異次元の急成長
優衣が羽を使って飛んだあの日からまたしばらくの時が経った。
最近、優衣がたくさんの成長をしたので聞いてほしい。
優衣が羽で飛んで一週間が経過した3月最後の週。
僕が朝ご飯を食べていると、優衣が興味深そうに見つめているのに気が付いた。
僕がゆっくりスプーンを動かすと、優衣はそれを目で追いかける。
まさかと思い、パソコンで少し調べてみた。
赤ちゃんは生後5~6か月で離乳食を始める。
優衣がいつ生まれたかは知らないが、試しにあげてみることにした。
家にトウモロコシとほうれん草があったので、ネットの情報を参考に「ほうれん草とコーンのポタージュ」を作ってみた。
「できたけど、ホントに食べるのかな?」
早速スプーンで一口食べさせてみた。
「はい、あーんして。」
「んー?」
初めてみる物に、優衣は少々警戒気味。
鼻でにおいをかいで、少し怪訝な顔をしながらも、恐る恐る口に入れた。
食べると優衣は目を大きくして輝かせた。どうやら気に入ったらしい。
「美味しい?良かった。」
「あー!うー!うー!」
さらに要求してきた。
優衣はそのまますごい勢いで食べ続け、いつの間にか茶碗一杯分を完食した。
「すごい...全部食べた。」
普通の子供はこんな食べないはずだけど、まぁ優衣は普通じゃないか。
ミルクから離乳食に変わった。成長って感じがしてなんだか嬉しかった。
3月の最初の週。気付けば優衣の身長もかなり伸びて、
角も羽も日に日に大きくなってる気がする。
羽と言えば、優衣は最近毎日飛ぶ練習をしてる。
僕が起きた時から、仕事へ行くために優衣を鞄に入れようとした時、
優衣が寝る直前まで、暇な時はずっと羽をパタパタさせてる。
最初は必死に羽を動かしててしんどそうだったけど、最近は慣れたのか少ない動きだけで済んでる。
「む~~!!」
「おー、凄い!安定してるよ優衣!」
まだ飛べる時間はそこまで長くないが、日々努力している。
優衣の成長を見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなる。
僕はすっかり優衣にデレデレしていた。
いつか本当の親が引き取りにくる。そんなことすっかり頭から抜けてた。
最初の頃とは大違いだ。
5分ぐらい飛ぶと疲れて羽を休ませる。
息も荒くなっていることから、かなり体力を使うらしい。
「練習するのもいいけど、無理はしちゃだめだよ?」
まだ赤ちゃんなんだから、無理なんかさせたくない。
でも自分から挑戦することはいいことだ。自立心の邪魔をしてはいけない。
3月の下旬、朝起きて、いつものようにリビングに行くと、優衣が足で立ってた。
羽を動かさず、手も使わず、優衣は二足で歩いてた。
普通ならめっちゃ驚くことだし、喜ぶことなんだけど、
今まで空飛んでたから、なんだか今更って感じであんまり驚かなかった。
でも、僕の前では少なくとも立とうとはしてなかったのに、今日突然立ったのには少し驚いた。
「おー。立ててるじゃん。すごいねー優衣。」
「えへへ!」
僕のことを確認した優衣は、満足したかのように空を飛んでこちらへ抱っこされに来た。抱っこを期待してる顔がまた可愛くて癒される。
「優衣、飛ぶのもいいけどちゃんと足使わないと。筋肉育たないよ。」
常に移動に羽を使ってるから、多分普通の人に比べて筋肉が発達してない。心配だから僕は優衣に少し注意した。
「はい!」
優衣が元気よく返事した。聞き分けが良くてすごく助かる。
「まったく、優衣はお利口さんだね。ご飯食べよっか。」
優衣をテーブルに座らせて離乳食の時間。
ニンジンのスープやかぼちゃのおかゆなど、優衣は好き嫌いせずに食べる。
何でも食べてくれるのは素直にありがたい。
4月上旬、僕が人生で一番驚いた日。
いつものようにリビングのドアを開ける。
そこには優衣がいつも通り飛ぶ練習をしている姿があった。
ここまではいつも通りだったけど、次の瞬間、
「あっ...ゆーし。おきた?」
喋った。しかもめっちゃ流暢に。
おかしくない?この子を拾って半年、今何歳かはしらないけど、見た目まだ全然赤ちゃんだよ?
「えっ!?喋った!?嘘?えっ?早くない!?」
「ゆーし。うるさい...」
混乱する僕に、優衣が軽くツッコミを入れた。
いや、そりゃうるさくなるでしょ。君まだ話せる年頃じゃないでしょ絶対。
一旦息を整えて状況を整理する。
まず朝起きたら赤ちゃんが喋ってた。
たったこれだけなのに頭にハテナが10個ほど生えた。
「ゆーし、どうした。ごはんちょうだい。」
時計は6時30分を指していた。
考えるのも面倒だからとりあえずご飯を作る。
いつも通りかぼちゃのおかゆを出したら、
「これ、あじうすい。きらいじゃないけど、すきじゃない。」
と、喋れるようになった瞬間、すげー生意気になった。
「文句は受け付けないよ。とりあえず食べなさい。」
「もー。」
離乳食を食べ終わり、もう一度考えてみた。
なぜ急に喋れるようになったのか。
とりあえず本人に聞いてみることにした。
「ねえ優衣。なんで喋れるようになったの?」
答えは思った以上にふわふわしてた。
「なんかおきたらできた。それだけ。」
そりゃ自分ではわからないよね。
普通の子がこれだけ話せるようになるには少なくとも3,4年は掛かる。
まあこの子人間じゃないから比べれないか。
そうこうしているうちに出勤の時間になった。
「ほら。お出かけの時間。鞄入って。」
「いや!そこいや!」
喋りだしてまじで生意気になった。いや、鞄の中は誰でも嫌か。
「嫌って...じゃあどうするの...」
「いえいる!るすばんする!」
「だめだよ。優衣はまだ赤ちゃんなんだから。危ないでしょ。」
いくら話せるようになったからって。一人で朝から晩まで留守番はリスキーすぎる。
「だいじょうぶ!わたしつよい!」
家を出る時間。これはもう何言っても無駄な気がする。
「しょーがない。絶対変なことしないでよ!わかった?」
「はーい!ぜったいまもる!」
守る...何を?
そんなこんなでいえに優衣を残しながら仕事に向かった。
正直心配だしそして寂しい。