19.刀
腹を刺された。
包丁のようだ。深々と刺さっている。
腑まで達しているかもしれん、血が止まらん。
腹から抜くと、随分と勢いよく血が吹き出した。
賊でも入ってきたか、斬る。
そう思ったが、刀が見当たらん。
ならば首を折ろうと、相手に近づく。
暗きを凝らして見ると、家の主人であった。驚いた顔をしている。
「まだ死なないのか、こいつ!」
私は何か粗相をしただろうか。
考えても分からん、何故殺されねばならん。
なにか誤解があったのかもしれん。
「おい、何故殺そうとする。言え」
主人は喋らず、首を絞めてきた。
頭をひっぱたいてやったら、目を回して倒れた。
まずは理由を知りたい。事を決めるはそれからだ。
腹にさらしをきつく巻く。血が染み出してくる。
調子もおかしい。やはり腑が傷ついている。
血も随分失っている。何か食わんといけん。
理由を知る、刀を取り戻す、血を造る。やることが多い。
「おい、何故殺そうとした。刀はどこへやった。何か食うものはないか。言え」
主人はやはり喋らない。
みっつ一遍に喋ったのは良くなかった。
もう一度頭をひっぱたいてみる。やはり喋らぬ。
腕でも折ろうかと思ったが、痛めつけるは性に合わんのでやめる。
一旦落ち着き、優先すべき順を考える。
理由は、後から聞けよう。聞けんなら聞けんでも、まあ構わん。あとで考える。
血も、まだ保つ。数刻は死なんはずだ。戦うにも問題ない。いくらでも素手で殺せる。
ならば、刀だ。あれを盗られるはまずい。何をしでかすか分からん。
私でなければ言う事を聞かん奴だ。きっと人を斬るに違いない。
思っている矢先、居間から悲鳴が聞こえた。
「ああああああああ!」
息子が、奥方を斬っていた。
刀身が、緋色に光っている。
既に魅入られている。話も通じんだろう。
取り返さんと一歩踏み出すも、腹の痛みで少しとどまってしまった。
その間、血相を変えた主人が飛び出した。止めるまもなく、息子へ駆け寄った。
そしてそのまま、斬られてしまった。
息子は、襲いかからんと近づいてくる。
が、私を認めると足を止めた。
ぶるぶる震えたかと思うと、突如己が首に、刃を突き刺した。
血飛沫をあげ、そのまま果てた。
皆、死んでしまった。
落ちた刀を拾い、叱り飛ばす。
「なんてことをするんだ。また肥に突っ込まれたいか」
脅すも、刀身はいまだ緋な光を帯びている。
消沈するかと思いきや、様子が違う。
「……なんだ、護ったとでも言いたげだな」
一層、強い妖光を発した。
護ったつもりらしい。ならば護られたのだろう。
峰を優しく撫でてやって、静かに鞘に納めた。
「むう」
それにしても、随分な事になった。
腹の血は、未だ止まらん。




