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2話

「ん……」


 誕生日パーティー翌日、わたしはいつもより遅く起きた。夜の寒さが嘘みたいに、部屋に差し込む朝日はあたたかく、眩しい。わたしは寝ぼけ眼をこすり、ぐっと腕を伸ばす。


「アリシア様、お目覚めですか。昨日は疲れたでしょうから、もう少し休んでも良いのですよ」


 どうやらいつもどおりの時間に来ていたらしい侍女は、わたしが起きたことに気づくと、顔を洗うための水を持ってベッドまで駆け寄った。


「いえ……大丈――!?」


 大丈夫、と言おうとしたところで、わたしは目を見開いた。おかしい。普通ならば目に見えない、不思議なものがそこにはあった。

 まだ、寝ぼけているのだろうか。そう思って目を擦るが、何も変わりはなかった。


「?あの、アリシア様?」

「っ!あ、いえ、何でもないわ」


 わたしはそっと視線をそらす。見間違えだと思いたい。だって、そんなことがあるはずないもの。人の頭上に()()()()()()()()()()――。


「アリシア様?やっぱりまだお休みになっていたほうが良いのではないでしょうか」

「……そ、そうね。そうするわ」


 侍女が部屋から出ていったのを見て、ぼすんとベッドに力なく沈み込む。


 2度見てみても、やはり侍女の頭上には数字が浮かんだままだった。その数は、-518。

 数字、と聞いて思い当たるのは、先日読んだ物語にて出てきた、〝好感度〟の数値だ。その物語では、婚約者から嫌われていると思っていた主人公の少女が、好感度を見えるようになり、愛されていたことを知る、といったような内容だった。


「マイナスってことは、嫌われているってこと……?でも、そんなことはないはず……ずっと一緒にいたんだもの」


 というか、そもそも数字が見えることが不可解でしかない。昨日と何も変わっていない。強いて言うなら18歳になったくらいなはずだが……


「あっ、そうだわ……!」


 昨夜の出来事を思い出し、指を目の前にかざした。昨夜の記憶が夢ではないとでも言うかのように、左手の人差し指には、昨日の指輪が嵌まったままだった。


 何かしらの関係がある気がする。きっと、この指輪が、数字が見えるようになったことに関係しているのだろうが……


「人の頭の上に数字が見えるだなんて、物語でしか聞いたことがないわ」


 物語は好きでも、そういった噂や伝説を気にする質ではないのだけれど。


「悪いものじゃなければいいのだけど……」


 〝マイナス〟が脳裏に焼き付き、目を閉じても浮かんでくるようだ。どうしても嫌な予感が拭えない。


「……少しくらい、休んでもいいわよね……」


 わたしは、疲れていたのかすぐに深い眠りについた。



「少し寝すぎてしまったわ……」


 あくびを噛み殺しながら、わたしは一人呟く。

 先程目覚めたばかりのわたしは、数字が見えたことも、指輪のことも全て〝夢〟にしてしまいたかったが、現実はそう優しくなく、何もかもそのままであった。


「それにしても、暇だわ」


 パーティーの翌日ということで今日一日自由をもらえたわけだが、やるべきことがなさ過ぎる。趣味の読書でも、と思ったが、生憎小説は全て読み終えてしまっていた。


「本を買いに行く気分でもないし……」


 そう、一人でやることを悩んでいたその時。


「――アリシア様!大変です」


 興奮した様子の侍女が、勢いよく部屋の扉を開け放った。


「あら、どうしたの?」


 急いでここまで来たのか、息を弾ませている侍女に、心配になりながら、尋ねる。


「実はっ、3日後っルイス様が来られるそうです!」


 侍女は、満面の笑みで楽しげに告げた。 


「えっ!?ル、ルイス様がうちに来られるの?」


 驚きのあまり、声が裏返ってしまった。でも、それくらいルイス様と会うこと、それも互いの家で会うことなど滅多にないことなのだ。


「はいっ、そうでございます!それを、お嬢様にお伝えしたくて」


 少し話しているうちに落ち着いてきたのか、普段と同じ、丁寧な口調に戻っていった。


「まあ、ありがとう。でも、どうして急に」

「それは、先日のパーティーに出席できなかったお詫び、と聞きました」

「そんな……わざわざ来られなくても良いのに」


 申し訳ない気持ちになっていると、


「あら、そんなこと言ってよろしいのですか?」


 わたしの胸中の想いを見透かしたように侍女がニヤニヤと笑みを浮かべる。わたしは、申し訳無さで誤魔化した喜びを見透かされ、恥ずかしさから頬が火照った。


「べ、別にいいじゃない」

「そうですね。ですが、アリシア様が嬉しそうで良かったです!」


 自分が幸せであるかのように微笑む彼女に、わたしも釣られて笑った。

 そして、何気なく彼女の笑みを見つめていると、


「あっ……!」

「アリシア様?」


 小さく声を上げたわたしに、侍女は不思議そうな表情で首を傾げている。

 

「いえ、何でもないわ。報告ありがとう」

「?お気になさらずに。アリシア様を幸せにすることが私の仕事ですから」

「……そう。ありがとう」


 返事をしながらも、わたしはそれどころではなかった。侍女の頭の上に浮かぶ数字の値が、変化していたからだ。今朝、最初に見たときには-518だった数字が、今は-523になっている。


 どういうことなの……?


 わたしは笑みを浮かべながら、わけのわからない事態にただただ混乱していた。


 だが、わたしを誰よりも愛してくれているお母様やお父様の数字もマイナスだったので、きっと好感度ではないのだろうと、わたしは思いはじめていた。

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