース!」「俺はビーナスだ!」


闇バイトという言葉の響きから、彼らはコードネームのようなもので呼び合っているのだろうか。太陽系の惑星の名前をもじっているあたりに、 本当にニュースであるようなことだという事 が垣間見えた。


「ご飯食べるほどお金がないの?それとも親御さんは食べさせてくれないの?」天馬の問いは、率直だった。


アースと呼ばれた少年は、少し棘のある言葉で返した。「お前親ガチャ当たりだろ?外した奴の気持ちなんてお前には分からねえよ!」


ビーナスも続けた。「どうせこいつガチの毒親知らない親ガチャNR野郎だろ?毒親と暮らしてると飯すら食わしてくれねえんだよ!」


ムーンは、やり場のない怒りを滲ませた。「金持ちの親ガチャ当たりは何の努力もせず出世街道突き進んでさぁ!俺達は?どんなに努力しても飯すらまともに食えない!だからしょうがねえだろ?」


ジーンは、彼らの痛切な訴えに耳を傾けつつも、冷静に現実を突きつけた。「法律で強盗は重罪なんだよ。君達の事情がなんであろうと、犯罪を犯したらしばらく服役刑だよ?少年院の過酷さ、イメージつかないんだね?」


アースは自嘲気味に言った。「だから死ねと?」


「葛藤しない単純な案件」だと告げられたはずなのに、天馬の心は大きく揺れていた(どうすればいい?俺には結論が出せない……)。


そんな天馬の葛藤をよそに、ジーンは淡々と解決策を提示した。「ひとまず自立支援施設に行けばいい!そして18歳になったら生活保護の申請をすれば、将来働かなくても食べていけるよ!」


「生活保護!?」天馬は驚いた表情で声を上げた。「だって高校生でもバイトできるんだから、それでいいよね?」


ジーンは天馬に向き直り、説明した。「gene社が自立支援施設と生活保護の後押しをするから、少年達はラッキーだったよ。犯罪を繰り返されてはまずいからね。」


ムーンは訝しげな顔で尋ねた。「“セイカツホゴ”ってなに?そんな制度があるの?俺、働く自信ないんだ……それで食っていける!?」


「君達の親には、君達の所在は隠しておくよ。それでしばらく施設でお世話になって、成人したらしばらく国の補助で暮らしてね」ジーンの言葉に、少年たちの顔がみるみる明るくなっていった。


その時、待ちに待った牛丼が彼らの前に運ばれてきた。三人は 何の躊躇もなく、熱々の牛丼を貪り始めた。


食べ終えた後、少年たちは一斉に顔を上げ、感謝の言葉を口にした。「ありがとうございます!これで俺達、救われた!!」


ジーンは、少年たちのスマートフォンに都内の某自立支援施設の住所を送信し、念を押した。「自立支援と言っても、衣食住の確保と少しだけの活動が中心だから、しばらくそこで身を潜めててね」


「お世話になりました!!」


深々と頭を下げた三人の少年たちは、夜の闇に まるで幽霊の ように、牛丼屋から姿を消した。後に残されたのは、天馬とジーンだけだった。


Part 7 門限

「「むしゃくしゃしてた」で犯罪を起こすのは現代的なのかもしれないけれど、本来、生きるために犯罪を犯すのが一般的だよ。でも、だからといって無罪になるわけじゃない。理由はどうあれ、法を犯せば懲役、下手をすれば死刑だよ!分かった?じゃあ、はい、三万円。アプリで確認して」


ジーンはそう言うと、スマートコンタクトの画面を操作し、天馬の口座に三万円が振り込まれたことを示した。


天馬は、その金額に少しばかりの引っかかりを覚えながら、遠慮がちに言った。「彼らは生活保護のために施設に入る。俺は?今日、楽だったし時間も短かったし、それで三万円!?」


ジーンはあっけらかんと答えた。「じゃあ君は勝ち組なわけだね。割り切ればいいじゃん!情けを感じて受け取らないの?一歩間違えたら犯罪者になっていたかもしれない子達のために?」


天馬は完全に納得したわけではなかったが、自分に言い聞かせるように呟いた。「そうだよな……彼らと僕は関係ないし」


その時、天馬のスマートフォンのSNSアプリ「PINE」から着信音が鳴った。画面には「葉子」という名前が表示されている。


「やっべー!葉子からだ!」


天馬は慌てて電話に出た。スピーカーから聞こえてきたのは、少しばかり怒気を含んだ女性の声だった。「こら!天馬、こんな夜遅く何やってるの!?門限の九時はとっくに過ぎてるよ!速く帰りなさい!」


「ちょっと急用があっただけだよ!」


葉子という女性からの電話に、天馬はしどろもどろになりながら答えた。電話を切ると、ジーンは特に何も言わずに、いつものようにぷかぷかと浮遊していた。


葉子に叱られた天馬は、渋々といった様子で帰路についた。ジーンもまた、来た時と同じように音もなく夜の闇へと消えていく。それぞれの帰る場所へ。今日の出来事を胸に抱きながら、天馬は家路を急いだ。高層マンションの灯り、牛丼屋の喧騒、そして電話口からの叱責。短い夜の出来事が、彼の心に小さな波紋を残して終わった。


To be continued!!

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