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風来、女ひとり  作者: 頭いたお
二。
21/24

21.肉

 街。

 なるほど賑わっている。

 一日二日ではとても回れんだろう。

 ひとまず腐る前に肉を売りたい。肉屋を探す。



 肉屋はすぐ見つかった。

 肉屋に肉を売るというのも変な話だが、主人に交渉してみる。



「すまん、馬肉を買ってくれないか。昨日、仕留めた」


「馬肉?」


「ああ。金が入用なんだ。なんとかならんか」


「……ふうん。この肉、あんたが捌いたのかい」


「ああ、そうだが」


「この下手糞め。切り方が滅茶苦茶だ。血抜きも十分じゃないぞこりゃ」



 それはそうだ。

 私は肉屋ではない。

 しかしなんだか恥ずかしい。



「駄目か」


「駄目だ。これじゃ客に売れん。肉が可哀想だ、馬鹿」



 そこまで言うか。

 だが何も言い返せん。

 諦めが肝心だ、帰る。



「邪魔したな」


「いや、待て。脚二本だな。待ってろ」


「む」



 脚肉二本。

 同じ量目の馬肉を持ってきた。



「金は出せんが、その肉は引き取って処分してやる。代わりにコイツを貰っていけ」



 話がおかしい。

 この肉は駄目だと言った。

 駄目なものを何故良いものと取り替える。



「人間、良い肉を知らんと駄目だ。つまりお前は駄目な奴だ。こいつをやるから後で食え。その駄肉とは別格だ」



 口は悪いが行動は逆だ。殊勝な奴。

 しかし大言壮語が過ぎる気もする。

 鬼馬とて美味かった。そこまで言われるも癪だ。



「よし、ならばここで比べてやる。待ってろ、切る」


「待て、ここで調理はやめろ。肉に匂いが移る」


「生だ、火は使わん。借りるぞ包丁」


「ふうん、すると馬刺しって奴か。そっちの方が味も分かるな」


「なんだ知ってるのか。ここらの者は食わんとばかり」


「口はいいから手を動かせ、早くしろ馬鹿」


「むう」


「……ええい下手糞め、やっぱり俺が切る。いいか、繊維をちゃんと見ろ。包丁の持ち方も違う、阿呆」


「ぬう」


「生で食うんだろ、そんなら舌触りを考えればこれぐらい薄くいくべきだ。あんたのは厚すぎだ、間抜け」


「ぐう」


「薬味はなんだ、塩か。あと大蒜……おいなんて擦り方しやがる倭人、ふざけやがって。こりゃお前んとこの文化だろ馬鹿野郎。大蒜はこう擦るんだこの糞阿呆。なんで倭人の癖に卸し金も無えんだボケ間抜け。道具ぐらいきちんと買え馬鹿阿呆間抜け」


「ぐぬう」


「よし食ってみろ。こっちがお前の駄肉だ、こっちが俺の肉だ」


「んぬうう」



 瞭然。

 肉屋の方が断然に美味い。まるきり違う。

 鬼馬は血の味がするし、硬い。なんだこれは。



「くそ、負けた。美味すぎる」


「血はちゃんと抜け。切り方で食感は変わる。新鮮なのもいいが熟成も大事だ。覚えとけ倭人」


「次は必ず買い取らせてやる、覚えていろ肉屋」


「その肉食ってせいぜい精進するんだな、ははははは」


「ぐぬぬぬう」



 言い返せん、何も言い返せん。

 完敗だ。手も足も出んかった。悔しい、悔しい。

 この屈辱は忘れん。いずれ必ず雪辱を果たす。

 勝負はまだ終わっておらん。必ずや……。……。




 ……勝負?





「……いや、随分良い奴だったな」





 殺されかけた後なので身に染みる。

 縁あれば、次はしっかり準備をして挑もう。

 心に留めおいた。


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