第壱話 運命の出会い
初連載です!
気になる箇所があったら、どんな内容でもいいので教えてくださると助かります!
木々が生い茂る山の中で、黒い長髪をなびかせて駆ける姿を目撃した。身長はおよそ百六十センチ程度のようだが、白いワンピースをまとっているため幼さが垣間見える。
「とりあえず、話を聞かないと進まないよな……」
慣れない足つきで木々をかき分け少女に接近する。不審者だと思われないか心配になる気持ちを抑え、僕は少女に話しかけた。
「あのーすみません。ちょっと道を聞きたいんですけど」
少女はキョトンとした顔で僕をのぞき込んでくる。まるで未知の生物を見るかのような顔であった。
「お兄さん、誰? こんなところで何してるの?」
「道に迷っちゃってさ、食料も尽きたので少し分けてもらえると助かります……」
つい先日満を持して村を出たのにさっそくこれかぁと思いつつ、少女の反応を待つ。
「分かったよ、とりあえずついてきて」
そう言い放った少女は山を駆けだし、僕は彼女の背中を追いかけていった。
どれくらい歩いただろうか。道中では会話もなく、聞こえてくるのは鳥のさえずりと枝葉が 踏み折れる音だけだ。その静かな時間を壊したのは驚くことに少女のほうだった。
「そういえば、お兄さんの名前はなんていうの?」
確かに出会った時から自己紹介してなかったっけ? と思いつつ僕は口を開いた。
「僕の名前はレイだよ。レイ=リーデンス」
僕レイ=リーデンスは一か月前に村を出た新米の旅人だ。僕が生まれた村「ノルン」はツェッペリン帝国領土の南に位置し、今は首都「ガイア」を目指して旅をしている。帝国領土は広く、世界に存在する五大帝国の中でも一番の面積を誇る。そのため心配する親をどうにか説得し、ようやく旅に出ることができた。まあ、遭難したんですけど……
「君の名前は?」
「私? 私は皆からマリナって呼ばれてるよ」
僕は内心、華奢な体に優雅な黒のロングヘアーはマリナという名に似合うものだと感心する。名付け親はさぞ将来に期待していたのであろう。
「マリナか、可愛い名前だね」
「でしょ? 私も気に入ってるんだ」
僕の言葉に二ヒヒと笑うマリナ、その笑顔は年相応の少女のようであった。
***
それからほどなくして、マリナが徐々に歩みを緩めていった。それにつられて僕も速度を下げた次の瞬間。
――バッッ!
瞬間開ける視界、僕の目は順応できず目をすぼめる。おそらく山の開けた場所に出たのだろう、徐々に明るさになれていき、僕の視界は世界を捉える。そこに存在したのは静かに存在する一つの集落だった。住居の数は数えられる程度で、その中にひときわ大きな建物が一軒建っていた。
「レイ、一回私の家に寄っていい?」
少女は僕に問いかける。特に断る理由は見つからないため
「うん、大丈夫だよ」
女の子の家に伺うのは久々だから内心ドキドキしていた、だって僕十八歳だもん。
「あそこの大きい建物が見えるでしょ? あそこだよ」
マリナが指さす先は、先ほど目を引いた大きな建物だった。この集落の長の娘なのだろうと考えているうちに建物の前に到着した。
「個人宅というよりかは教会って感じがするな」
そんな僕の独り言には目もくれずマリナは家に向かっていくため、僕も後をついていく。
――ガチャッ
多分マリナがドアを開けたのだろう。僕は視線を前に向けると驚きの光景が待っていた。
「マーリーナーお姉ちゃぁぁぁぁぁん!」
おおよそ二十人ほどの子供たちがマリナに向かって走り出してきたのである。自宅だと思っていた僕は思考が追い付かず凍り付いてしまった。
「えっと…… マリナ、この子たちは皆マリナの兄弟?」
「そんなわけないでしょ…… 全員マダムに保護されてきた子たちだよ」
