彷徨時制
その日はきれいに晴れ上がった1日だった。庭先の蒲公英の毛色が濃く湿る旧友たちはとてもエロティックだ。郵便受けに顔を入れ、昨日の新聞と一緒に部屋に招き入れた。椅子に腰掛け窓辺の主人公、四十雀が頬を白く化粧して舞い踊る。落花生を剥き、磨り潰したものをフェンス近くの古巣に近づけて投下する。界が違えど、彼らは至って友好的だった。前日の新聞にざっと目を通し、新しい新聞紙を右手に、右手ではない方に大好物のシベリアを取って深く椅子に腰掛けた。
その日は綺麗に晴れ上がった1日だった。庭先に咲いている彼岸花の雄蕊から滴る水が手にもつライトに反射する。静かに郵便受けに手を突っ込むと「イッッ・・・!」と声が聞こえたので、中を照らすと、その主のはポストの中に潜んでいた。蜂だ。「急に手を突っ込むものだから、驚いてしまって。」不意に顎づけ・・・いや、界が違えどここはリッチに。「口づけしてしまったものだから動揺してしまって。」庭先の蒲公英を切り取って蜂の口元に差し出すと、長ーい口でみるみると蜜を吸い取った。ストローの外側から見える筋の影を捉えた。それに其奴は至って丸顔だった。朝目が覚めて歯を磨き、殺風景な窓辺に近づくと彼岸花が一輪が生えていたのでもしかしたら、と。郵便物を確認するように出来るだけ平静を装って、中身を開く。
その日はきれいに晴れ上がってほしい1日だった。圧倒的な蒸し暑さに夏の虫たちは何かの前触れではないだろうか。すっかり地球から宇宙へ逃げ去ったかのような静寂だった。そんな中、蓼虫が生態系を保つのようにあの場この場と、生息地域を移動し、旅してるそうだ。ナマケモノから言わせてもらうと、何故そのような原動力がプレゼントするのか理解できなかった。しかしこんな理解できないことは何も考えない方がましだ。そう。認識体系を見直し諦念を発動。逃げ道を知らないでいるが、先人が死ぬまでに、いや宇宙規模で言えばほんの一瞬の幻像に過ぎないが。つまり死に際にボソボソと残していったものがある。
その日はきれいに晴れ上がった1日だった。