帰るまでが競技会
後夜祭が終わり、夜も明けて、全員が朝食を食べ終わると帰る時間となった。
「此処ともお別れだな」
「長かったな」
「色々あったからね。事件が立て続けに起これば気付かれもするでしょ」
太陽と辰馬は作業車の前でのんびりと駄弁っていた。出発までは時間があるし、もう急ぐ必要もないので機材を全て詰み込めば仕事は終わりである。機材が重くても怪力が二人がいれば積み込みもスムーズに済ませられる。数分すれば全部積み込み終わった。
「そういや、何で昨日は我妻さんと踊ってたんだ?」
「んー、いや、余計な事をした責任を取ろうと思って」
「だから、何故踊る?」
「初めの儀式だよ。我妻さんは混じり気はあるけど黒帯が使えるからね。少し難易度の高い方をやらせてみた」
「あー、確かに俺もやったな」
太陽との修行の入門編の所を思い出して納得する。踊りはしなかったが手を繋いで、体の中の霊子の流れなんかを整えたり作ってくれたりした。今では霊子操作で大抵のことができるようになったため、魔法の腕が下がってギリギリでの入学になってしまった。
「そういや娘の方はどうすんだ?」
「もう、爺様が家に送ってくれたよ」
「寂しいんじゃない?」
「当たり前だろ。今も体が朝華を求めているんだ」
「キモ」
「ガチのトーンはやめろ」
太陽と辰馬はじゃれ合いながら出発時間まで待つ。出発時間になると機材の入った作業車に乗り込んで学校へと向かう。作業車には他に技術者の先輩も乗り込む筈ではあったが、何故か家の用事で先に帰る人間が多く、太陽と辰馬の貸し切り状態になった。移動中はする事もないので太陽は自分の実験品を弄り、辰馬はその様子を観察していた。
「ハードの方は弄らないんだな」
「そっちはこの状況での改良は無理だ。ソフトの不備がなく、核が動けばこいつは動く。無理に弄って能力を落とす必要はない」
「ソフト見直す必要はあるのか?」
「正直、暇潰し以上の意味はない」
無駄な事をやっている自覚はあるのか太陽は微妙な表情をしていた。
太陽は部分的な調整を終わらせると、それを辰馬に渡す。元々、実験は試合後に行おうと思っていたので近くにはドライバーしかいないここで実験を行う事にする。
「何にしようか?」
「無難な奴で頼む」
「うーん、牛は試したし。鷹は場所が足りないし、猿にするか」
太陽は猿が描かれた金属のカードを渡す。それを辰馬はバックルに差し込んだ。霊子をバックル内に充填させて側面のスイッチを押し込む。
「変身」
辰馬の呟きと同時に彼の全身にアメーバの様なモノが広がり、それが弾け飛ぶと同時に茶色いアーマーに猿の様なフルフェイスヘルメットを装着した人間が出て来た。
「どんな感じ?」
「取られる感じはあるけど二時間位はこれで行けそう」
「鍛えた奴等は一時間位かな?」
「人に寄るだろ。ただ、運動能力なら格段に向上した気がするな」
「外していいよ。これ以上は後日やった方が効率がいい」
辰馬が側面を長押しするとアーマーとヘルメットが液体になり崩れた。そこにはいつもと変わらない辰馬の姿があった。
「消耗はそうでもないな」
「お前が成長したからだろうね」
「真面目に鍛錬していた甲斐はあったな」
アーマーの実験は何回か試しても特にバレる事はなかった。そのまま途中で寄り道しながら数時間かけて伊月高に戻って来た。
✿ ✿ ✿
「あー、やっぱり座ったままってのは肩がこるね」
「そうですね」
朝日と琴乃は肩を解しながらバスから降りる。
「そうかな?」
「まぁ、朝日達には重い物くっついているし」
「そうだね」
「うん」
ジーっと自分達の胸部に注がれている視線からソッと隠す。彩の視線はそれで切れたが月隠姉妹は隠された朝日の傍へ寄っていく。
「ぬぅ」
「ふくらみに格差を感じる」
「羨ましい」
「ええい、鬱陶しい」
朝日は引っ付いてくる姉妹たちを弾き飛ばして作業車の方へ向かう。太陽が作業しているのでうかつに近づけば手伝わされるかもしれないから、忌避するように逃げていく。
「うん、朝日か」
「ちょっと、逃げてきました。何か手伝いますよ」
「そうだな。そっちのケースを運ぶの手伝ってくれ」
「はい」
測定用の装着具が入ってケースの山を朝日に任せると、太陽はそこそこ重い測定具を小脇に挟んで持っていく。朝日も十個くらいのケースを台車に積むとそれを押して太陽についていく。
「もう、解散だっけか?」
「そうですね。早い人は帰り始めてるね。私も早く帰りたいです」
「作業してると汗かくだろうしシャワーでも借りてくると良い」
「セクハラですね」
「これもそうなんのか」
太陽は気を付けないとと心の中で思った。それはそれとして持ってきた物を保管する備品準備室に入ると先客がいた。
「お疲れさん」
「お疲れ」
「お疲れ様です」
先客には辰馬と心美がいた。どうやら心美も辰馬を手伝いに来たらしい。太陽と朝日はそれぞれに備品を置くべき場所へおいていく。それを何回か繰り返し、最後に備品の総数を確認し、施錠する。最後は鍵を事務室に返して、内容を報告することで太陽の仕事は完全に完了した。
「終わった。終わった」
「帰りますか」
「はい」
「アイスでも食べよう」
辰馬と太陽はそれぞれの妹に手伝ってくれた報酬を渡す。
「この後、どうしましょうか?」
「夏休みは続くしな。あいつらの宿題でも手伝おうかな?」
「手伝い過ぎてもですね」
「難しい事だ」
駅に到着すると個別列車にそれぞれ行き先を指定して帰路につく。数分で家の最寄り駅に到着した。
そこからスーツケースを引っ張って疲れた体に鞭打って家の前までくる。扉を開けると。
「「ただいま」」
『『『おかえりー!』』』
太陽と朝日の帰宅を家族は暖かく迎えてくれた。これでようやく太陽達は返ってくる事が出来た。