説明を受けてもよくわからないため周囲を見回していると、奥にはマリナと同い年くらいの子供たちがいた。ということはあの子たちも保護されている子なのだろうか。そんなことを考えていると、向こうからその子たちはこちらにやってきた。
「お帰りマリナ、ところで後ろにいる人誰?」
「ただいまアンリ。この人はレイ、遭難したから食料が欲しいんだって」
マリナが話している子は先ほど奥にいた子供たちの一人で、金髪の女の子だった。マリナがアンリと呼んだ子はマリナと話しながらも僕をにらみつけている。
「マリナッ! おっかえりー」
「お……おかえりなさい」
今度は男子二人組が話しかける。丸刈りで元気そうな子と、眼鏡をかけている内気そうな男の子だ。呼び方からして全員年が近いのだろうと実感する。マリナのただいまと返している表情を見るに、仲が良いんだなと思っていると、奥から少し年老いた女性の方が歩いてきた。
「おかえりなさいマリナ。ところで、後ろの方は?」
「ただいま戻りましたマダム、この人はレイです。
何やら道に迷って食料が尽きてしまったらしく、ここまで案内しました」
マリナがマダムと呼ぶ人物がまとっている雰囲気は重く、僕は凄まじい緊張感を覚える。流石に黙っているのも申し訳ないと思い、緊張しながらも口を開けた。
「いきなりお邪魔してすみません、冒険者のレイっていいます。
道に迷っていたところ、こちらのマリナさんに助けていただきました」
重苦しい雰囲気が続く中、マダムは不意に表情を緩めて
「そうでしたか、疲れたでしょう? 今日は泊まってください」
マダムはにこやかな顔でそのままマリナに視線をそらして
「マリナ、レイさんを部屋まで案内してあげなさい」
「分かりましたマダム」
マリナは頷き僕に視線を逸らし、移動を促すが僕はマダムに感謝を伝えていないため、マリナを引き留める。
「マダム、ありがとうございます。明日何かお礼をさせてください」
「大丈夫ですよ、今はまずゆっくり休んでください」
優しく微笑むマダムを背に、僕はマリナについていった。
***
僕が宿泊する部屋は二回の奥だった。埃が付着している様子もないため、非常に管理が行き届いていることを実感する。僕はベットに荷物を下ろし、マリナに話しかけた。
「案内ありがとう、ところでマリナはマダムの娘さんなの?」
「マダムは私のお母さんじゃないよ、詳しい話は明日してあげるから今日はとりあえず寝なよ」
僕はマリナに睡眠を促されベッドに転がった瞬間疲れが押し寄せてきた。確かに遭難してから長いこと歩き続けてたから仕方がない、体はとっくに限界を迎えていたのだろう。
「分かったよマリナ、今日は本当にありがとう」
マリナは微笑み部屋を後にする。すこし部屋を見て回ろうとか考えていたが多分無理だろう、なんせ睡魔がすぐそこまで来てるんだから。僕はそのまま睡魔に身を任せ、深い眠りへと落ちていった。
***
私はレイを背にして部屋を出る。本人は気づいていないだろうが、山から集落まではかなりの距離があり、疲れているのは仕方がない。案内を終えた私はとりあえずマダムのところへと向かっている。マダムが急に笑顔になるときは必ず裏があると知っているからだ。
「私何か悪いことしたかな?」
心に恐怖感を抱えながらも私は歩みを緩めず、表情も変えない。私がここの最年長であるため、子供たちに心配を与えないよう自然と身についてしまったのだろう。そんなことを考えているうちにマダムの部屋についてしまった。
「うーん、やっぱり入るの怖いな……」
私は覚悟を決めるときにこっそりやっていることがある。それはほっぺを引っ張り笑顔を創ることだ。これをやればどんな時でも落ち着くことができる、多分。しかし、そんなことを長々やっていたからだろう、不意に
――ガチャッ!
