2.猪
魔物を一匹、斬り殺す。
猪に似た顔をしていた。しかし人のごと立って歩いていた。
猪に似た人だったのかもしれない。なれば罪な事をした。手を合わせる。
「食えるだろうか」
躰ばかりを見るなら、人の形である。
面ばかり見るなら、獣の形である。
頭だけ食えばよかろうと思う。しかし食い方が分からん。
迷うが、腹は減っている。腹に従うが良し。
なんとか食うこととする。
「煮る」
煮た。
茸、みっつ。こいつも煮る。
先のは赤かった。今回は茶の色をしている。食えるだろう。
首を切る。血を抜く。鍋に入れる。
臭い。一度湯を捨て、また煮る。
幾分か良くなった。生姜も欲しかった。が、贅沢であろう。
味気ない猪頭に、齧り付く。
「うん、うん」
肉の味が、した。
やはり臭い。美味くはない。
目玉も食ってみる。これは案外美味い。
中心には芯がある、硬くて食えん。無理矢理に食った。
茸も食ってみる。大丈夫、大丈夫。
「うん、うん」
みっつの茸。
対して己が目玉ふたつに、猪頭の目玉がふたつ。あわせてよっつ。
目眩は起こるまい。案の定起こらない
茸は目玉と一緒に食うが良い。
頭蓋の中身も食ってみる。鱈の白子のような見た目だ。
味まで白子に似ていた。これは美味い。しかし少し煮すぎた。
醤油が欲しくなるが、これも贅沢だろう。
「さて」
人の形なる骸を埋めて、弔う。
少し食ってみようかと思ったが、やめた。
当分は、人の世で生きてみようと思っている。
なれば当分、人食いにはなれん。
「西に行ってみよう」
夜。西がわからん。
星を見る。綺麗だ。やはり西がわからん。
西っぽい方向へ歩く。
皆目、わからん。