3.蕨
「落ちた」
崖から落ちた。
夜に歩くはよくない、今後はやめる。
のそりと起きる。
起きた所で、夜に歩くはよくないと学んでいる。
やめて、またそのまま寝転ぶ。
天。星が綺麗だ。本当に綺麗だ。
気付くと、左大腿から出血している。
随分と血潮の勢い甚だしい。血溜まりも深くなっている。
仕方がないので足を縛る。目眩。茸よりは随分楽だ。
血を作るは容易だ。何か食えばいい、食えるものを探す。
「ふむ」
袋には干からびた蕨もどき、一束。
蕨に似ていたので採ったが、なんの山菜なんだか分からん。しなびて一層わからん。
からからの何かを、かじってみる。
草の味がする。
「うん、うん」
美味くはないが、良い苦味がある。猪頭と共に煮るべきであった。
何本か食った。血は造れた気がする。容易なものだ。
目眩もなくなった。傷も塞がった。
「星が、綺麗だ」
寝転び、不明な草をねぶりながら、星が美しいと嘆息する。
齢二十になってようやく、自然なる美しさが分かってきた。
齢三十にもなれば、泥濘の美しさとして悟れるかもしれない。
齢四十あたりには、浮世とて美しく思えてくるだろうか。
かくて五十に往生すれば、さぞや良き人生だろう。
年経る楽しみ胸に、まだ温かい血溜まりの中で寝た。
極楽、極楽。