大きな音を立ててドアが開いた。もちろん私はほっぺを引っ張ったままで、世にいうあほ面という状態である。
「マリナ……あなたは何をしているのですか?」
私の頭は真っ白だ、当然そんな質問に答えられるわけがない。私が固まっていると、マダムはあきれながらも話を続けだした。
「まあそんなことはいいので、中に入ってください」
入室を促された私はそそくさと部屋に入り、同時に鍵をかけることも忘れない。これはマダムから言われている謎のルールで、守らないと本当に怒られる。鍵を閉め、席に着いた私は口を開く。
「ところでマダム、私に何の用ですか?」
「あら、話が早くて助かります。要件はレイさんのことです」
マリナは顔には出さないが、だろうなと思いつつ話を続ける。
「レイがどうしたんですか? なにかまずいことでも?」
マダムは一瞬表情をこわばらせた気がしたが、何事もなかったかのように話を続ける。
「特に問題はありません。要件というのはお礼のことです」
「お礼? ああ、レイが言ってたことですね」
マダムはレイから何を対価としてもらうのだろう。内心考えたくもない。
(マダムなら、周囲の木を切り倒して来いとか普通に言いそうだな……)
しかし、意外なことにマダムの口から出た要求は軽いものであった。
「明日にこの教会の床掃除を行うように伝えといて下さい」
「えっ? それだけですか?」
「マリナは私のことを鬼かなんかだと思っているのですか……」
なんと宿泊の対価はそれだけで十分らしい、何か変なものでも食べたのだろうか。ひとまず要件はすんだらしく、マダムは退出を促す。私も特に断る理由はないため、そそくさと部屋を出ようとした際、マダムが不意に話し出した。
「最後は私が適切に対処します、あなたも深入りはやめておきなさい。」
「分かりました、マダム」
最後の言葉はよくわからないが、とりあえず返事だけはしておく。
(別にレイに対して深い感情なんかないんだけど)
そのまま部屋を出て広間まで行くと、秒針は午後六時を刻み込む瞬間だった。晩御飯の時間は五時半のため、少しばかり過ぎている。
「ありゃりゃ、遅れちゃってる」
とりあえず私は食堂を目指して歩き続けた。
食堂ではまだ何人かの子供が食事を楽しんでおり、その子たちをアンリがまとめていた。アンリは楽しそうに笑ったり、食器で遊ぶ子供たちに対して怒ったりしてせわしなく表情を変えているようだ。
「お疲れ様、アンリ。私も手伝うよ」
「あらマリナ、ありがとう」
二人はその場にいた子供たちの世話をし続けていると、時刻は午後六時半を迎えてしまった。私は疲れた体を動かし、恐らくもっと疲れているであろうアンリの分のご飯も用意し、二人で落ち着いた夕食を取り始めた。
「ようやく……落ち着いた……」
「お疲れ様アンリ。ごはんよそってきたよ」
普段子供たちをまとめるのは私の仕事であるため、慣れていないアンリは相当疲れただろう。これを機に私の苦労も知ってくれるといいのだが。
「ところでマリナ。レイは何者なの?」
突然アンリが口を開く。パクパク、もぐもぐしながらもマリナは答え出す。
「本当に遭難していただけ」
「へぇ、本当なんだ?」
「え? 嘘ついてると思ってたの?」
「別に? マリナは優しいからかばってるんじゃないかって思っただけ」
マリナはそのままくだらない会話を続けようと思ったがアンリは相当疲れていたらしく、二人はそれ以降言葉を交わさず夕食を平らげた。そのまま食後のおやすみの挨拶を交わし、私はアンリと別れ自室へと向かった。
***
「はあ……なんか疲れたな」
マリナは自室のベッドに転がり、天を仰ぎ見る。満腹感と疲労感が同時に押し寄せてくるため、今にも睡魔に負けてしまいそうになるが鋼の意志で私は起き上がった。
「とりあえず、〈アレ〉やろうかな」
〈アレ〉とは私が最近こっそりやってる遊びで、つい先日発見した。正直私もよく分かっておらず、現状判明しているのはバチバチしてうっすら光るということだけであった。
「来た来た! このバチバチする感じ!」
私の手が薄く光り輝くと同時に確かなしびれる感覚が生まれる。正直気分の良いモノではないが、今は光っている手が綺麗という感想が勝っている。暫くバチバチさせた後、マリナはあることを思いついた。
「もっと上手に光らせて、いつか孤児院の皆に見てもらいたいな!」
マリナは密かにかわいらしい目標を抱き、目を輝かせながら〈アレ〉に取り組む。しかし、当時のマリナはレイとの出会いが始まりではなく、終わりであることを知る由もないのである――。
おはこんばんにちは、マキシ・M・太郎です。
合間を縫って連載を始めましたが、非常に大変ですね。書き方の知識も乏しいので時間もかかります…
更新頻度は遅いですが、これからも気ままにやっていこうと思います。