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決断

異世界「ヴァストランド」。

ここでは多種多様な種族がそれぞれの領域で皆平和に暮らしていた。



ヴァストランドの西部、ここには穏やかで神秘的な地が広がっている。

ここはエルフの領域。平和主義で、誰に対しても友好的なエルフ族が暮らしている。


この領域には見渡す限り青々とした緑が広がっており、その中心に生えている「生命の樹」はエルフの平和の象徴となっている。

エルフの王は生命の樹の中で眠り続け、世界に危機が迫ったときのみ目を覚ます。



エルフ領域の反対側、ヴァストランド東部に位置するオークの領域。

ここには戦闘を好むオークが暮らしている。


木造建築の家や鍛冶屋が建てられ、かなり文明は発達している様子。

最東端に聳え立つ山には、そこら中にボロボロにされた木々がなぎ倒されており、

弦の切れた弓や刃こぼれした剣などが散乱している。

その山の頂点にはオークの王が居座り、部下たちから貰った食料を食べる日々を送っている。



そんなオーク領域の南、ヴァストランド南部にはゴブリンの領域がある。

ゴブリンは知能、戦闘能力、権力までもが他種族より低く、他種族から虐げられてきた。


ゴブリン領域の最南端にはヴァストランド内のおよそ半分を占める食糧がある林があるため、オークによる襲撃が何度も起き、その度に個体数を減らしていった。

ゴブリンには王が存在せず、襲撃が起きても、のほほんと生きている。



ゴブリン領域の反対側、ヴァストランド北部、

ここは一面薄暗く、闇色に染まった山や火山がほとんどを占める悪魔族の領域。


個体数はそこまで多くないが、戦闘能力がどの種族よりも高く、力ある者がすべてである。

王は戦闘を好まない平和主義者だが、他の野郎はそんな王のことをよく思っていない。




そんな種族が混在するこの世界は現在、深刻な食糧不足が問題となっている。


もとはある一体のゴブリンが火遊びをしていた時、偶然にも林に引火したことが始まりだった。

ゴブリン領域の食料は全滅し、残った他領域の食糧のほとんどをオークが盗み今に至る。

エルフ、ゴブリンの二種族は数少ない食糧を分け合い、悪魔は悪魔領域で採れる悪魔にしか食べることのできない果実で何とかつないでいる。




悪魔領域にそびえる山、その山頂では、悪魔族の王「ルシファー・エイレーネー」と、その妻「フレイヤ・エイレーネー」が向かい合っていた。

そのルシファーが抱いているのは、生まれたばかりの彼らの子、名もなき赤ちゃんだ。


「ルシファー、ほんとうにこれでいいの?」


フレイヤの声は微かに震えていた。


「私たちの子を...人間界に送るだなんて...」


ルシファーは下を向き、深いため息をついた。

ルシファーの翼がわずかに震え、内心の葛藤を感じさせる。


「フレイヤ、他に選択肢はない。この子をここで育てることは出来ないんだ。食糧も少ない中、この子に食糧をあげてるところをあいつら見られたら、『残り少ないのにガキになんかあげるな』と非難されるに違いない。」


フレイヤは唇を噛み、そっと赤ちゃんに近づいた。

赤ちゃんはこちらを見て、元気いっぱいに笑った。


「でも、人間界だよ?あそこは私たちとは全然違う種族ばかりなのよ?誰が育ててくれるの?」


「それでもだ。人間界には争いが少ないと聞く。少なくとも、ここより安全なことは確かだ。なら俺は誰かが育ててくれることに賭ける。」


二人の目が合わさった瞬間、後ろから女性の声が聞こえてきた。


「あのー。そろそろよろしいでしょうか?」


彼女の名は「シャンティ」エルフ族の王であり、ヴァストランド内屈指の魔術の使い手である。

この食糧危機を感じ取り、改善させるため目を覚ました。


「待って。もうちょっとだけ...」


「ですが,,,人間界への門は今が一番安定しています。この機を逃すとしばらくは難しいでしょう。」


ルシファーの目が鋭く光った。


「シャンティ殿。門は確実に開くのだな?」


「はい。確実に。」


シャンティは頷いた。


「今ここで門を開きます。ただあまり猶予がありません。開いたらすぐに入れてください。そうすると人間界のどこかに繋がるはずです。」


シャンティは淡々と説明を続ける。

フレイヤは泣きそうな声で問いかける。


「次は...次はいつ会えますか...」


「かなり魔力を使うので、一度閉まると、長くて10年、短くても5年ほど。再び会うときは...もう十分成長した時でしょう。」


「もういいだろう。早く開けてくだされ。」


ルシファーが会話を割って話す。

途端に、フレイヤの目から涙がこぼれだす。


「待って!せめて名前を...」


フレイヤは赤ちゃんをのぞき込み、頬にそっとキスをした。

フレイヤからこぼれ出た涙が赤ちゃんの頬を伝る。


「名前...か。アストラ。星を意味する。人間界でも輝ける存在になるために。」


「アストラ...」


フレイヤは呟き、そっとアストラへ語りかける。


「アストラ・エイレーネー。あなたの名よ。覚えておきなさい、あなたは私たちの子よ。」


シャンティが咳払いをした。


「お急ぎください。門を開けますよ!」


ルシファーは頷き、そっとシャンティに近づいた。

次の瞬間、青白い光がルシファーを包み込み、空間が歪んだ。


「ルシファー様!今です!」


ルシファーは少し躊躇したが、そっとアストラを手放し向こう側へと預けた。


「よし。門を閉じてくれ。」


光が少しずつ消え、何事もなかったかのように山には静寂に包まれた。


「...終わった。ありがとう。シャンティ殿」


「いえいえ、成功して良かったです。」


二人の声は静かな夜の闇に消えていった。



一方、人間界では、静かな夜道の片隅に青白い光が一瞬だけ閃いた。

そこには布に包まれた小さな赤ちゃんが穏やかに眠っていた。

彼女の名は「アストラ」。異世界から来た、名を持つ悪魔の娘。

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