後夜祭その3
太陽はする事ないのでボーっとしている。正直言えば、太陽はこういった学校行事に興味はない。参加理由は兄妹に会えそうだからと、妹達の為だ。競技に関しても契約上命令に従う相手には従うという原則を守ったに過ぎない。なので、ご馳走を食べ終わった太陽はやる事もないので呆けている。妹達へのナンパに関しては、彼女らは自衛できるし爺さんとの関係があればどうにでもなると考えている。
(あー、飛行魔法のデバイス、内蔵できる術式を限定しないとどっちも動かせなくなりそう。飛行魔法単体で動かすしかないな。アレは他と混ぜ合わせると相性悪いし)
呆けていると考えなくてもいい問題を考え始めるのは人間の特徴だろう。
(黒帯への追及は弾き返そう。説明してやる理由はないし、国防軍への技術提供に関しては問題なく実行済み。十二家は、まぁいいや)「…さん」
(朝華はバランスが良い食事を取っているのだろうか。爺さんが甘やかさないと良いのだけど)「…ようさん」
(それにしても鶏肉のソテーは美味かった。レシピは知らんが柑橘系のソースが良い味を出してたな。真似したい)
「太陽さん!」
「…はい?」
「大丈夫ですか、何もない所を見つめてて」
いつの間にか琴乃が近くに来ていた。近くに来ていたのに知人の気配を感じ取れず少しびっくりしていた。
「ああ、大丈夫。それより、会場はダンスパーティーなんだろソッチいかないの?」
「何と言うか、知らない男性と踊るのって気が引けて。太陽さんは何故外に。他の兄妹さん達は中に入ってくるのをみましたけど」
「料理は満足だし、ダンスは興味がないし、居る意味ないから抜け出してきた」
「そうなんですか」
「………」
「………」
気まずい沈黙が続く。二人の間には特に何かある訳ではない。精々二週間かそこらのコーチと生徒の間柄だ。太陽としては、勝手な事をやって怪我を負わせてしまった負い目からとても気まずい。
「怪我の方は大丈夫?」
「問題ありません。体は正常らしいです」
「そう。帰ったら一回お医者さんに診てもらうと良い。結構派手に行ってたし」
「はい、そうします」
琴乃は黒帯を使えるようになった。能力的には辰馬よりも上だろう。けれど、正しい使い方を知っていなければ彼女が自分の周りを傷つけることになる。だから、使い方を教えたい。その事についてどう切り出したものか太陽は考えていると、
「あの、太陽さん」
「何ですか?」
「あの、この、黒い奴についてもっとちゃんと教えてもらえませんか?」
「………ええ、分かりました」
太陽は不思議に思ったが責任は持たないとと考えて了承する。
「ありがとうございます」
「俺もちゃんと我妻さんに教えないとと思ってたし、そもそも俺から言い出すべきだったね。ごめんなさい」
「あ、いえ、ありがとうございます」
そこから少し言葉に詰まってしまい、気まずい空気が流れる。
「じゃあ、都合のいい日を教えてくれれば俺が車出すから言ってくれ」
「はい、後で確認してみます」
「で、この後はどうする? ここにいても暇になると思うけど…」
「どうしましょう?」
どっちもこの後の予定は無かったので暫く続く後夜祭で暇を持て余していた。
「……じゃあ、今から修行でもする?」
「へ? ……出来るんですか?」
「少し変則的な方法だけど、ダンスするとこに行こう」
「えっ、あっ、はい…」
太陽は立ち上がると琴乃に手を差し出し、引っ張って立たせる。そのままダンスの為の空間へ近づいていく。
「踊るんですか?」
「まぁ、そうだけど。踊れる?」
「大丈夫です」
「修行のやり方なんだけど。やり方は踊りながら互いに霊子を利き手を通じて流していく。他人に霊子流されたら上手く霊子操れないと思うけど、あんまり出す事を意識しないで感覚としてはたたきつける感じで」
そう言って音楽が切れたタイミングでダンスの場所へ入る。他にも数組が躍るようだが、太陽は目の前の相手の足を踏まない事と相手に合わせることに集中する。
琴乃の方はお嬢様である彩に付き合ってダンスの練習をしたりすることもあるので慣れている。それもあってか自然体でいる。
「慣れてきた?」
「はい」
「じゃ、行くよ」
太陽は強い拒絶反応が出ない様に波長を琴乃に合わせ、薄く弱い霊子を右手から流す。
琴乃の方も太陽に合わせて霊子を流す。彼女は入ってくる霊子にびっくりしたが、違和感が少ない霊子は直ぐに身体全体に広がっていく。踊りながら霊子を操るのは彼女にとっては初めてだったが、コツを掴んだのかターンの時なんかに手の動きに合わせて霊子を送り込む。
琴乃の霊子操作は太陽と比べれば、お粗末なので注ぎきれなかった霊子の光が漏れる筈だがそれは会場にいる人間には一切気付かせてない。優れた魔導師が多い会場内で太陽は全員の目から一切の霊子光が映らない様に活性化していない高濃度の霊子を踊る場所に充満させておくことで、多少の霊子が漏れて光ろうが光が減退するようにしてある。
「うん、順調、順調。俺から入ってくるモノに惑わされないで、自分のだけの正確なパイプを作る感じで」
「え? えっ?」
琴乃は多少焦りながらも、ステップを踏んで太陽に霊子を流し込んでいく。その際に太陽から入ってくるモノも同時に操る事を意識し始める。外からのモノは下へ、自分のモノは心臓の中心へと集める。心臓へ集めた霊子は鼓動と一緒に全身へと送り込む。その勢いのままに霊子を右手に集めて太陽へ送り込む。
そのまま音楽のリズムと鼓動に合わせて太陽に霊子を注ぎ込んでいく。永遠にも感じられた時間だったが、音楽がやっとフィニッシュになり、最後はポーズを決めて終わらせた。




