第1話 カスタマーハラスメント
※AIで加筆修正しています
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Part 1 一戸天馬とジーン
夕焼けが滲む帰り道、一戸天馬は隣を歩く奇妙な存在に視線を向けた。シンギュラリティを起こすために天馬の力が必要らしい。詳しいことはよく分からない。ただ、日払い三万円という破格の報酬に惹かれ、天馬はこの奇妙なバイトを始めていた。
「カスハラを止めろって? そのクレーマーはどんな人なの?」
天馬はスマホのホーム画面が目の前に映し出されるコンタクトレンズ、スマートコンタクト、通称スマコンに映る経路案内に目をやりながら、ジーンに問いかけた。今日の依頼内容は、コンビニエンスストアでの顧客からのハラスメントを止めるというものらしい。
「まずはこの仕事に慣れるために、一番楽な奴で実践的な案件を用意したよ。現場に到着したら僕の指示に従って」
ジーンは某魔法少女に出てくるマスコットのようである。最初は戸惑ったが、もう慣れてしまった。
「カスハラってピンキリだろ? 言って納得する奴もいれば、危害を加えてくる奴だっているわけじゃん? 三万円分の働きしなきゃいけないんだろ? どうせ、だったらヤバい奴なんじゃないの?」
天馬は正直な不安を口にした。高校生にとって三万円は決して安い金額ではない。それに見合うだけの危険が伴うのではないかと警戒していた。
「今回は命に関わる案件じゃないよ」
ジーンはあっさりと言った。
「ただ、カスハラ客の情報を取得するのはすごく大変だよ。何故ならまず、かつて正しかったことが今では間違っていることを知らなければいけないの! 天馬は令和生まれだからピンとこないと思うけど……とにかく現場で指示を出すから」
「はいはい、分かったよ!」
天馬はそう言うと、スマートコンタクトに意識を集中させた。レンズに映し出された対話型AIメビウスを起動し、ジーンに言われた通りに入力する。
「カスハラ 新宿区のコンビニ save the gene!!」
数秒後、スマコンの画面に一つの動画が再生された。映し出されたのは、新宿区らしきコンビニの店内。若い店員に向かって、顔を真っ赤にした中年男性が激しい言葉を浴びせかけている。男性の怒号と、困惑した店員の表情が、短い動画の中に凝縮されていた。
「じゃあ、現場に向かうよ! 交通費は給料に含まれてるから!」
ジーンの声が再び響く。天馬はスマコンに表示された経路案内のアプリに従い、ジーンと共に歩き出した。雑多なネオンが輝く新宿の街を、二人は目的のコンビニへと急いだ。天馬の胸には、微かな不安と、奇妙なバイトへの興味が入り混じっていた。一体、自分は何をさせられるのだろうか。そして、このシンギュラリティとは何なのだろうか。疑問は尽きないが、今はただ、ジーンの指示に従うしかなかった。
Part 2 未来予測
雑多なネオンが消え始めた頃、天馬とジーンは目的のコンビニエンスストアに辿り着いた。しかし、先ほどの動画で見たような、怒りを露わにした中年男性の姿は見当たらない。拍子抜けした天馬は、隣に立つジーンに声をかけた。
「帰ったんじゃねーの? こっちまで着くのに三十分くらいかかったろ?」
ジーンは相変わらず飄々とした様子で答えた。
「メビウスは未来予測をAIでシミュレーションして動画にしてあるんだ。だから、この後十分以内にカスハラ客が来ると思うよ。」
天馬は目を丸くした。「未来予測って!? 何かのアニメみたいなことが現実に起こせるのかよ!」
信じられないといった表情の天馬に、ジーンは得意げに胸を張った(ように見えた)。「AIはもうそこまで進化したんだ! すごいだろ? ほら……例のカスハラ客が来たよ!」
ジーンが指差す方向を見ると、コンビニの自動ドアが開いて、動画で見たのと同じ中年男性が入ってきた。特徴的な赤い顔と、不機嫌そうな表情は、動画の印象と寸分違わない。
「天馬! あのおじさんがクレームを入れるまで、買い物してるふりしてて」
ジーンの指示は簡潔だった。言われるがままに、天馬は飲み物コーナーへと足を運んだ。陳列されたペットボトルを手に取り、成分表示を眺めるふりをする。心臓が少しだけ早くなっているのを感じた。本当に、AIは未来を予測できるのか? そして、自分はいったい何をするのだろうか。
