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エッセイアラカルト

夏の終わりのサイクリングに、ひっつき虫はつきもの

作者: 降井田むさし

 自分のスニーカーが、勝手にカスタマイズされていたら、どうだろう。

「勝手には、ちょっと」

「気に入るものになっていれば、いいけど」

「許可を、得ないのはなぁ」

 そんな声が、あるだろう。


 僕は、あまりいい気分にはならない。自分のテリトリーに、入ってほしくないから。

 他の人のカラーが、僕の中に加わるのが、苦手だから。

 だから、普通なら嫌だ。あくまでも、普通ならの話だ。


 ただ、例外もある。勝手にカスタマイズされて、いい気分になったことがある。

 人の手によってではない。人が全く関係ない。そんな、カスタマイズ。

 そう。ネイチャーカスタマイズだ。そう。自然による、自然な装飾だ。


 ひっつき虫スニーカー。そう聞いて、オシャレだと思うだろうか。

「えっ、あのダーツみたいな黒いやつでしょ。オシャレではないかな」

「黄緑のラグビーボールウニ、みたいなやつもいるよね。あれが付いているスニーカーを、オシャレだとは思いませんよ」

「ひっつき虫が、スニーカーにひっついているな。そう思われるだけで、終了でしょ」

 そんな意見が、大半だろう。


 でも、この世のなかには、知らないことがたくさんある。知らないってだけで、想像を狭めてはならない。

 白だって、100種類以上あるのだから。どんな物においても、ほんの一部しか知らないのだ。




 三角っぽいひっつき虫。そんなのもいる。丸みを帯びた、ひし形にも近いひっつき虫。そんなのがいる。

 知らなかった。全く知らなかった。こんなに生きてきたのに、最近初めてひっつかれた。


 オリンピックを、8回以上も通ってきているのにだ。冬季も含めると、15回以上もオリンピックを通ったのにだ。

 ひっつかれているのか。今までに、ひっつかれたことあるのか。いやない。


 あんなにインパクトがあるひっつき虫、忘れるわけがない。あんなひっつき虫なら今頃、脳にもひっつき虫の如く、ひっついているだろうから。

 だから、はじめましてだろう。はじめまして。


 まあとにかく、三角のひっつき虫がいる。平面おにぎりみたいな、丸みをおびた三角だ。やさしい、黄緑色だ。


 連なっている。3つとか。4つとか。5つとか。枝豆に似ているような。そんな気がする。

 口から万国旗を出す。そんなマジックがある。その万国旗みたいに、連なっている。


「そんな、ひっつき虫がいるんだ」

「それなら、オシャレに見えそうだね」

「立体的なやつを、思い浮かべていたからさ」

「確かに、可愛くデコってくれそうだね」

 そんな意見に、変わってくれたら嬉しい。


 みんなは、知っていただろうか。散歩をしていても、遭遇しなかった。車中心の生活のときも、無縁だった。

 なのに、チャリと共に歩んでから。急に現れた。チャリが運んできてくれた奇跡。そう言ってもいいだろう。


「おいおい、ややこしくないかい?」

「チャリは、自転車のことだよね」

「チャリと共に歩むとか。徒歩とチャリが、ごっちゃになるわ。ごっちゃになるわ!」

「チャリと共に進む、が良かったのでは?」

 そう思われた方が、いたかもしれない。それは謝る。申し訳なかった。




 話は戻る。いくつもの偶然が、重なった。そんな、おしゃれスニーカーだったこと。それを、話したいと思う。

 普段は、スカイブルーのスニーカーとか。淡いピンクのスニーカーとか。ワンポイントレッドのスニーカーを履きがちだった。


 でもその日は、黒のスニーカーを履いていた。おろしたてのスニーカーだった。ところどころ、白も混じっているやつ。

 靴底が白くて、外周的に白い線が、いくつかある。だから、映えたんだ。黒いスニーカーに、鮮やかなひっつき虫の黄緑が映えた。


「オシャレなスニーカーだね」

「そういうスニーカー見たことなかったから。新商品かと思った」

「カッコよすぎるでしょ」

「あったら、買いたいくらいのレベルだよ」

 そんな感じのことを、言われたとか。言われなかったとか。


