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save the gene  作者: ふい
2/22

第2話 あくまでも仕事だから

Part 1 依頼型の仕事

高校一年生の一戸天馬は、揺れる電車の窓から流れる景色をぼんやりと眺めていた。午後の陽光が車内を照らし、微睡みを誘う。イヤホンから流れるのは、最新のヒットチャート。特に興味があるわけではないが、なんとなく耳に入れているだけだった。


そんな彼の日常に、隣にフワフワと浮かぶ小さな存在が話しかけてきた。


「天馬」


声の主は、彼の相棒――ジーンだ。ジーンは小型のマスコットキャラクターのような外見をしている。鮮やかな白色の体は光沢があり、つぶらな瞳がくるくると動く。普段は実体を持っており、天馬の肩に乗ったり、周囲を飛び回ったりしている。


天馬はイヤホンを片方だけ外して、ジーンを見た。「なんだよ、ジーン」


ジーンは小さな両手を組んで、少し得意げな表情を浮かべた。「新しい依頼だよ」


天馬は気のない返事をした。「ふーん」


「君の力を必要とするものだ」


いつものことだった。ジーンがこうして依頼を持ってくるのは、決して珍しいことではない。彼らの特殊な能力が求められる場面は、意外と多いのだ。


「へえ、どんなの?」天馬は窓の外から視線を戻した。「また厄介な連中の相手か?」


ジーンはぴょんと一度跳ねて言った。「今回の依頼人は……まあ、君の言葉を借りれば、『競馬にはまってるギャン中のアラサー』らしい」


天馬は盛大に顔をしかめた。「はあ?マジで?そんなの、俺がやる意味あんの?カウンセラーにでも頼めばよくね?」


ジーンは小さな体を揺らしながら反論した。「今回の仕事は、ナチュラルに君が対処することがメインだから、依頼自体は簡素なものを用意しといたんだよ」


「ナチュラルねえ……」天馬はその単語に少しだけ反応した。ジーンが時折口にするその言葉の意味は、彼も理解している。「また厄介なことになるんじゃないだろうな」


「それは追々説明する。とにかく、今回の依頼は君にとって重要な意味を持つんだ」ジーンは熱っぽく語った。「うまくいけば、その人のギャンブル依存症が治せるかもしれない。そして、そのプロセスをメビウスに学習させることができれば、人類にとって大きな貢献になるんだ!君にはくだらないことのように感じるかもしれないけど、とても重要なことなんだよ」


天馬はジーンの真剣な眼差し(彼にはそう見えた)に、少しだけ考え込んだ。確かに、ジーンの言うことも一理あるのかもしれない。それに、ジーンがここまで熱心になるのは珍しい。そして何より、ナチュラルが絡んでいるとなれば、事態が単純なはずがないことも経験から知っていた。


「まあ、少しは要領は掴んだから、その通りやればいいんだろ?」天馬は半ば諦めたように言った。「で、ナチュラルとの対決は俺も参加すると!」


ジーンは一瞬、動きを止めたように見えたが、すぐにいつもの調子に戻った。「ものは試しだね!さて、ぐずぐずしていても仕方ない。今度は北区赤羽のアパートに行くよ!」


天馬は座席から少し身を乗り出した。「北区?遠くね?」


「まあね。乗り換えもいくつかあるよ」ジーンはあっさりと言った。「さあ、降りる駅に着いたぞ」


電車のドアが開き、二人は流れに乗ってホームへと降り立った。高校一年生の一戸天馬と、小型のマスコットのような相棒ジーンは、いくつかの電車を乗り換え、目的地の北区赤羽にある古びたアパートへと向かう。天馬は、今回の依頼の裏に潜むであろうナチュラルの影を感じながら、赤羽の雑多な雰囲気に足を踏み入れた。


Part 2 ナチュラルの階級(ランク)

赤羽駅の喧騒を抜け、ジーンに導かれるままに歩いていると、周囲は徐々に生活感のある静かな住宅街へと変わっていった。古びたアパートの前に立ち止まった時、ジーンはくるりと宙を舞い、天馬に向き直った。


