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風来、女ひとり  作者: 頭いたお
二。
23/24

23.麺麭

 朝。パン屋へ入る。

 得も言われぬ香りがする。なんだか愉快だ。

 それにしても多種多様なものだ、こいつは悩む。

 全部食いたいがまずはひとつ。



「ええと、こいつをくれ。まるごとくれ」


「はい、どうぞ」



 四角な塊をひとつ買う。

 上部は山の形をしている。まだ温かい。

 本来は薄く切るんだろうが、構わん。かぶりついた。



「なんだこれは」



 なんだこれは。

 温かくて、ふわふわしている。中は真っ白だ。

 賊の根城で食ったのとは訳が違う。イワン宅で食ったのより柔らかい。

 出来立てだからなのか、腕がいいからなのか、分からん。



「美味い、美味いなあパン。すごくおいしい」



 ここの人間はこれを毎日食べているのか。

 だとしたら随分な幸福だ、羨ましい、いい国だ。

 しかし街ゆく人の顔を覗いても、然程幸せそうでもない。

 パンでも浮世の苦しみは消せぬと見える。



「そうだ、聞き込みでもするか」


 

 パンを食べつつ、鬼を見なかったか聞いてまわる。

 奴はとかく目立つ。角に赤肌にでかい声。金棒も担いでるはずだ。

 街に寄ろうものなら、必ず人目をひく。





「――いや、しらないな」




「――赤い肌? 変な人ねえ」




「――あはは。パンまるごと食べてるう。倭人かわいい、あはははは」





 収穫はなかった。

 パンも食い終わった。昼も過ぎてしまった。

 結構な人数に聞いて回ったが、誰も見ておらん。

 もしやここには来てないのだろうか。



「ううむ」



 海を渡った時点で聞き込みすべきだった。迂闊。

 なんとかなるだろうと思ったが、なんともならんもんだ。

 普通であれば、この街には来ていようものだが。


 待て、奴は普通ではないな。迂闊。

 カリガネが取りそうな行動を考えねばならん。

 まず大陸に着いたら、奴は……。



「……ん?」


 

 そういえば。

 私はこの地へ来た時、なんとなしに西を目指した。そして、この街に着いた。

 普通、迷った時は西だ。大抵はそうだ。倭人ならば、西へ行く。

 西。…………。




「しまったっ」



 そうだ、奴は鬼だ。じゃあ(うしとら)だ。

 あいつ、験を担いで北東へ向かったのではあるまいか。

 思えばいつもそうだった。道を選ぶ時、奴はいつも鬼門を目指した。

 すると真逆を探してしまったことになる。見つかるものとて見つからん。



「……。まあいい、気長に行こう」



 奴とは無二の友だ。縁も深い。

 ならばいずれは巡り会おう。縁とはそういうものだ。

 が、待たせ過ぎるも悪い。滞在も程々に、早めに出立しよう。



「そうだな。地図でも買ってみるか」



 見当はつけんといかん。地図を探しに、またよろず屋へ。

 その前に、またパンを買った。同じものを、食った。

 美味い、美味い。


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