 ひっつき方も、良かったのかもしれない。少なくなかった。多すぎることもなかった。

 偏って、つくことがなかった。均等ってこともなかった。

 とにかく、ほどよくランダムに付いていた。芸術的なほどに。


 生け花に、似ているかもしれない。空間や見せ方が、そうかもしれない。

 自然生け花。そう言ったら、生け花の世界の人に、怒られるかもしれない。でも、そんな芸術性を、ひっつき虫スニーカーに見た。


 スニーカーデコり職人。そんな肩書きが、ピッタリだと思う。本当に、職人技だったから。

 スニーカーデコり職人。それが、自転車道路にいたわけだ。自然界にも、スペシャリストはいるんだ。

 あの配置は、天才と言う他ない。写真を撮ってなかったのが、惜しいくらいだ。




 三角ひっつき虫。ひし形に近い三角ひっつき虫。その名は、アレチヌスビトハギだ。

 スマホのカメラで、調べるヤツ。それをやった。スマホで撮れば、その被写体の情報を、検索してくれるやつだ。


 取って地面に落としていた、ひっつき虫。それに、スマホのレンズを向けてみた。

 そしたら、出てきた。名前が出てきた。アレチヌスビトハギという名前だ。あまり、いい名前ではない。荒れ地と盗人だ。見た目と、ギャップがありすぎる。


 細田さんが、やや太めのぽっちゃりさんだったり。シロサイが黒っぽかったり。それと一緒だ。

 ちなみに、シロサイはこうだ。ワイドサイを、ホワイトサイと聞き間違えたことから、名付けられた。みたいだ。


 ひっつき虫は、40種類くらいいるらしい。情報元は、検索してたどり着いたサイト。だから、100パーセントではない。

 でも、そんな感じだ。40種類いても、おかしくない。ヒッチハイクで、目的地に行く人間が、少なからずいるのだから。植物界にも、たくさんいていい。




 その日は、ランチをした。うどん屋で、うどんを食べた後だった。そのうどん屋から、ショッピングモールみたいなところまで、自転車を漕いだだけ。

 ランチしたうどん屋から、100メートルほど漕いだだけだ。そこに、アレチヌスビトハギがいた、ということだ。


「本当に、そんな短い距離でひっついたの?」

「うどんのことで頭がいっぱいで、気付かなかっただけで。家からうどん屋の道で、ひっついていたでしょ」

「100メートルなんて、陸上選手なら10秒掛からないよ。そこでひっついた確率は、低いでしょ」

 そんな意見も、あるだろう。


 でも、初めての道だった。初めてのうどん屋で、少し裏道って感じだった。だから、あり得る。

 自転車や歩行者と、すれ違わなくてはならない。そのときに、必要以上に端に寄ってしまう。そこで、ひっついてしまっているのかもしれない。


 暖簾[のれん]感覚で、ひっつき虫を足で擦ってしまっている。それだ。自転車で、無意識に『ファッサッ』としてしまっている。

 暖簾は、『ファッサッ』とすることに、ほぼ抵抗ない人が多い。ファッサッするものとして、考えているから。

 僕は、ひっつき虫ファッサッに慣れた。慣れてしまったから、ひっつきまくっているのか。




 今は、自転車中心の生活。でもこれまで10年以上、車移動で生きてきた。だから、遠くに行きたい気持ちは、残っている。

 自転車で、2時間かけてショッピングモールに行ったりしてる。1時間くらい離れたところに、ほぼ毎週末、自転車で出掛けている。


 ひっつき虫みたいに、なりたい。そう、思ってしまった。誰かに、ひっついていければ、楽だから。アレチヌスビトハギに、なりたいかもしれない。


 後悔がある。今回の出来事で、後悔がひとつある。それは、[とらずにとってしまった]こと。

 ごめんなさい。分かりにくかったと思う。このままでは、クレームが絶えなくなる。


「何を言っているのですか?」

「あなただけ分かればいい、そんなことはないんですよ」

「漢字を使ってくれよ」

「日本語は、同音異義語の泉なのですよ。詳しくお願いしますよ」

 そう言われると思うので、分かりやすく説明する。


 撮らずに取ってしまった。つまり、写真で証拠を残さず、ひっつきをスニーカーから、すぐに取ってしまったということだ。

 もう一度、書く。写真を撮らずに、ひっつき虫をすぐに取ってしまったのだ。

