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003 意外なお相手?

 書斎へ通されると、テーブルの上に書状が置かれていました。私は父に促されるまま向かいのソファーに腰掛け、その隣にアルドも座りました。


「アルドも来たのか?」

「はい。ベル姉様に婚約のお話とのことで、あまりにも嬉しくついてきてしまいました」

「大した話ではない。しかし、アルドも世話になった御人だからな。まぁ、聞いていきなさい」


 父は書状を手にすると、内容を端的に話しました。


「これはアーノルト辺境伯からだ。ベルティーナ=ロジエをアーノルト家へ迎え入れたい。と書かれている」

「私でよろしいのですか?」

「ああ。お前の名が書かれているからな」


 父は当たり前だと言わんばかりに真顔で答えました。私の名が書かれていれば、私への婚約のお話になるなんて常識が、この家にあったことに驚きました。

 因みに、アーノルトの領土はロジエ領の五倍はあります。辺境伯の名に相応しく、国内随一の騎士団を保有し、経済的にも権力的にも両親が飛び付きそうな名家にございます。


 しかし、父は深い溜め息を吐きました。


「全く困ったものだ。前回の婚約者候補は次男坊。今回はなんとアーノルト辺境伯だ。ベルティーナに来る婚約も落ちぶれたものだ」

「い、今、どなたとの婚約だと仰いましたか?」

「だから、隣の領地のアーノルト辺境伯だっ。もう病で長くないそうでな。旅立つ前に、ベルティーナを一族に迎え入れたいと書かれている」


 それは、同い年のヨハンではなく、そのお父様であるアーノルト辺境伯様の後妻と言うことでしょうか。

 意外なお相手からの婚約話に、私が呆気に取られていると、隣に座るアルドが大声をあげました。


「はぁっ!? 父上っ。ご、ご高齢のアーノルト辺境伯様にベル姉様を嫁がせるおつもりですか!?」

「それは気が引けるが。会わずに拒否することも無礼極まりない。アルドの師でもあるのだからな。一度お会いして……断れば良い」


 断っても良い。そんな言葉が父から出るなど想定外でした。後妻だとしても、アーノルト家と繋がりが持てるのであれば、喜ぶのだと思っていましたので。


「お断りしてもよろしいのですか?」

「当たり前だ。ベルティーナ、お前がいた方が我が家に二倍の婚約の申し込みが来るのだぞ。最近は大分家格が落ちてはいるが、まだ分からん。お前がいた方が、カーティアをよりよい名家へ嫁がせるチャンスが増えるではないか」


 やはりカーティアの為なのですね。

 一瞬だけですが、期待してしまった自分を平手打ちしてやりたいです。


 ですが、今まで一度もカーティアへ婚約の申し込みなど来たことがないのですから、正確には二倍ではありませんが、父が二倍と言うならばそれでいいでしょう。


 アルドは隣で頭を抱え「違う、違う……」と呟いていますが、私はこの婚約を成立させて、この家を出ようと決意しました。

 あれだけ妹と両親が好き勝手に私の縁談を壊しておいて、今後通常の縁談など来るはずもありませんし、もう、家族に利用されるだけの私ではいたくありませんので。


 ◇◇


 書斎を出るとアルドは雄叫びをあげました。


「ぁぁあああっ! 聞いていた話と全く違うんです。なんでベル姉様が後妻に? 僕、ヨハン様に確認しに行ってきますっ」

「え、ええ。気を付けていってらしてね」

「はいっ!」


 アルドは物凄い勢いで廊下を走り去っていきました。

 一体ヨハンとどのような取り決めをしていたのでしょうか。


 分からないことだらけですが、それについて思案する暇は、私にはありませんでした。廊下の奥から、こちらへ駆け寄ろうとするカーティアの姿を捉えたからです。


「お姉様っ。ご婚約のお話ですって?」

「ええ」

「ドレスが必要でしょう? お会いするのは一週間後と聞きましたの。仕立てる時間もありませんし、私のドレスを貸してあげますわ。部屋にいらして」

「ありがとう。カーティア」


 私はカーティアに腕を引かれ久しぶりに妹の部屋へと行くことになりました。


 ◇◇


 妹の部屋は屋敷で一番広い部屋です。

 二階の南側の部屋なので、日当たりもよく裏の庭園が見渡せる素敵なバルコニーもあります。

 昔はこの部屋の半分が私の部屋でしたが、妹が狭いとごねたので私は部屋を移動することになりました。


「お姉様。どれにします?」


 妹がクローゼットを開くと、色とりどりのドレスが並んでいました。ざっと見て三十着はありそうです。二十五人斬り達成との裏新聞情報は何だったのでしょう。もっとあるではありませんか。


「お姉様は顔が地味だから、青系のドレスが良いかしら?」

「そうね。でも……」


 何でしょう。この胸元の露出が酷い下品なドレスは。

 これだったら夜会用ではありませんか?

 私が持っている夜会用のドレスの方が上品です。 


「あっ。お姉様の体型だと、胸の辺りが寂しいですわよね。でも、これくらいなら一週間以内にお直しできますわ」

「あまり趣味ではなくて。もう少し露出の少ないドレスはないのかしら?」

「ええっ!? 今の流行りはこれですのよ。やだぁ。お姉様って古くさぁい」


 妹が下品なドレスを手に馬鹿笑いしていると、扉が開き母が入室しました。


「カーティア。ベルにドレスを貸すと聞いたのだけれど?」

「ええ。お母様。でも、お姉様に合う様な古いドレスがなくて困ってましたの」

「あら。それなら私の昔のドレスを貸してあげるわ。アーノルト辺境伯様も昔のドレスの方が趣味に合っているかもしれないもの」

「そうね。お姉様は後妻ですし。ふふふっ。さすがお母様だわ!」


 二人は仲良くキャッキャッし始めました。

 妹のドレスよりは良いかもしれません。



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