「さて、天馬。着いたからには、まず君自身がナチュラルに対処するために、メビウスをどう使って戦うかのレクチャーをしなきゃならない」


天馬はアパートを見上げながら、気のない返事をした。「剣?銃?魔法?どうせそういうのじゃないと思うけど」


ジーンは得意げに胸を張った(ように見えた)。「ご明察!ここは君が転生した後の異世界じゃないからね!じゃあ言うよ。対話型AIメビウスを使って、音声入力でプロンプトを唱えるんだ!」


「AIで戦う世界ではAIで戦えってか……」天馬は呆れたように呟いた。


「基本はね、何個かの単語を言って、最後に『destruction!!』と付け加えるんだ」ジーンは説明した。


「ディストラクションって、破壊かよ……」天馬はますます胡乱な目をジーンに向けた。


「スマコンのフリックタイプじゃ、入力している間に攻撃される可能性があるからね。音声入力を使うんだ!精度はなるべく高くしてあるけど、滑舌はなるべくしっかりとね!」ジーンは念を押した。


天馬はまだ半信半疑だった。「これでナチュラルが倒せるって仕組みか……聞いてる分には簡単そうだな!」


「一番下のランクのC級だからね!」ジーンは訂正した。「まずは天馬はしばらくC級の案件で慣れてもらう!それからいずれB級の案件も持ってきてあげるよ!」


「ナチュラルってランクがあるの!?」天馬は驚いた。


「CからAまであるよ。C級をこなせるようになったら、B級の案件をやらせてあげる!C級は慣れれば誰でもこなせるレベルだから安心して」


「C級のまま3万円貰い続けた方がいいよな……だって昇給しないんだろ?」天馬がぼやくと、ジーンは慌てて言葉を遮った。


「ほら、歩いているうちに目的地のアパートに着いたよ!天馬!準備して!」


ジーンの説明が終わった、そのまさにタイミングで、二人は目的の古びたアパートの前に立っていた。外壁は雨染みがあちこちに残り、蔦が絡まっている。どこか陰鬱な雰囲気が漂っていた。


ジーンは天馬の肩に飛び乗り、真剣な表情で言った。「いいかい、天馬。今回の依頼人はこのアパートの二階に住む、佐々木という男性だ。ギャンブル依存症をどうにかしてほしい、というのが依頼内容だ」


天馬はアパートの入り口を見つめた。「ギャンブル依存症を、俺がどうにかするのか?」


ジーンは「まずは、ナチュラルを吐き出すプロンプトを引き出さないとね!」

天馬は小さく息を吐き、覚悟を決めた。「わかったよ」


ジーンに促されるまま、天馬は古びたアパートの薄暗い階段をゆっくりと上り始めた。二階へと続く軋む階段の音だけが、静かなアパートに響いていた。


Part 3 競馬と積立投資

天馬はジーンに続いて、古びたアパートの二階へと上がった。ジーンは慣れたように、突き当たりの部屋のインターフォンを押した。「すみません!株式会社geneです!ご依頼のお伺いに来ました!」


しばらくの沈黙の後、ドアの向こうから控えめな声が聞こえた。「はい……」そして、ゆっくりとドアが開いた。顔を出したのは、目尻に深い皺を刻んだ、いかにも人の良さそうな老年の女性だった。


「お待ちしておりました!どうぞ、こちらへ!」女性は二人をリビングへと招き入れた。質素ながらもきちんと整頓されたリビングで、天馬とジーンは促されるままにソファに腰を下ろした。


「わたくし、佐々木の母と申します」女性は少し遠慮そうに(不安そうに)言った。「この度は、本当にありがとうございます」


ジーンが代表して答えた。「こちらこそ、ご依頼ありがとうございます。早速ですが、息子さんのご様子を詳しくお聞かせいただけますでしょうか?」


佐々木の母親は、重い口を開いた。「息子は、今まで本当に真面目に……物流大手の会社員として、一生懸命働いておりました。それなのに、急に『コスパが悪い』などと言い出して……会社を辞めてしまったのです。長年、少しずつ積み立てていた積立貯金も、全て崩して競馬を始めてしまいまして……」


母親は 喉を詰まらせ、目を潤ませた。「それからというもの、息子は自室に閉じこもりっきりで……まるで、まるで憑き物にでも取りつかれたかのようで……依頼人様……どうか、どうか息子を更生して頂けますでしょうか?」


ジーンは静かに頷いた。「承知いたしました。では、息子さんの部屋にご案内いただけますでしょうか?引きこもり状態とのことですが、直接お話を伺えれば、何かわかるかもしれません」