中年男性は店内をゆっくりと歩き回り、雑誌コーナーの前で立ち止まった。何かを探しているようだったが、すぐに諦めたのか、苛立ったように舌打ちをした。そして、レジの方へと歩き出した。若い店員が笑顔で「いらっしゃいませ」と声をかける。天馬は、自分の行動が始まるまでの、この静かな時間がやけに長く感じられた。中年男性がレジに近づくにつれて、店内の空気がわずかに張り詰めたように感じたのは、きっと気のせいではないだろう。
Part 3 かつての価値観 そして変遷
レジで会計を済ませた中年男性は、手に持ったホットスナックに目を留め、突然声を荒げた。「おい! 肉まんがあったまってねえぞ! これじゃ冷めて不味いじゃねえか!」
若いコンビニ店員は慌てて対応しようとしたが、申し訳なさそうな表情で言った。「すいません! こちらでは対応しかねます!」
その言葉を聞いた途端、中年男性の怒りは頂点に達した。「舐めた口叩いてんじゃねー! 店長呼べゴラ!」
けたたましい怒声に、店内にいた他の客たちは一様に顔をしかめた。飲み物を選んでいた天馬も、その剣幕に驚きを隠せない。そんな天馬をよそに、ジーンは冷静な声で指示を出した。「ここで天馬の仕事! このおじさんを止めてくれる! さあ早く!」
焦燥感に駆られた天馬は、言われるがままに中年男性に近づいた。そして、少しでも穏やかな口調で話しかけた。「怒らないでください! 周囲のお客さんに迷惑がかかります!」
すると、中年男性は鋭い視線を天馬に向け、すごんだ。「おお! やんのか!?」
「だから、やめてくださいって!」天馬は必死に訴えた。
「何でガキがでしゃばるんだ! 温かいはずの肉まんが冷めているんだから、怒るのは当たり前じゃねえか!」
中年男性の言葉に、天馬は一瞬、反論の言葉が見つからなかった。「確かに……おじさんの理屈はすごくわかる……肉まんが冷めてたら怒るのも無理はないよな」
そう思った瞬間、天馬は素直に口にした。「すいませんでした……」
しかし、中年男性は天馬の言葉など耳に入っていないかのように、再びコンビニ店員に向かって怒号を浴びせ続けた。事態が収拾する気配がない。少し距離を取った天馬に対し、ジーンは間髪入れずに問いかけた。「ここでどんなキーワードを連想した?」
咄嗟の質問に、天馬は戸惑いながらも正直な気持ちを口にした。「おじさんの言ってることもわかるよ。何が悪いのか、俺もさっぱりわからない……」
ジーンは語気を強めた。「言ったよね? かつて正しかったことが、今では間違っていることを知らなければならないって。じゃあ、何が間違っている? そして、それが現代では正しいと納得できる? 早く答えを出して!」
ジーンの言葉に、天馬はハッとした。確かに、肉まんが冷めていたことに対する怒りは理解できる。しかし、周囲への迷惑を顧みず、店員を恫喝する行為は明らかに異常だ。なぜ、当たり前のクレームが、ここまでエスカレートしてしまったのか。
天馬は冷静に思考を巡らせた。おじさんの主張はもっともかもしれない。しかし……「おじさんは、周囲の客に迷惑をかけていることが間違っている……違う! 時代にそぐわないんだ!」
天馬の中で、ぼんやりとした輪郭を持っていた考えが、明確な言葉になった。「もしかしたら、この状況がSNSに晒されて、炎上する危険性もあるから!」
ジーンは小さく頷いた。「何となく、それがわかったなら、メビウスに何て入れて save the gene!! と入力する?」
天馬は深呼吸をし、心を落ち着かせた。そして、スマコンのメビウスに指を滑らせ、キーワードを入力した。「カスハラ 周囲に迷惑 炎上 save the gene!!」
入力完了の合図と共に、スマコンの画面がかすかに光った。天馬は、これから何が起こるのか、固唾を飲んで見守った。
Part 4 AI型ミュータント『ナチュラル』
スマコンに入力した直後だった。あれほど激昂していた中年男性の表情が、みるみるうちに冷静さを取り戻していった。先程までの怒りはどこへやら、彼は落ち着いた声で話し始めた。「別に肉まんが凍っているわけではないし、もう手に取っちゃったから、今更交換しろと言っても食べられるからいいかな? 店員さん……この店で迷惑をかけて、すいませんでした!」
