しんと優依
「終わったよ。しん」
「悲しい作品になった。」
「共同だったからね」
「彼女も似たような傷の持ち主だった。」
「不妊って、辛いね。ほんとうに、辛い。悲しいね」
優依は泣きながら、しんに抱きついた。
「心も体も磨り減るんだよ。人を憎んだり、幸せも願えなくてね。ただ、それから解放されてしまいたい自分もどこかにいた。彼女も、俺も、同じだった。だから、作り上げた作品がこれだった。また、共同で作ってみたい。それぐらい、似ていた。」
「しん、辛かったんだね」
「俺なんかより、世の中には辛い人はもっといるよ。」
「でも、しんと梨華さんはスタートラインにも立てなかったって話してくれたよね。梨華さんもしんも…。」
「そうだね。だって、俺は精子がなかったし、梨華は排卵出来なかった。卵も刺激しても大きくならなかったったみたいでね。スタートラインには立てなかったと言って泣いたね。」
「それでも、諦めたくなかったんでしょ?」
優依は、俺をさらに強く抱き締める。
「そうだね。例え、医者に駄目だと言われても諦めたくなかったんだよ。でも、その選択は梨華と俺をどんどん苦しめたんだよ。その度に、卑屈になって、恨んだりもしたんだ。でも、それが人間なんだよ。望んだ人間の姿なんだよ。」
「しん、辛かったんだよね。僕が、ずっと傍にいるからね。だから、大丈夫。もう、苦しまなくていいから…。」
「優依だよ。俺が、彪伍をイメージしたの!」
「そうなの?」
「いつだって、俺のイメージには優依がいるよ。」
俺は、優依の髪を撫でる。
「しん、まだ苦しんでる?」
「禁断の愛だよね。難しいものだね」
「僕を書いてよ」
「俺の中で、優依はそんな事をしない人なんだよ。だから、優依で書けるかな…。イメージが沸かないんだよ」
「それでも、書いてよ。僕が、ちゃんと説明するから…。だから、書いてよ」
「わかった、頑張ってみるよ」
俺は、パソコンを開いた。
「blog?」
「うん」
「何見るの?」
「これだよ」
「あっ!りーたんって梨華さん?」
「そう」
俺は、コメントを確認する。
「欠けたピースは戻らないの話を見ました。素敵な作品でした。母親を許していこうと思えました。お付き合いしてる人も前を向けると言っていました。前を向いていく作品を作っていただきありがとうございます。これからも、りあのさんとしんさんの作品を見ます。だって、よかったね。でも、何で?blogに書いてくるの?」
「わざとなんだよ!俺にも、ファンがいるんだよーって言いたいらしいよ。梨華は…」
「へー。優しいね」
「そうだろ!一番目のファンは、梨華なんだ。ずっと、梨華なんだよ。」
「そうだね!二番目のファンは僕にしててよ。」
「そうだよ!優依だ。俺は、今、優依と梨華の為に書いてる。その作品が、誰かの胸に灯りを灯す作品になってる。それだけで、救われるんだ。これで、食べていくつもりはなかったよ。食べれなくてもよかった。俺は、梨華への謝罪と梨華の世界を幸せにしたいだけだったから。そんな俺を優依が見つけてくれた、ありがとう。感謝してる。優依のお陰で、俺の世界は広がったんだよ。俺を見つけてくれてありがとう」
「しん、愛してる」
「それで、俺を縛り付ける?」
「なわけないじゃん。それは、【温度】の話でしょ?僕は…」
「縛り付けない?」
「縛り付ける。」
「何だよ、それは」
「違うよ!僕以外、好きになれないように縛り付けるの」
「それなら、大歓迎だよ」
そう言って、俺は優依を抱きしめる。
「本当に?」
「愛されたうえで、縛り付けられるんだろ?嬉しいよ。こんな綺麗なマッシュルーム君に愛されて俺は!」
「もう、マッシュルーム君じゃないよ」
「マッシュルーム君だよ。」
俺は、優依の髪を撫でて、その頭にキスをした。
「しん、恥ずかしいから」
「優依、愛してる」
「あー。そうやって、僕を縛り付ける」
「愛があるなら、大丈夫だろ?」
「孝輔みたいには、しないでよ」
「しないよ」
優依は、俺の首に手を回した。