母親は少し戸惑った表情を浮かべた。「今の時代は、AIロボットが主流なのですね!わかりました。そちらのお兄さんも、一緒にご案内します!こちらへ」


ジーンと天馬は、母親に続いて廊下を進み、奥の部屋の前で立ち止まった。母親は遠慮がちにドアをノックした。「息子や!お客さんが来たよ!」


部屋の中から、低い声が返ってきた。「前に言ってた依頼人?……いいよ、入って」


天馬はジーンと顔を見合わせ、小さく息を吸い込んだ。「失礼します!」


意を決してドアを開けると、薄暗い部屋の中に、競馬中継が映し出されているパソコン画面と、熱心にスマートフォンを操作している男の姿が目に入った。男が、佐々木だろう。


「佐々木さんですね?」天馬は声をかけた。「ご依頼内容は、ご本人もご確認済みでしょうか?」


佐々木はスマートフォンから顔を上げ、天馬を一瞥した。「依頼って、俺の競馬好きを治すってことだろ?どうせ」


「まあ、そういうことになりますけど……」天馬は、どこか投げやりな佐々木の態度に、少し怖いと感じてたじろいだ。


佐々木は再びスマートフォンに目を落とした。「前の会社の給料は、悪くなかったよ!投資信託もどんどん積み立てることができたし、別に問題ないと思ってた!でもさぁ!10年先に預貯金が増えるって……そこまで待てって言うのかよ!?」


天馬は反論しようとしたが、佐々木の言葉に一瞬詰まった。「じゃあ、競馬だと短期間で儲けられるという確証はあるのでしょうか?」


佐々木は鼻で笑った。「夢があるじゃん!俺は異常者じゃない!一攫千金を狙うには、リスクも背負わないといけないのはセオリーだろ!?」


佐々木の開き直ったような言葉に、天馬は言い返せなくなり、少し納得してしまった自分がいた。


「あの……少しお時間をよろしいでしょうか。少し、外に出ます……」天馬はそう言って、佐々木の部屋を後にした。


廊下に出ると、ジーンが心配そうに天馬を見つめていた。


「別に、個人の勝手なような気がしてきたんだけど」天馬は正直な気持ちを打ち明けた。


ジーンは小さな体を宙で 浮かせ(静止)させ、真剣な眼差しを天馬に向けた。「それは君の主観の話でしょ?そうじゃないんだ!」ジーンは、今回の仕事の意義について、諭すように説明を始めた。


Part 4 ジーンの上司としての説教

ジーンは天馬の疑問を一蹴した。「僕達の依頼はギャンブル中毒を治すこと。君がギャンブルを個人の自由だと考えるかどうかは、今回の仕事においては参考にならないんだよ」


天馬は納得がいかない様子で言い返した。「俺だって、将来は積立貯金をするつもりだよ。でも、何年も待たなきゃ増えないって話になると、別に佐々木さんがギャンブルで大損しても、それは個人の自由じゃないかって思ったんだ」


「僕達の仕事と、天馬の個人的な意見は関係ないよね?」ジーンは少し語気を強めた。「別に佐々木さんと僕達は他人なんだから、佐々木さんが仮に自己破産したとしても、僕達は関係ないの?」


「でも……」天馬が何か言いかけようとすると、ジーンはそれを遮った。「仕事をするよ!いい?佐々木さんは、将来必ず増えるはずの積立投資を切り崩して、不確実な競馬にのめり込んでいる。これは、かつて正しかったことと、これから間違っていくこと?」


「お、おう!」天馬は促されるままに答えた。「積立投資は、将来必ず貯金が増えるから正しいと思う。でも、無職になってまでギャンブル中毒になるのは、唐突すぎる気がする。俺は学生だから、俺の感性で合ってるだろ?」


「じゃあ、そのプロンプトを入力して。『save the gene!!』ってメビウスに入力するんだ」ジーンは指示した。


「わかった!」天馬はスマートコンタクトで、目の前に表示された画面を指さしフリックタイプで言葉を紡いだ。「積立投資……競馬……save the gene!!」


しかし、スマコンには何の反応もなかった。メビウスの画面は静かなままだ。


「あれ?ナチュラルが出てこないな」天馬は訝しんだ。


「それ、多分余計な単語が混じっているよね?」ジーンは冷静に指摘した。


「何が間違っているのかな?これって、かつて正しかったことのプロンプトを入力すればいいんだろ?」天馬は混乱していた。


「競馬ってさぁ、かつては正しいの?」ジーンは問いかけた。「ギャンブルって、昔は国民の遊びだったの?後、積立投資は本当に個人の自由だから、その単語は省いていいんじゃない?」


