【温度】⑱
カラオケで、盗聴器を再生したー
「よかった、孝輔。」
「俺もだよ、桜」
「旦那は、うまくないんだよね。気持ちよくないの…。なんか、必死なのがうけるんだよね。孝輔は?」
「俺もだよ。嫁は全然だよ。やったって気持ちよくないからさ」
「私の事好きだから、必死なんだよね。愛してるって言っとけば何にも疑わないし」
「わかる!俺も同じ。愛してるって言えば嬉しそうにしてるわ」
「だされたって妊娠させれないのに、馬鹿みたいに必死すぎてうける」
「わかる、わかる。俺も同じだから…。妊娠しない身体なくせに、性欲は強いんだよな」
「わかる。男性不妊ってわかってたら結婚しなかったし」
「俺もだよ。不妊だってわかってたらしなかったよ。人間として欠陥品過ぎるだろ?」
「わかる。よく、そんなんでしたくなるよね。欠陥品だわ!」
「桜」
「孝輔」
それから、二人がしてる声が響き渡る。
気を利かせて、一輝だけが、それを聞いた。
「桜、早く妊娠しないかな?」
「孝輔の子供、早く欲しいよ」
「桜、早く結婚しよう」
「うん」
「孝輔、奥さんの事愛してる?」
「愛してるわけないじゃん。あれは、人形だよ。桜は?」
「私も人形だよ。だって、孝輔と出来なくて疼く身体を冷ませない日があるじゃない。私、一人でしたくないし。わかるでしょ、孝輔?」
「わかるよ、俺も同じだから」
そう言いながら、二人は笑い続けていた。
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「どうしたの?一輝」
一輝は、頬に流れる涙を拭われていた。
昨日、聞いた音声が頭を流れていた。
「少し、休む?」
「体調悪い」
「お水、持ってくるね」
桜は、部屋を出てお水を持ってきた。
「もう、休んで。一輝」
「ごめん」
桜は、部屋を出て行った。
一輝は、スーツケースに物をつめる気力もなくなってしまった。
お水を飲んで、ゴロリと横になった。
散々、酷いことを言ったのに、自分を抱くのは玩具だからだろうか?
手放したくないのは、玩具だからだろうか?
一輝は、身体を丸めて泣く。
彪伍の匂いがするシャツを抱きしめる。
「もう、許して」
そう言って、目を閉じる。
画面は、花香に切り替わった。
花香もまた昨日聞かされた音声が頭から離れなかった。
「少し休んだら、花香」
「体調悪くて」
「うん」
孝輔は、花香の涙を拭ってくれる。
「休む」
「お水持ってくる」
そう言って、孝輔はお水を持ってきた。
「ゆっくり休んでるといいよ。晩御飯は、シチューがあるから」
「ごめんね」
「大丈夫」
あれだけ、自分の事を酷く言っておきながら自分を抱くのは玩具だからなのがわかっていた。
「愛してる」と言ってあげれば、都合よく身体を差し出してくれるのだ。
おまけに、妊娠までしない。
何て、便利な玩具なのだ。
だから、孝輔は自分を繋ぎ止めようとするのだ。
流産をした時に、私が言った言葉の数々が許されないのだと思った。
酷いことを言ったから、許されないのだ。
花香は、ワンピースを引き寄せて抱きしめる。
「助けて」
花香は、泣きながら目を閉じる。
一輝と花香は、同じ事を思った。
【昨日のあの空気と温度の中に戻りたい。何者でもなくいれた場所。息をしてるだけで、許された場所。縛り付けられなかった場所。欲望も悪意もなかったあの目に、あの手に、もう一度、触れたい。でも、こんなにも汚れてしまった。今更、手を掴んで逃げられるわけないよね】
互いの左手に光、結婚指輪はまるで鎖のようだった。
自由になる事は、許されない。
誰かを愛する事は、許されない。
ただ、ただ、老いていくだけだ。
ここで、人形としての寿命を終えていくだけ…
別に、不倫していてもよかった。
そこに、自分への愛が少しでもあるなら…。
一輝も花香も、どこにも逃げられない絶望を感じながら眠りについた。




