1.鮎
鮎が三尾。
どうにも分からぬ赤い茸、ふたつ。
焚き火。
煤けた網に、不明なる茸を乗せる。
腹わたごと、鮎を焼く。
「……うん?」
茸は妙な味がする。
しかし旨味がある、大丈夫だろう。
鮎を頭から齧る。存分に美味い。
塩も欲しかった。が、贅沢であろう。
改めて眺めると、どうも鮎ではない。不明なる魚が、三尾。
分からぬ川魚だが、鮎とする。
「うん、うん」
わたの苦味で、身を食べる。
酒も欲しくなった。が、贅沢であろう。
鮎もどきを食べ終え、また歩きだす。
「うん?」
目眩。
茸ふたつが、悪さをした。
ふたつの目に対し、茸ふたつ。目眩も起ころうものだ。
腹の痛みはない。吐き気もない。大丈夫だろう。
「大丈夫、大丈夫」
歩いて小一時間。吐き気を催す。
口から出すなど勿体ない。我慢する。
大丈夫と言い聞かせ、横になる。大丈夫、大丈夫。
天を仰ぐ。木々の緑が綺麗だ。心にも余裕がある、問題なかろう。
そのまま寝た。眠れる場合は寝るに限る。
本当はしばらく、唸っていた。私は正直者である。
起きれば朝。
目がふたつ、眩みはない。
大丈夫であった。
「危うかった、今回は」
正直な気持ちを吐く。
私は正直者である。茸は手強かった。
今度は煮てみよう。魚と一緒に。
「どこへ行こうか」
風来、女ひとり。
どこへ行けばいいんだか、皆目わからん。