22.角
よろず屋。
買取もしているらしい。
馬肉は馬肉に替わった。この角だけが頼りだ。
売れればいいんだが。
「売れるか、主人」
「…………」
主人は黙して語らん。
鬼馬の角を見て、触って、だんまりだ。
駄目な気がしてくる。
「……ははあ。どこで手に入れましたか、これは」
「森の中に、白馬がいた。角があった。そいつのものだ」
「……へえ」
「駄目か。駄目なら、まあいい」
「いや、買い取りましょう」
拾う神ありとはよく言ったものだ。
パンも買えそうだ。
「ま、決して珍しい物ではありませんが……この大きさは随分立派です。三十万、出しましょう」
たまげた。
三十万。
三十万?
「三十万だと。三十万? 本当に三十万か」
「……っ」
「そんなに貰っていいのか、本当にいいのか」
「……。ええ、もちろん。では、すぐに買い取らせていただきます、すぐに」
「ああ、頼む。いやしかし、そんなに高いのか、これは」
「……はい。まあ、防具の装飾等に使いましてな。人気なんです、これは」
「なるほど」
三十万。
三十万とは、三十万だ。
三十万があれば、三十万の物が買える。
パン以外にも、欲しいものが色々出てきた。
まず椀が欲しい。
鍋から直接食うも構わんが、取り分け出来んと面倒だ。ミミズは特にそうだった。
灰汁も簡単に掬えよう。素手は熱くって困る。
次に包丁。
脇差で切るはやはり良くない。あれは人を斬るものだ。
何より肉を上手に切らねばならん。肉屋を見返さねばならん。
そしてまな板。
やはり石の上では駄目だ、安定せん。
まな板がなければならん。まな板を買おう。肉屋を見返さねばならん。
このみっつ、是非買いたい。
三十万があれば十分買える。
三十万。
いや待て、まだ買える。三十万だ。
そうだ卸し金が欲しい。肉屋が持ってたんだからここでも手に入るだろう。
あと別な調味料も欲しい。香草の類が気になる。それと寝床も薄布ではいかん。厚いものがいい。
思い出した酒も常備したい。なれば酒を入れる容器が要る。もうひとつ瓢箪がほしい。あるだろうか。
あれもだ、マラーニャが使ってたあの平たい鍋。フライ鍋とかいうやつ、あいつも買ってみよう。
いや待て、これはいかん。落ち着こう。
「……とにかく有難う、助かった」
「いえいえ、こちらこそ」
俗な己が次々と顔を出してきた。
これでは駄目だ、本当に必要なものを買わねばならん。
くだらん欲は時間を置けば消える。まずは時間が必要だ。
とりあえず宿をとって休もう。身体を綺麗に洗って、そうして酒を飲もう。
ちょっといい奴を飲もう、またあの透明な火酒だ。あては魚がいい。
酒場で飲むのもいいだろう。いやまずは宿飯を楽しもう。ちゃんと夕食付きの所を選ばねばならん。
そして明日はパンだ。パンを朝に食べる。出来立てを食ってみたい。
酒場は明日の夜だ。異国料理をたくさん頼もう。いいぞ、いいぞ。
「いや落ち着け、落ち着こう。落ち着け」
明鏡止水、未だ遠く。




