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2章 恋のつぼみ

朝一番、いつもの喧騒が嘘みたいな学校に登校する。

春、まだ肌寒い風を受けながら朝焼けに染まる山々を見る。

今日も、1日が始まる。


「おはようございます。」

 今日も一番。

時計のはりは7時10分を指している。

「早く来すぎたかな、。」

 1人呟く。そして、私はあの机に視線を向けた。

入学式の日、一目惚れした、「夕凪椿ゆうなぎつばきくん」。

1人で登校していたところに声をかけてくれた。

明るくて優しい男の子。

「おはよございまーす、、ってあれ、花束はなつかさんじゃん、今日も朝早いね〜」

 噂をすれば。

椿くん。

吸い込まれそうに大きな茶色の瞳。

色素の薄い髪の毛は癖っ毛がぴょんぴょん跳ねている。

「おはよ、椿くん。」

 そう言って視線を逸らすと、染めようと思っていまだに染められていない漆黒の髪の毛が目に映る。

私、可愛くないよね、、、。

「花束さんってさ、俺のこと、椿くんって呼んでくれるよね。、、、俺も、杏花さん、って呼んでいい?」

 突然の質問に顔を上げると、目の前に椿くんがいた。

「、、ぜんぜんいいよ。呼び捨てでもいいし。」

「、、!じゃあ、杏花って呼ぶ。改めて、よろしくね、杏花。」

 ふんわり柔らかな声で椿くんに呼ばれる。

嬉しい。多分、私、顔真っ赤だ。

「ありがとう、私も、、よろしく、椿くん。」

 途切れ途切れで、声も小さくそういうと、椿くんはニカっと笑ってくれた。


私と椿くんだけが教室にいる時間なんてそれっきりで、1日が始まってしまうと、会話する機会なんてほとんどない。

椿くんは誰にとっても優しいから、私が特別ってわけじゃないのに、。

そしてきっと、椿くんが好きなのはひめ華さんだ。

櫻本さくらもとひめさん。華奢で、可愛くて、髪も明るく染まっていて、背は低いけど、そこが愛らしさで、誰にでも愛されるような、そんな子。

「ひめ華さん、みてるの?」

 そう、聞いてきたのは隣の席の愛花あいか。この子もまた可愛い。そして、唯一の友達だ。

「うん、やっぱり可愛いなぁ、って。」

「確かにね〜、でも、杏花も可愛いじゃん。」

 愛花はそう言ってくれるけど、私なんかひめ華さんと比べ物にならないくらい可愛くない。高校生になってようやくナチュラルメイクを覚えたくらいだ。美意識も足りない。

「ひめ華〜天然出てるぞー?」

 甲高く響く笑い声。

椿くん、普通に呼び捨てだよね、。

ちょっと落ち込む。

「あー、やっぱり、椿くん?」

 愛花がそう聞く。

「うん、好きかもしれないの。」

「それもう好きでしょー?」

 愛花がちゃかす。

うん、好きなんだと思う、。

嫉妬しちゃうくらいには。



家に帰ってもモヤモヤは消えなかった。

「とりあえず、お風呂に入るか、、」

 なんかモヤモヤしたときは、お風呂が1番である。

今日は贅沢に入浴剤も入れちゃおう。

入浴剤がはいった箱を漁り、適当に手に取ったものをいれる。

ちゃぽんとお湯が音を立てる。

透明なお湯が黄色に変わって行く。

「金木犀の良い匂い。」

 今日は金木犀。

甘い特別な香りが浴槽いっぱいに広がる。

「ふぅ、、」

 今日も、頑張ったなぁ、と、思うことができる。

入浴剤って偉大だ。


、、、私って、椿くんのことが好きなのかな?

自分のことなのに、わからない。

椿くんと話すと嬉しい。

1日頑張れる。

きっと、私が朝早く登校する理由は椿くんにあると思うんだけど、やっぱりよくわからない。

ひめ華さんに嫉妬はしてしまうけど、それは、ひめ華さんが可愛いからなんじゃないか、って思ってしまう。


ちゃぽん

お風呂に水が垂れた音でふと我にかえる。

そろそろ出ないと。

洗顔をして、お風呂をでる。

お風呂って、色々考えることができるけど、入りすぎるとクラクラしてしまう。

ピンク色のもこもこパジャマに着替え、化粧水、乳液をぬってパックをする。

パックの間スマホをいじろうとして通知が来ていることに気づく。

愛花からラインだ。


ーーーーーーー

〈Aika〉杏花、元気?元気なさそうだったからラインしたよ。私ね、私の、勝手な考えなんだけどね、杏花は、自分を変えたほうがいいじゃないかな、って。今度、髪を染めてみてもいいんじゃないかなぁって、思ってるんだけど。一緒に行こうか?

〈きょうか〉ありがとう。そう言われて、ちょっと元気出たかも。髪、、染めてみようかな?