コンビニの若い店員は、予想外の展開に目を丸くしたが、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべた。「結構ですよ! 僕も仕事を完璧に覚えていないことも原因にあるので、こちらこそ、すいません!」
中年男性は、どこか諭すような口調で言った。「俺みたいな感情的なおじさんもいるから、仕事のミスはなるべくなくせよ!」そう言うと、彼は納得したように頷き、コンビニの出口へと歩き出した。
騒ぎが嘘のように静まり返った店内で、天馬はぽかんと立ち尽くしていた。「あれ? 帰っちゃった……」
隣に立つジーンは、どこか感心したように言った。「やっぱ君みたいな若者をこの仕事に起用すると、うまくいくね……まあ、前半は」
「前半? まだ仕事があるの?」天馬は思わず聞き返した。
ジーンはニヤリと笑い、天馬の背後を指差した。「後ろを見ててごらん! イカ型のモンスターがいるでしょ? あれがAI型のミュータント、ナチュラルだ!」
言われるがままに天馬が振り返ると、そこにいたのは想像を絶する光景だった。コンビニの陳列棚を押し倒し、天井を突き破るほどの巨大なイカ型のモンスターが、ぬめぬめとした触手を蠢かせながら鎮座している。その異様な姿に、天馬は言葉を失い、ただただ目を見開くことしかできなかった。先程までのカスハラ騒動など、取るに足らない出来事だったかのように、巨大なイカ型モンスターの存在感が、コンビニの空気を一変させていた。
Part 5 まだ給料に見合った仕事してないね
目の前の巨大なイカ型モンスターに、天馬は完全に思考が停止した。ようやく口を開いたと思えば、それは悲鳴に近い叫びだった。「これどうすんだよ!? 俺、能力者じゃねえし、変身ライダーでもないぞ! ジーン! お前が処理してくれるのか!?」
ジーンは至って冷静だった。「ナノマシン分解装置があれば処理できるよ! 天馬は他のお客さんと店員をコンビニの外に誘導して!」
言われるがままに、天馬は我に返り、店内にいる数人の客と若いコンビニ店員に声をかけた。「皆さん! 危ないですから、早く外へ!」
突然の事態に、客たちは皆、あっけにとられたような表情をしていた。何が起こったのか理解できていない者もいれば、必死にスマホをいじって状況を記録しようとする者、誰かに電話をかけ始めた者もいた。天馬は彼らを急かし、店の外へと避難させた。
天馬と客、そして店員が店の外で様子を窺っていると、数分後、コンビニの中は静まり返った。先程まで暴れていた巨大なイカ型モンスターの気配は感じられない。
そして、ジーンが涼しい顔でコンビニから出てきた。「今日の仕事終わり! 天馬! お疲れ様!」
天馬は信じられないといった表情でジーンを睨みつけた。「コンビニに損害が出たぞ! カスハラおじさんの比じゃないぞ! これ絶対ニュースに載る! どうするの!?」
ジーンは平然と言った。「株式会社geneの息が警視庁にもかかってるし、すぐに無機物修理型ナノマシンを持った始末班が来るから大丈夫だよ! 別に、あんなバケモノが出てきたなんて、バズっても信じてもらえるわけないでしょ?」
天馬は納得がいかなかった。「何でカスハラ客が炎上することが、イカのモンスターに繋がるんだよ!?」
ジーンは意味深な笑みを浮かべた。「かつて絶対に正しかったものの残骸かな? 仕事をこなしていくごとに、おいおい説明するよ! はい、三万円。スマコンの口座アプリに入れたから」
話を強引に打ち切るように、ジーンは天馬に給料が振り込まれたことを告げた。天馬は渋々といった様子で言った。「別に金貰ったから、そこまで詮索しねえけどよ」
「まだ給料に見合ってないね……だって、おじさんを説得した以外、仕事してないでしょ? 今度はもっと天馬にも仕事をしてもらうからね」ジーンはそう言って、次の依頼に含みを持たせた。
依頼一件で三万円。天馬は、このバイトが自分が想像していたよりもずっとスケールが大きいのではないかと感じ始めていた。同時に、説明のつかない出来事の連続に、一抹の不安が胸の中に広がっていくのだった。この奇妙なバイトの先に、一体何が待ち受けているのだろうか。今の天馬には、まだ知る由もなかった。
To be continued!!
まだ全く『小説家になろう』の事がよく分かりません
よろしくお願いします