5章 誓いの花束を君に
「クリスマス、予定ある?」
そう聞いたのは、クリスマスの一ヶ月前。
「え?クリスマス? 今のところないけど...」
杏花は困ったような顔でそういった。
「あのさ、クリスマス、イルミネーション見に行かない?」
「え?それってクリスマスデートってこと⋯!? ほんとに嬉しい。もちろん。一緒に行こ!」
杏花があまりにもキラキラ笑顔で言うものだから、言ってよかったと思った。
最近不安そうにする杏花を放っておけなくて、どうしても一緒にいたかった。
「嬉しい。ありがとう。」
再度そういった杏花を不思議に思って俺が首を傾げると
「だって、デート誘ってくれたの初めてだもん。」
と、先程より自然にニカッと笑った。
デート当日。
いつもより早く来たはずなのに、集合場所には杏花の姿があった。
「お〜い!椿くん、こっちこっち!」
ゆるく巻かれたミルクベージュの髪をふわふわの白いマフラーの上で揺らしながら、大きく手をふってる。可愛い。
寒いからいつもよりもこもこふわふわ可愛い増しましの杏花は鼻のてっぺんを真っ赤にして待っていた。
「ごめん?待たせちゃったよね?」
杏花の前で思わずばっと頭を下げる。
「あわわっ、椿くん顔上げて?全然だいじょぶだから、!」
杏花が慌てて手を振りながら言うけれど、杏花の手もちょっと赤くなっていて、俺は思わず杏花の手を掴んだ。
「うわっ、冷た! 杏花、いつから待っててくれたの?早くこなくて、まじでごめん!!」
「いや、楽しみすぎて早く来ちゃったんだよね...。椿くんが謝ることじゃないから、ほんとに大丈夫だから! それより、早く行こ!」
「じゃあ、これ。」
杏花の氷みたいに冷たい手をどうにかして温めるべく、俺はポケットに入れていたカイロを渡す。
「わ!ありがとう〜。 あったかぁい。」
杏花は小さなカイロをぎゅっと持って、幸せそうに笑った。
俺は、カイロを持っていない方の手を握って歩き始めた。
「きれい。」
周り一面に広がるキラキラと輝くイルミネーションを見て、溢れた言葉はたった一言。
水色、ピンク、黄色。カラフルで、幻想的で、思わず見とれてしまう。
「椿くん。きれいだね。」
「うん。」
しばらくキラキラした道を歩き回って、ようやくメインのところにたどり着いた。
メインは、イルミネーションのお花畑の真ん中にある、大きな塔。
塔の周りには、ハートだったり、羽だったり、星だったり、様々な模様がイルミネーションになってきれいに光っていた。
「わ、すご〜い! ね!椿くんみてみて!!これ、ハートだよ!写真撮っとこ〜!」
杏花が周りと同じようにスマホを向ける。
にひひ〜と満足そうに笑って、今撮った写真を眺める。その様子が可愛くて、俺がくすりと笑うと、杏花がニコニコ笑顔のまま俺に視線を向けた。
「2人で写真取ろう!今日の思い出!」
2人、ハートの前で並んで写真を撮った。
「めっちゃいい感じに撮れたかも! 一緒に撮れてよかった〜。」
撮れた写真はハートのイルミネーションをバックに、俺と杏花がきれいに写っていた。
ニコニコの杏花と、少し照れてる俺。
写真が残ると、一緒に過ごせた軌跡が残っていいのかなと写真を見返して思った。
「わ。雪。」
誰かの声で、ふと写真から顔を上げると、ちらちらと白い粒が舞っていた。
「ほんとだ。ゆきだ〜!!」
「杏花、あんまりはしゃぐと転ぶよ。」
杏花が雪にはしゃぎはじめたので慌てて止めた。
人がいる中で転んだら大変だ。
「ホワイトクリスマスかぁ〜。」
杏花がそういって手を空にかざす。
イルミネーションのキラキラが、雪と混ざってとても幻想的な世界が広がる。
杏花のもこもこの服にゆきが舞い落ちる。
「きれいだね!」
そういって振り返った杏花の髪の毛に、白く光る髪飾りが輝く。
「きれいだね。」
俺は杏花の髪をそっと撫でた。
しばらく雪の中でイルミネーションを見たあと、俺たちは帰路についた。
「椿くん。わたし、今、すっごい幸せ。」
そういって、杏花は空を見つめる。
「さっきまで周りがキラキラで全然見えなかったけどさ。こうしてちゃんと空を見ると、満点の星空が広がってて、星、ひとつひとつちゃんと輝いてて。こういうの見ると、わたしってここにいてもいいんだなぁって思えるっていうか。悩んでたこととか、自分がぜんぶ、星空に溶けてく感じがするんだ。」
そういった杏花は、ものすごく幸せそうな笑顔を浮かべて俺の方を見た。
確かに、そうなのかもしれない。
「どうしたの?椿くん。」
「あのさ、、、一回だけ、いうから、ちゃんと聞いてて。」
「俺、好きになったの、杏花だけ、、なんだけどさ。ほんとに、杏花に会えたの運命かなって、思っててさ⋯。 いつも、こんな俺でいいのかなって思ってる。 俺を選んでくれてありがとう。 この間も言ったけど、俺、杏花のこと大好きだから⋯ずっと、一緒に、いよ。」
ちらちらと舞い落ちる雪。杏花の瞬き。ふわりと笑う顔。
全部がゆっくりに見えた。
少し経ったあと、杏花は
「それってプロポーズじゃん。」
と笑った。
確かに、と思った。
全然そんな意図は無く、いつも伝えられない大好きを伝えようと思っただけだけど。
思い返してみればそんな言葉だ。
「いいよ。私、椿くんとずっと一緒にいたい。 私も椿くんのこと大好きだよ。」
2人でゆっくり歩く歩道に、真っ白な雪が積もる。
寒いはずなのに、ぽぅっと小さく灯る街灯が照らす雪道は温かかった。
「あ。赤。」
信号が赤に変わり、とまる。
手に息をはぁっとかけたり、カイロをしゃかしゃかしたりして、ただひたすら待つ。
さすがに、立ち止まっているのは寒かった。
「寒いねぇ。この間のデートはデート日和だったのに、あっという間に冬の寒さになっちゃったねぇ。」
杏花が呟く。
「うん。そうだね。」
俺も軽く相槌を打つ。
「私、今日のデート楽しかった。椿くんが誘ってくれて嬉しかったし。この人と付き合えてよかったって自信が持てた。ありがとう。」
杏花が優しく笑って振り向く。
「あ。緑になった!」
杏花が照れを隠すように横断歩道に進み始めたとき。
視界の片隅に、自動車が見えた。
「杏花!」
考えるよりも早く、杏花のことを突き飛ばす。
自動車が俺を跳ね飛ばす。
何もかも、ゆっくりに見えた。
杏花、大丈夫だったかな。
そう思って目を向けると、杏花は、無事向こう側に行ったようでなにか叫んでいる。
良かった。無事で。
安堵した瞬間、身体に激痛が走った。
「椿くん、、、、、!!」