 人生最大の過ちだ。あの美しさが、どこにも残っていない。あれは、再現しようとしても、できない配置。そして、量だ。


 異物付着が苦手なのが、すぐ取り除いた原因だ。腕時計が苦手。肩に、インコは乗せられない。鼻ピアスも、鼻ザリガニもできない。

 長袖も、捲ってしまう。ハイソックスは、ダメだった。サングラスも帽子も、長時間できなかった。


 小学校の頃、『バーカ』みたいな貼り紙を、背中に貼るイタズラが流行っていた。そのときも、すぐに気付き、すぐに取り除いた。

 サングラスは、耐えられて3分だった。サングラス分野での僕は、ウルトラマンだ。だから、ひっつき虫を、すぐ取り除いたのは仕方ない。




 ひっつき虫は、強力付着力だ。そして、どこでもひっつく。たぶん、吸引力最強の掃除機でも、吸いとれない。

 洗濯後の靴下に、いた。洗濯したのに、足首部分に2枚のひっつき虫がいた。すごい。遠心力に負けなかったのだから。


 その時、履いていたズボン。それにも、びっしりついた。アレチヌスビトハギが。

 ズボン、靴下、スニーカー。それらに、しっかりひっついた。もしもそれらが、つるつるだったら。変わっていただろう。

 ズボンは、つんつるてんだったけど、つるつるではなかった。


 猿も木から落ちるズボンやスニーカーなら。ひっつき虫取り除き作業数分を、時短できた。タイパ時代だから、そう思ったりした。


「でもさ、おしゃれスニーカーが生まれたんでしょ」

「偶然の産物じゃん。偶然の産物じゃん」

「私は、くっつくズボンやスニーカーを履いていて良かったなと、思いますけど」

「想い出は、プライスレスです」

 そう言ってくれる人も多いと思う。だから、くっつくズボンや靴で良かったと思う。


 カルビ専用ごはん的な、ひっつき虫専用ズボン。それを穿いていたから、今こうして書けてるわけだ。


 歩道や、自転車の通る道は、荒れている。草がのび放題だ。草たちに、ぶつからないと通れないほどだ。

 例えるなら、幼稚園や小学生の頃、よく通った手トンネルみたいな感じ。二人で手を合わせて、それを連ねさせて、トンネルを作るやつ。


 たまに、人ひとり分も通れないよな、というトンネルがあった。手を合わせている二人が、接近しすぎちゃってるやつ。

 それを、歩道のひっつき虫の伸びかたと、重ねてしまった。あんなんだったら、ひっつき虫不可避だ。


 ダーツ型ひっつき虫が、一番苦手かもしれない。黒い。丸みがない。可愛くない。

 『嘘ついたら針千本飲ます』そんな言葉がある。もちろん、針千本は飲みたくない。たぶん、死ぬから。脅迫罪だから。

 飲ませられるとなっても、飲みやすくは、してくれないと思うから。粉薬のオブラート的なものは、ないと思うから。嫌だ。


 『嘘ついたら針千本飲ます』はかなり嫌。でも、『嘘ついたら針千本付ける』も嫌。あの、ダーツ型のひっつき虫が、カラダに千本付けられる。地獄だ。

 あだ名が、針人間になってしまう。まんべんなく付けられる方が、嫌かもしれない。




 脱線が、かなりあったと思うが、締めたいと思う。

 この随筆のことを考えながら、チャリを漕いでいた。ひっつき虫が大量にひっついて、この随筆を書こうと思い付いた日。そんな日のことだ。


 くっつき虫かひっつき虫か。正式はどっちかと、いつも分からなくなる。いつも分からなくなる。正式はたぶん、ひっつき虫なのだか。

 そんなことを、自転車で走りながら考えていた。そしたら、またひっつき虫がひっついた。完全に油断した。


 油断した、と思った後、なぜか曲を口ずさんでいた。

 なんで、この曲を口ずさんでいるんだ。自分でも、分からなくなっていた。日本武道館の歌だ。

 よく考えたら、答えは出た。九段下だ。九段下駅は、日本武道館の最寄り駅で、その歌に出てくる。


 油断した⇒九段下⇒武道館の歌。そう言うわけだ。

 そんなことを考えて、自転車を漕いでいたら、またひっついた。ひっつき虫が。

 それを繰り返しながら、自転車を漕いでいる。そんな人生を送っている。


 サイクリングに、妄想想像はつきもの。

 そして、夏の終わりのサイクリングに、ひっつき虫はつきものだ。

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