「昭和の話なんて、俺わかんねーよ!」天馬は困惑した。「大昔は、競馬は盛んだったの?」


「ここの部分は、常識で考えてみて!」ジーンは少し呆れたように言った。「かつて悪いとされていたことも、今も悪い傾向にあるかもしれないよ!」


その時、天馬は電車に乗っていた時のジーンの発言を思い出した。「そうか!今日は俺がナチュラルと戦闘することがメインだったな!簡素だって言ってたっけ!」


「そういうこと!」ジーンは頷いた。「だから今回は、ナチュラル発現までは簡単なんだよ!わかったら、佐々木さんを部屋から連れ出して、近くの公園に行こう!」


ようやく手筈が整った。ジーンと天馬は、今回のメインイベントへと進むことになった。天馬は、まだ半信半疑ながらも、ジーンの指示に従うことにした。


「佐々木さんに、少し気分転換に外に出ませんか、とでも言ってみるか」天馬は呟いた。


ジーンは小さく頷いた。「それがいい。公園なら、万が一のことがあっても、周りに迷惑がかかりにくいからね」


二人は再び佐々木の部屋のドアに向き直った。天馬は深呼吸をし、ノックをした。「佐々木さん、少し気分転換に、近くの公園にでも行きませんか?」


Part 5 ナチュラルとの初陣

ジーンと天馬は、半ば強引に佐々木を連れ出し、近くの小さな公園にやってきた。ベンチに腰を下ろした佐々木は、訝しげに二人を見つめた。


「僕は別に重度の引きこもりじゃないから、たまには競馬場に出かけたりもするけど?一体どうするつもりなんだ?」佐々木は、どこか嘲笑を含んだような笑みを浮かべた。


その時、ジーンは天馬に向かって声を上げた。「天馬!今だ!プロンプトを入力して!」


天馬は言われるがままに、スマコンのモニターの、メビウスに向かって指さしフリックタイプした。「ギャンブル中毒……save the gene!!」


直後、佐々木の嘲笑していた態度が、まるで別人のように豹変した。虚ろな目を周囲に向け、戸惑ったような表情を浮かべた。「あれ?僕、何でこんなところで……?そうだ、会社に連絡して、復職させてもらおうかな。積立投資もまた始めないと……」


佐々木は天馬とジーンの方を向き、深々と頭を下げた。「ご迷惑をおかけしました。ありがとうございます」そう言うと、足早に自宅へと戻っていった。


天馬は、あっけなく終わった事態に、もどかしさを感じていた。「ギャンブルで一攫千金を狙うのだって、別にいいじゃん……」


その言葉が終わるか否か、ジーンは鋭い声で言った。「はい、天馬!ナチュラルが出たよ!構えて!」


佐々木が立っていた場所に、巨大な馬のモンスターが、地面を揺るがすほどの威圧感と共に鎮座していた。漆黒の毛並みに、赤く燃えるような瞳。鼻からは荒い息が漏れ、周囲の空気を震わせている。


天馬は目の前の異様な光景に息を呑んだ。「要するに、ナチュラル発現と同じ要領で、ナチュラルの特徴と『destruction!!』ってスマコンで音声入力すればいいんだろ?」


ジーンは、どこか楽しげな声で言った。「何となく要領を得てきた?じゃあ、しばらく逃げ回って!」


巨大な馬の姿をしたナチュラルは、地響きを立てながら、天馬に向かって猛然と突進してきた!


