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風来、女ひとり  作者: 頭いたお
一。
9/24

9.塩

「ここが一番の安宿だ。金は有るか?」


「ない」


「困ったな」


「ああ、困った」



 困ったと言うは、宿に泊まれんからではない。

 塩が買えんからだ。

 角や鱗を売れば、買えるやもしれん。

 その旨を伝える。



「塩? いくらでも分けてやる。泊まらせてやるから、家に来い」



 有り難い。

 この大男との縁は、きっと善きものだ。

 必ず報いねばなるまい、まずは名を聞かねばなるまい。



「有難う。名を教えてくれ」


「イワンだ。お前は?」


「ツバクラという」


「妙な名前だな」


「そうだろうか」


「随分小さいが、子供じゃなかろうな」


「ここの人間がでかすぎるのだ」


「そうだろうか」



 大なる背丈なイワンの家に行く。

 奥方がいた。大きい。丁重に挨拶をする。

 童もいる。こいつは小さい。丁重に挨拶をする。



「塩? これぐらいでいいかしら」


「有難う、有難う。名は?」


「マラーニャよ」


「せむぉおおりゅ」



 塩をいただく。

 舐める。舌が驚いている。

 良いものだ。塩とは良いものだ。本当に。



「倭人のお客様なんて珍しいわ。わかっていれば、もてなせたのだけれど」


「構わん。それより、なにか報いたいのだが」


「なんなら子の相手でもしてくれ」


「心得た」



 童は苦手だが、致し方なし。せむぉおおりゅと遊ぶ。

 自慢の総髪を存分に引っ張られる。痛い、困る。

 バシバシ叩かれる。これも痛くって困る。やはり苦手だ。



「そうだ。この肉を使ってくれ」


「まあ。上等なお肉ね」


「ほう。狩ったのか」


「蜥蜴の肉だ。それも大蜥蜴だ」


「大蜥蜴?」



 大蜥蜴なぞ、この地には居らんという。

 奇怪なことだ。化かされたか。

 が、肉は確かにここに在る。



「食べたことがないな、こんな肉」


「食べたことがないわ、こんな肉」


「奇怪だ」



 狩人も知らん肉。

 昨日食ったよりも、遥かに美味かった。

 マラーニャの焼き方がいいのだろう。柔らかさが段違いだ。

 あと塩味なのがいい。塩とは良いものだ。


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