21.肉
街。
なるほど賑わっている。
一日二日ではとても回れんだろう。
ひとまず腐る前に肉を売りたい。肉屋を探す。
肉屋はすぐ見つかった。
肉屋に肉を売るというのも変な話だが、主人に交渉してみる。
「すまん、馬肉を買ってくれないか。昨日、仕留めた」
「馬肉?」
「ああ。金が入用なんだ。なんとかならんか」
「……ふうん。この肉、あんたが捌いたのかい」
「ああ、そうだが」
「この下手糞め。切り方が滅茶苦茶だ。血抜きも十分じゃないぞこりゃ」
それはそうだ。
私は肉屋ではない。
しかしなんだか恥ずかしい。
「駄目か」
「駄目だ。これじゃ客に売れん。肉が可哀想だ、馬鹿」
そこまで言うか。
だが何も言い返せん。
諦めが肝心だ、帰る。
「邪魔したな」
「いや、待て。脚二本だな。待ってろ」
「む」
脚肉二本。
同じ量目の馬肉を持ってきた。
「金は出せんが、その肉は引き取って処分してやる。代わりにコイツを貰っていけ」
話がおかしい。
この肉は駄目だと言った。
駄目なものを何故良いものと取り替える。
「人間、良い肉を知らんと駄目だ。つまりお前は駄目な奴だ。こいつをやるから後で食え。その駄肉とは別格だ」
口は悪いが行動は逆だ。殊勝な奴。
しかし大言壮語が過ぎる気もする。
鬼馬とて美味かった。そこまで言われるも癪だ。
「よし、ならばここで比べてやる。待ってろ、切る」
「待て、ここで調理はやめろ。肉に匂いが移る」
「生だ、火は使わん。借りるぞ包丁」
「ふうん、すると馬刺しって奴か。そっちの方が味も分かるな」
「なんだ知ってるのか。ここらの者は食わんとばかり」
「口はいいから手を動かせ、早くしろ馬鹿」
「むう」
「……ええい下手糞め、やっぱり俺が切る。いいか、繊維をちゃんと見ろ。包丁の持ち方も違う、阿呆」
「ぬう」
「生で食うんだろ、そんなら舌触りを考えればこれぐらい薄くいくべきだ。あんたのは厚すぎだ、間抜け」
「ぐう」
「薬味はなんだ、塩か。あと大蒜……おいなんて擦り方しやがる倭人、ふざけやがって。こりゃお前んとこの文化だろ馬鹿野郎。大蒜はこう擦るんだこの糞阿呆。なんで倭人の癖に卸し金も無えんだボケ間抜け。道具ぐらいきちんと買え馬鹿阿呆間抜け」
「ぐぬう」
「よし食ってみろ。こっちがお前の駄肉だ、こっちが俺の肉だ」
「んぬうう」
瞭然。
肉屋の方が断然に美味い。まるきり違う。
鬼馬は血の味がするし、硬い。なんだこれは。
「くそ、負けた。美味すぎる」
「血はちゃんと抜け。切り方で食感は変わる。新鮮なのもいいが熟成も大事だ。覚えとけ倭人」
「次は必ず買い取らせてやる、覚えていろ肉屋」
「その肉食ってせいぜい精進するんだな、ははははは」
「ぐぬぬぬう」
言い返せん、何も言い返せん。
完敗だ。手も足も出んかった。悔しい、悔しい。
この屈辱は忘れん。いずれ必ず雪辱を果たす。
勝負はまだ終わっておらん。必ずや……。……。
……勝負?
「……いや、随分良い奴だったな」
殺されかけた後なので身に染みる。
縁あれば、次はしっかり準備をして挑もう。
心に留めおいた。




