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4章 開花

杏花の誕生日パーティーの日はすぐきた。

そして俺は今、初めて彼女の家に入ろうとしている。

「椿くん!おーい! ようこそわがやへ〜!」

 テンションがばかみたいに高い杏花は、この間とは正反対の、太陽みたいな笑顔を浮かべて、こちらに向かって大きく手を振っていた。

「杏花、誕生日おめでとう。」

 なかなか家へ入ろうとしない俺に

「どしたん、椿くん? 早く入ろうよ〜。外さむいよ? え?緊張してるん?」

 と杏花が笑顔で圧をかけてくる。

「お、おぉぉぉ、ぉじゃまします、。」

 ドキドキしながらも、女の子の、彼女の、杏花の家へ、足を踏み入れた。

「どうぞ〜」

 杏花がニコニコしながら俺を迎え入れてくれた。

「あ、ケーキの材料とか、買ってきたから。」

 俺が持っていたビニール袋を杏花に見せると、杏花はぱぁっと顔を明るくした。

「わぁ!!ねえ、いちご、買ってきた? 買ってきたよね?」

 またもや杏花の圧。

「買ってきたよ。杏花、いちご好きだよね?」

「うん!え、なにこれっ?いちごのチョコペンなんてあったの!?」

「なんか、いろんな味のチョコペンあったから、いちおう。」

「うわ〜!! ありがとう〜!」

 なんていって杏花が抱きついてくる。思わず周りをキョロキョロしてしまう。

といっても家族はみんな出かけているらしいけれど。

「うお、杏花?」

「あ〜あははっ、ごめんつい。」

 杏花のテンションはマックス。

ちょっと羽目が外れてるっぽい。

「じゃあ、さっそく作ろっかー!」

 元気よくいう杏花に俺はおおきく頷いた。


結果として。

ケーキ作りはめちゃめちゃ時間がかかった。

まず、スポンジを作ろうといってしまった俺が悪かった。

調べてはいたものの、簡単だと思っていたが、混ぜ方から難しい。

杏花から、ふわふわにならないとか、それじゃ潰れちゃうだの言われ、なんとか混ぜたものの、型に入れるのも、難しい。

杏花があまりにも高いところから生地をたらそうとするのでもっと低いほうがいいのではと提案すると、それじゃだめだと怒られた。

あげく、杏花があんまり膨らまなそうなスポンジを睨みつけることになった。

最終的には、まぁまぁ膨らんだのだけれど。

それでようやくスポンジができたのが、俺が来てから2時間後のことだった。

そのあとも、なかなか泡立たないクリームと格闘していたら、冷やしながらじゃないとだめだと、スポンジを一生懸命まっすぐに切る杏花に言われ、いちごはヘタをとってから洗えと言われ、だめだしばっかりうけた。

「なぁんか、夫婦みたい!」

 と杏花が言って、本当にそうだなと思った。

というか、本当に俺はダメダメだなと思った。

それを杏花に伝えたら、

「椿くんはもうちょっと家事ができないとなぁ〜」

 と笑いながら言われた。

そして、なんとかケーキができあがったのは俺が来てから4時間後。

15時をゆうに過ぎた頃だった。


スポンジは予想より低く、少しぺしゃっとなっていて、切ってあるところも斜めってる。

クリームはゆるすぎるものがスポンジに塗ってあって、絞ってある部分は硬すぎてしまっていた。

いちごはきれいに切れてるものと、すこしぐしゃっとなっているものが中に雑に入っていて、上には切られてないものがきれいに並んでいた。

真ん中にあるのは、買ってきたネームプレート。

ふにゃふにゃのピンクの文字で「きょうか おめでとう」と書いてある。

そんな不格好なケーキでも、俺達にとっては最高傑作だった。



「うわぁ~!!やっとできたねえ!」

 杏花のよろこびようがよくわかる。

けど、俺はそんな飛び跳ねる元気などなく、疲れ切っていた。

「はぁ~、疲れた。」

「ねぇ。食べよー!」

 杏花が切り分けるお皿とナイフを持ってきてそういった。

「こう?」

「違うよ!!こう!!」

 最後まで杏花の指摘を受けつつ、ケーキを切り分け、それぞれのお皿によそった。

倒れてしまったけど、問題ない。

「はっぴばーすでーわったしー♪ はっぴばーすでーわったしー♪」

 一人でそう歌うと、その続きは鼻歌で歌い上げ、ぱくっと一口口に入れた。

その動作に見とれて固まっていると、杏花が突然クスクス笑い始めた。

「何固まってんの?椿くん。 今日、、じゃなくて、明日は私の誕生日なんだし、どんどん食べてよ!わたしが全部食べちゃうかもよ?」

 あんなに大盛りのパフェを食べた杏花だ。

冗談抜きで食べれる可能性がある。

そう思った俺は、すぐに食べ始めた。

食べ始めてびっくりする。

やっぱり、不格好でも最高傑作だった。

俺達の努力の結晶は、ものすごく美味しかった。

感動しているうちに、杏花は2つ目をよそいながら「太っちゃう〜」と嘆いている。

最後の一口を口に入れる。

「おいし。」

「ほらね、美味しいでしょ。 あ〜こんなに幸せでいいのかな?わたし。」

 杏花が呟く。

「いいんだよ。 この間も、色々不安って言ってたけど。 俺、杏花のこと手放すつもりはないし。 だから、安心して、幸せでいて?」

 一生懸命考えて出てきたのはこんな言葉。

照れがまじって、変なふうになってしまった。

そんな俺の言葉を杏花はふふっと笑って

「じゃあ、安心して幸せでいるね。」

 と受け止めてくれた。

「わたし、これからのことがまだ不安だけどさ。椿くんと一緒なら大丈夫かなって思えたんだ。 ありがとう。」

 杏花がそう言って笑う。

「いや、俺こそ。 俺から誘ったのに全然ダメダメで...」

「まぁ〜ダメダメだったけど。でも、そんな椿くんといれて幸せだったよ」

 否定しないのかよ!と思ったけど、そんな気持ち、その後の言葉でふっとんでしまった。

「ぁ、ありがとう。」

 俺は、少し照れながら返し、机の下においてあったカバンに手を伸ばした。

カサッとなる音の正体は、梱包してある杏花へのプレゼントだ。

「あのさ、杏花。大したものじゃないんだけど...これ、誕生日プレゼント。」

 思い切って渡すと、杏花は目をうるませた。

「え、ほんとに? いいの?」

 そう言いながら、開封していく。

袋から出てきたのは杏花の髪の色と同じ、ミルクティーカラーのテディベア。

「テディベアって、結ぶっていう意味があるんだって。だから...」

 ぽつりぽつり話している間も杏花は目をうるませたまま、テディベアをじっと見つめている。

「ありがとう。本当にありがとう。」

 杏花はそういってニコっと笑った。

俺は、その笑顔を見て、杏花がいてくれて本当に良かったと確信した。

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