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風来、女ひとり  作者: 頭いたお
二。
22/24

22.角

 よろず屋。

 買取もしているらしい。

 馬肉は馬肉に替わった。この角だけが頼りだ。

 売れればいいんだが。




「売れるか、主人」


「…………」



 主人は黙して語らん。

 鬼馬の角を見て、触って、だんまりだ。

 駄目な気がしてくる。



「……ははあ。どこで手に入れましたか、これは」


「森の中に、白馬がいた。角があった。そいつのものだ」


「……へえ」


「駄目か。駄目なら、まあいい」


「いや、買い取りましょう」



 拾う神ありとはよく言ったものだ。

 パンも買えそうだ。



「ま、決して珍しい物ではありませんが……この大きさは随分立派です。三十万、出しましょう」



 たまげた。

 三十万。

 三十万?



「三十万だと。三十万? 本当に三十万か」


「……っ」


「そんなに貰っていいのか、本当にいいのか」


「……。ええ、もちろん。では、すぐに買い取らせていただきます、すぐに」


「ああ、頼む。いやしかし、そんなに高いのか、これは」


「……はい。まあ、防具の装飾等に使いましてな。人気なんです、これは」


「なるほど」



 三十万。

 三十万とは、三十万だ。

 三十万があれば、三十万の物が買える。

 パン以外にも、欲しいものが色々出てきた。



 まず椀が欲しい。

 鍋から直接食うも構わんが、取り分け出来んと面倒だ。ミミズは特にそうだった。

 灰汁も簡単に掬えよう。素手は熱くって困る。


 次に包丁。

 脇差で切るはやはり良くない。あれは人を斬るものだ。

 何より肉を上手に切らねばならん。肉屋を見返さねばならん。


 そしてまな板。

 やはり石の上では駄目だ、安定せん。

 まな板がなければならん。まな板を買おう。肉屋を見返さねばならん。


 このみっつ、是非買いたい。

 三十万があれば十分買える。

 三十万。




 いや待て、まだ買える。三十万だ。

 そうだ卸し金が欲しい。肉屋が持ってたんだからここでも手に入るだろう。

 あと別な調味料も欲しい。香草の類が気になる。それと寝床も薄布ではいかん。厚いものがいい。

 思い出した酒も常備したい。なれば酒を入れる容器が要る。もうひとつ瓢箪がほしい。あるだろうか。

 あれもだ、マラーニャが使ってたあの平たい鍋。フライ鍋とかいうやつ、あいつも買ってみよう。

 いや待て、これはいかん。落ち着こう。




「……とにかく有難う、助かった」


「いえいえ、こちらこそ」




 俗な己が次々と顔を出してきた。

 これでは駄目だ、本当に必要なものを買わねばならん。

 くだらん欲は時間を置けば消える。まずは時間が必要だ。


 とりあえず宿をとって休もう。身体を綺麗に洗って、そうして酒を飲もう。

 ちょっといい奴を飲もう、またあの透明な火酒だ。あては魚がいい。

 酒場で飲むのもいいだろう。いやまずは宿飯を楽しもう。ちゃんと夕食付きの所を選ばねばならん。

 そして明日はパンだ。パンを朝に食べる。出来立てを食ってみたい。

 酒場は明日の夜だ。異国料理をたくさん頼もう。いいぞ、いいぞ。



「いや落ち着け、落ち着こう。落ち着け」




 明鏡止水、未だ遠く。

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