ーーーーーーー

文字を入力して送信。

髪を染める、かぁ。

ぜんぜん想像してなかったな。

やりたいと思っていたけど、きっとやらないだろうと思っていた髪を。

思い切って染めてみてもいいかもしれない。

そうしたら、どんな色にしようかは決めている。

ミルクベージュ。

明るくて、ゆるくて、可愛い、憧れの色。


ーーーーー

〈Aika〉染めちゃお!!いいじゃん。今週の週末はどう!?

〈きょうか〉え、今週の週末??気が早くない?

〈Aika〉そんなことないよ!思いついたら即行動。しかも、それで少しでも杏花が元気になれるなら早くやるしかないでしょ!

〈きょうか〉そう、だね。ごめん、ありがとう。今週の週末は空いてるよ。

〈Aika〉じゃあ、駅前集合で!

〈きょうか〉りょーかいっ!(うさぎのスタンプ)

ーーーーー


こういう、愛花の存在には感謝してるんだ。

私が拒むと前に連れてってくれる。

だから、少しずつ、愛花と一緒に進めてるんだ。



時は進んで週末、駅前。

私は今15分遅刻してきた愛花に怒っているところ。

「もう、なんで遅刻するかな、、、」

「あ、えへへ、、。ちょっと、寝坊?みたいな」

 そう言って笑う愛花の髪はストレートなポニーテール。少し青色の混じった愛花の髪は自由自在にアレンジ可能。ツインテールもお団子も、ぜーんぶ似合っちゃうのが愛花。

それと比べて、私の髪はくしでとかしただけ。

こう言うのが、雲泥の差っていうのかな、、、。

「じゃあ、いこっか!」

 そういった愛花の明るい声で暗くなった気持ちが飛んでいく。


ちょっと歩いて、ついたのはオシャレな美容院。

「ここ、私のいとこのお店なんだ。ちょっと割引してもらえるかも!」

 と元気に入っていく愛花。

私も一歩お店に踏み込む。

「いらっしゃいませー。」

 柔らかな店員さんの声と共に、心地よい音楽が耳に入ってくる。ふわっと歩くたびに漂うのはシャンプーの甘い香り。

「あ、愛花!その子、お友達の杏花ちゃん?」

「うん。髪を染めるのをお願いしたいんだ。」

「オッケー!じゃあ、よろしくね、杏花ちゃん。私は今日、杏花ちゃんを担当します、栞里しおりです。」

 栞里さんは優しい雰囲気をまとって私を案内してくれた。

「んー、今日は何色に染めるのかな?」

 テキパキと準備を進めながらそう聞いてくる。

「えぇと、ミルクベージュがいいです。」

「ふんふん、なるほどねー。じゃあ、こんな感じの色はどうかな?」

 そう言って見せられた色一覧表にあったミルクベージュカラー。思ってたのより少し濃かったけれど、それはそれで可愛い。

「これでお願いします。」

「オッケー。これはあんまり色を落とさないから痛みにくいかも。そしたらね、本でも読んでてくれたらぱぱっとやっちゃうから!」

 そう言われて、私は思わずバレンタイン特集の雑誌を手に取った。

もうすぐバレンタインか。

告白、してみようかな。

椿くんに想いを伝えてみてもいいかもしれない。

でも、振られちゃったら?

そうしたら、愛花に慰めて貰えばいい。

挑戦してみなきゃ、わかんないんだから。

そんなことを考えながらバレンタイン特集の雑誌を読んでいるうちに、テキパキとした栞里さんの素早い作業のおかげで私の髪はあっという間に染まった。

そして、見違えるほど可愛くなっていた。

「うわ、杏花似合う!めっちゃ可愛いじゃん!さすがしおりんだね。」

「でしょ。、、、ところで、バレンタインの雑誌に夢中だったけど、好きな人でもいるの?」

 あ、どうしよう。

そう思った時だった。

「しおりん、そこは触れちゃだめだよ〜。」

 と、愛花が軽く交わす。

「そっか〜、そうだよね、ごめんね!」

「あ、いえ、、。」

「またきてね。」

 会話をしながら会計を済ましていく。お金はお母さんにもらったものだ。

「ありがとうございました。」

 ぺこりとお辞儀をして、愛花と一緒に店をでた。


「カフェ寄って帰ろ〜」

 という愛花の提案に私は笑顔で頷いて、私たちはカフェに行くことになった。

「ねね、椿くんにバレンタイン、贈るの?」

「え、まぁ、うん。送ろうかな、って。」

 お互いに、ミルクティーとメロンソーダを飲みつつ談笑する。

「いーじゃん。協力するからね!」

「ありがとう。」

 本当に、いい友達を持ったな、と思う。愛花は優しくて、勇気と元気を与えてくれる。今となってはなくてはならない存在だと思う。

「いっそさ、告白してみたら?」

「へ、、、?」

 突然言葉に困惑する。

告白、、?

