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010 ロジエ伯爵家にて

 アーノルト領から帰宅した両親は、とてもご機嫌だった。まるで凱旋したかのように堂々としていて、僕に満面の笑みで土産をくれた。


「アルド。契約書だ。お前のことも書かれているから、エイベルから説明を受けなさい」

「はい。承知しました。あの、ベル姉様はどちらですか?」

「ふふっ。ベルティーナなら、アーノルトへ置いてきたわ。式は一ヶ月後だそうよ。もう辺境伯が長くないらしくて、急いでいるみたいなの」

「そ、そうですか……」


 同行した執事のエイベルを残し、両親は笑い合いながら廊下を過ぎていった。アーノルト辺境伯様に対して失礼にもほどがあるけれど、ヨハン様の作戦は上手くいったようだ。



 自室へ移動すると、エイベルは部屋に鍵をかけた後、契約内容のご説明をします。と言ってソファーを指し示した。


 執事のエイベルはロジエ伯爵家の筆頭執事だ。

 先代の頃から財産の管理を担当していて、僕の家庭教師の選定も、アーノルト辺境伯様へ師事することを決めたのもエイベルだ。


 エイベルは胸ポケットから虫眼鏡を出すと、契約書を封筒からテーブルの上へ取り出した。


「何だ……これ?」


 僕は契約書を見て絶句した。字、ちっさっ!?


「先程交わした契約書にございます。読み上げますね。マルセル=アーノルトは、ベルティーナ=ロジエに対して、ヨハン=アーノルトとの婚姻の申し込みに関して次のとおり誓約する――」

「ん?」

「何か?」

「冒頭から凄いこと言ってるけど、それを父が納得したのか?」

「はい。目を凝らして何度もご覧になって、ご快諾されました」


 エイベルは穏やかに微笑んで答えた。

 それ、読んでないってことだろ。


「エイベル……は、契約書を――」

「勿論。熟読いたしました。お嬢様のご婚約は円満に結ばれ、領間での優遇措置も大変魅力的にございます。これはロジエ家にとって最良の契約案件にございます。先代の頃より、アーノルト辺境伯様とは懇意にさせていただいております。関係が修復でき喜ばしく存じております。これもアルド様のご尽力の賜物ですね」


 ヨハン様はエイベルにも手を回してたのか。

 まぁ、エイベルなら、父よりもロジエ家の未来を優先させるってことは、僕もわかっていたけど。


「僕はほとんど何もしていないけどね。でも、こんなにはっきり書かれていたら、流石の父も気付くのではないか? 婚約破棄とか言い出されたら面倒だな」

「続きをお聞き頂ければ、その心配は無くなります故、読ませていただきます」

「ああ。頼む」


 さて、どんな内容が書かれているのやら。

 ヨハン様、容赦のない人だからな。


 ◇◇


「ええっ!? それって、私は第三王子様をご紹介いただけるってことかしら!?」


 夕食の席でティア姉様は歓喜の声を上げた。

 それは高望みし過ぎだろう。

 僕は呆れ返って食事の手が止まってしまったけれど、両親は姉の言葉に力強く頷いていた。

 確か第三王子はティア姉様と同い年だけれど、病弱で学園にも通っていない。

 それに――。


「第三王子様って、噂によると記憶力が良くて一度読んだ書物を全て暗記してしまうといわれる神童でしたよね。ティア姉様では流石に荷が重いですよ。もっと知的で品のある女性を好むと思います」

「ちょっと! 姉に対して失礼よ。それに、知的で品があるって、華やかさがない地味な女を誉める時に使う言葉でしょ。アルドも考えが古くさいのよ」

「ふ、古くさいって。僕の方が若いんですけど」

「じゃあ、紳士淑女に関しての勉強が足りなくてよ。第三王子様こそ、私の運命の王子様なの! お互い病弱だったのだし、話が合うと思うわ。今までお話が来た方って、私が幼少期に苦しんだことも理解してくださらないし、包容力に欠けた方ばかりだったのよね」

「そうね。今度こそ、カーティアと釣り合いそうだわ」

「親戚に王族が加わるとは、今までの縁談を見送ってきて良かったな」


 ティア姉様の妄言に両親も加担した。

 釣り合うわけねぇーだろぉ。

 って僕は心の中で雄叫びを上げた。

 頼むから王族にだけは手を出さないでくれ。

 折角ヨハン様がロジエ領の未来も考えてくださっているのに。


 これ以上、ロジエ家の名を汚さないでくれ。



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