18.血
随分酔った。
呂律は回る。しかし目も廻る。
この目眩は嫌いじゃないが、これ以上はいかん。
「ああ、すまん限界だ。もう、寝る」
「ええ。今寝床をご用意します、少々お待ちください」
「ああ、有難う、有難う」
「どうだい、最後にもう一杯」
「ああ、もらおう、うん」
最後の一杯を傾ける。
不意に息子が聞いてくる。
「なぁなぁ倭人さん。その刀は値打ち物なのかい? ここらじゃ珍しいや」
「ああ、これは妖刀だ。危ないぞ」
「洋刀? 倭刀だろう、知っているよ」
「だから妖刀だ」
「いや、洋刀は両刃だろ。そりゃ倭刀だって」
この息子とは話しが噛み合わん。
こちらが酔っているせいかもしれん。
もう判然とせん。会話を打ち切る。
「寝床のご用意ができました。ゆっくりおやすみください」
部屋に通され、衣服も脱がずに寝台に倒れた。
ああ、いい気持ちだ。たらふく飲んだ。
「ああ、そうだ」
大小差したまま寝るはよくない。外す。
そういえば息子が興味を持っていた。
なんの気なしに、抜いてみた。
刀身が薄っすら、緋く光った。
綺麗な光だ。
この刀は、血を吸う。
吸うと、毀れた刃が直る。
手入れがいらん。何人も斬れる。とかく便利だ。
持ったばかりの頃は、随分悪さをしようとした。
意思に反して、人を斬ろうとするのだ。
手が勝手に動くは全く参った。無辜な人を殺すところであった。
あんまり悪さをするので、一度肥溜めに突っ込んでやった。
刀は暴れた。暴れる刀を初めて見た。そのまま三日暴れるに任せた。
四日後、ようやく静かになった。それからは従順になった。
「たまには飲ませるか」
悪い刀だが、礼はせねばならん。
己の血を、少し吸わせてやる。酒の味がするやもしれん。
緋の妖光を灯らせ、美味そうに吸った。こいつも酔うんだろうか。
自分でも舐めてみる。鉄の味だ。酒の味はせん。
「悪さをしたら、また突っ込むからな」
余程嫌だったのだろう。
反省するように、妖光は消えていった。
峰を撫でたら、嬉しそうにまた光った。
鞘に収めて、そのまま寝た。