「あ、、ほらさ、ひめ華さんに対する嫉妬とか、不安とか、そういうの、なくなっちゃったほうがいいんじゃないかなって。椿くんといい感じだと思うしさ、流れで告白してみればいいんじゃない?」

 そう、かもしれないけれど。そんな勇気、ない。

椿くんのことは好きなんだと思うけど、告白って、その先がうまく想像できない。

「、、急に、無理言ってごめん。もし、その気になったなら言ってね。告白ってすごい勇気いることだと思うし、今決められることじゃないと思うし、、!」

「うん、、、!」

 とりあえずバレンタインのことだけ考えよう。

「ところでさ、どんなチョコ作るの?」

「んー。どうしようかなぁ。手作り?市販?どっちの方がいいんだろ、、?」

「手作りのほうがいいんじゃない?気持ち伝わると思うし!」

 手作りかぁ。自分で作るって大変そうだけど、、頑張ってみよう、かな、?

「できるよ!頑張って!」



と、いうわけで、作るとは決めたものの、チョコって何を作ればいいのかわからない。

涼しい風を浴びながらスマホを見て登校する。

昨日愛花と話したことが頭から離れないで調べてないと落ち着かない。

「おーいっ!おはよう、杏花っ!」

 トンっと肩を叩かれる。

声でわかる。椿くんだ。

「おはよう、椿くん。」

 平然とした態度を装うけど、内心バックバクだ。

「髪染めたの?可愛い、ね。」

 ちょっと照れたようにいう椿くんに心臓のドキドキが止まらない。

「ありがと、。」

 小さな声で、つぶやく。

聞こえた、かな。

椿くんの前だとドキドキして、緊張して。

こんな状況で好き、なんて、伝えられるわけない気がした。

「チョコレート、作るの?」

 不意に椿くんに聞かれる。

「え?」

「あ、いや、スマホの画面見えちゃって、、。好きな人とかに渡すの?バレンタイン?」

「、、あ、そ、そうなんだ。ち、、、ちなみになんだけどっ、、椿くん、好きなチョコとかあったり、する?」

 カタコトで、聞き取れないような声。

「えー俺〜?俺は〜、ガトーショコラ??とかかな」

 ふふっと微笑む椿くんが可愛い。

ガトーショコラ、か。

よし、作ってみよう。



前日の夜。

たくさん調べたガトーショコラを丁寧に作っていく。

甘いチョコレートの香りが部屋に広がってく。

チョコをまぜて、溶かして、型に入れて、冷やして。

、、、

「あれっ?杏花、ここで寝てたの?」

 そう言ったお母さんの声で私は目覚めた。

時計を見れば午前2時。

「あ、れ、?」

 どうやら、ガトーショコラを冷やして、安心してソファで寝てしまったようだ。

「も〜、ちゃんと部屋で寝なさいよ〜」

 そう言ってお母さんが部屋に帰っていく。

「ラッピング、、。」

 もぞもぞと動き出して、机の上に用意していたラッピングセットに目を向ける。

ガトーショコラを切って、袋に入れる。小さなメモ帳をちぎって、椿くんへ、とかく。

スムーズに終えたラッピング。気づけば朝焼けが綺麗に見える。

ヴーヴー

スマホの着信音が鳴る。

開いてみればAikaと書いてあった。

「もしもし。」

『あ、杏花、起きてた?チョコ作れたかなーって思って。」

「バッチリ!でも、、渡せるかなぁ、、。」

『大丈夫だよぉ〜。自信持って!』

「うん、、ここまでやったもんね。頑張る、、!」

『うん!じゃあ、また学校でね〜』

「はぁい。」

 ツーツー

電話が切れる。

愛花の声が聞けて良かった。

告白、するんだよね。

うん、頑張ろう。


朝、早く登校すると、椿くんはすでに学校にいた。

「杏花おはよう〜」

「椿くん、おはよ、、ぅ。あのね。今日、昼休みに、、、」


「お待たせっ。で、用事ってなぁに?」

 椿くんが中庭のベンチの方、つまり、私の方に向かってくる。

すぅっと息を吸う。

「あの、、、好きですっ。付き合ってくださいっ。」

 私がチョコを渡しながらそういうと椿くんはきょとんとする。

「あっ、、きゅ、急にごめんっ!迷惑だよね。わかってるから、、、」

 そこまで早口で言った時、椿くんが私の言葉を遮った。

「俺も、、俺も、杏花のこと好き。なんだ、良かった。俺で、、。」

 それを聞いて、心臓が止まるほど驚く。

「バレンタイン、俺じゃなくて他の人に渡すんだと思って、すげー落ちこんでっ、、。」

「え、そ、そうだったの、、?う、うれしいっ。てことは、付き合ってくれる?」

「もちろんだよ。」

 椿くんがふわりと笑いながらいう。

いつも、私に向くはずのない、向日葵みたいな笑顔。

「ゆ、夢じゃないよね?」

「つまんでみる?」

 椿くんがいたずらっぽく笑う。

「うにゅ。うぁ、いたい、」

「かわ、いい。」

 椿くんにほっぺを摘まれて、頬をさすっていると、椿くんが照れながらそういった。

「よろしくねっ。」


冬が明ける。

私たちの恋の蕾が開いた。

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