「うわあ!速い!」天馬は悲鳴を上げ、間一髪でその突進を避けた。地面には、蹄の跡が深く刻まれた。


「俺の名前は天馬ペガサスだから、俺の方が早いよん!ベロベロベー!」天馬は挑発するように舌を出したが、一瞬の油断をナチュラルは見逃さなかった。目にも止まらぬ速さで、再び天馬に突進してきた!これも、辛うじて避けることができた。


「ジーン!お前も参戦しろよ!ナノマシンを分解する装置は!?」天馬は叫んだ。


ジーンは涼しい声で答えた。「君の初陣だからね。まず君一人で何とかしないと!加勢もしないし、助言もしないよ!そろそろ、3万円分の働きをしてもらわないと」


「それじゃ、俺死ぬじゃねえか!?」天馬の叫びは、虚しく公園の空に響いた。


「そりゃ、3万円だからね!」ジーンはあっけらかんと言った。「ちなみに、負傷したら修復してあげるから安心して」


ジーンはいつもより高く宙に浮き上がり、まるでスポーツ観戦でもするかのように、天馬とナチュラルの戦いを興味深そうに見下ろしていた。天馬は、巨大な馬の咆哮を背に、必死に公園内を走り回った。


Part 6 天馬の成長

幾度かの突進を辛うじて回避するうちに、天馬は疲弊の色を濃くしていた。「今度突進されたら、マジで喰らうな……」


しかし、焦燥の中で、天馬はふと、目の前の巨大な馬の動きに気づいた。(この馬……突進しかしないな!まるでスペインの闘牛だ。俺はただ、ひたすら避けているだけ!これといった特殊能力はないらしい……ひとまず、プロンプトを出力してみるか)


鼻を荒げ、今にも再び突進してきそうなナチュラルに対し、天馬はスマコンの設定で、メビウスの音声入力をオンにした。そして、意を決して高らかに叫んだ。「漆黒の馬!赤い瞳!突進!」


ナチュラルは、その言葉に応えるかのように、再び地面を蹴り上げ、天馬に向かって突進してきた!天馬は最後の力を振り絞って身をかわし、同時に叫んだ。「destruction!!」


その言葉が響いた瞬間、突進していたナチュラルの巨体がピタリと静止した。そして、まるで砂の城が崩れるかのように、その体は徐々に、しかし確実に分解されていった。黒い粒子が宙を舞い、最後に跡形もなく消え去った。


宙に浮いていたジーンは、満足そうに頷いた。「お見事!初陣にしては、よく頑張った!ていうか、あれくらい避け続けないと、君、最悪半身不随になっていたけどね」


天馬は荒い息をつきながら言った。「これだけ危険を冒せば……3万円は妥当だな」


「だね!」ジーンは得意げに言った。「ちゃんと3万円、君の口座に振り込んでおいたからね」


戦いを終え、天馬とジーンは家路についた。赤羽の賑やかな歩道を歩きながら、天馬はふと疑問を口にした。「ギャンブルって、本当に悪いの?だって、開業だってFXだって、ある意味ギャンブルじゃないか?それらも、やっちゃいけないの?」


ジーンは答えた。「別にお金が貯まったら、開業もFXもご自由に……むしろ僕も、夢があるのなら賭けてみるのは、それは個人の自由だと思っているし」


「じゃあ、何で『ギャンブル』って出力したら、ナチュラルが出たんだ?」天馬は問い詰めた。


ジーンは、少し不敵な笑みを浮かべながら言った。「じゃあ君は、友達や親に『ギャンブルやろうぜ!』と、何の心配もなく勧められる?その時、必ず友達や親は『ギャンブルっていいよね!』って言ってくれるの?」


天馬は少し考えてから言った。「それは確かに、100%勧められないよな……それが答えになるの?」


「100%勧められないって、今言ったよね?」ジーンは畳み掛けた。「つまり、完全にそうではない、何かしらの悪の側面を持つことになる!公的に、必ず良いとは言えないよね?」


天馬は、だんだん理屈っぽくなってくる相棒の言葉に、あっけにとられたような顔をした。


ジーンは続けた。「つまり、一般的に悪いと思われていることは、悪なの!天馬が個人的に良いと思うなら、違法ギャンブルもあるかもだけど、別に給料全額パチンコに突っ込んだっていいし」


天馬は心の中で思った。(そういえば、こいつAIなんだっけ?あまり質問すると、屁理屈をこねるぬいぐるみになるから、別に禁止とは言われてないなら、まあいいか)


自分なりに納得した天馬は、ジーンと一緒に赤羽駅のホームへと向かった。夕焼け空の下、二人は電車に乗り込み、それぞれの家路を辿った。今日の出来事は、天馬にとって、少しばかり奇妙で、そして少しだけ成長を感じさせるものだった。


To be continued!!

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